銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

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第二十一章 世界旅行

みんなのその後

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――フィナの家


 室内にあった四角の木製テーブルの席にフィナを座らせて、私は彼女が落ち着くまで手を握り締めていた。
 涙が止まり、呼吸も落ち着いてくると、彼女は小さな声で礼を述べてから私の手を離し、お茶を用意してくれた。そして、互いに情報交換を行う。

 フィナの説明によると、ここは六十年後の未来。
 遺跡で私が命を亡くした世界。
 そこから六十年の歳月を費やして私を救ってくれたフィナとエクアの世界だった。


 私は二人に感謝を述べる。
「ありがとう、フィナ。エクア。君たちのおかげで私は命を失わずに済んだ」
「うん……うん……ふふふ、感謝しなさいよ。ケント=ハドリー」

 年老い、声は少し枯れているが、フィナは私の知るフィナの口調で言葉を返してきた。
 彼女は過去へ送り出したエクアについて尋ねてくる。

「あの、エクアはどうなった? やっぱり……」
「残念ながら助けることはできなかった。私たちに必要なことを伝え終えると、塵になり、消えてしまった」
「そう、そうよね。聞くまでもなかった……」
「エクアの衣装だけは残っていたので、トーワの一角に埋葬したよ。墓は主に幼いエクアとギウが管理している」

「そうなんだ。あの衣装って、エクアなりのおめかしだったのよ」
「おめかし?」
「ケント様に会えるんだから~ってね。年甲斐もなくはしゃいでた……」
「だからドレス姿で城に」
「変に思った?」
「悪いが、少しな。なにせ、彼女はあの姿で、旅の者と名乗ったんだぞ」

「くすっ、何それ……でも、そんなエクアの言葉に耳を傾けてくれた。お墓まで作ってくれた。ありがとう」
「なに、命の恩人だ。この程度の事当然だろう」
「ふふ」
「ん、どうした?」
「いえ、ちょっと昔を思い出したの? あんたと喋っているとね」
「そうか……」

 
 私はお茶の入ったカップを揺らめかせる。
 そして、波紋を広げるお茶から瞳をフィナヘ向けて、ある疑問を尋ねた。

「あの、フィナ。時間は分岐した時点で交わることなく離れていくんだよな。どうして私は分岐してしまった未来にやってこれたんだ?」
「それは遺跡の転送装置のせいよ。あれは、ただの転送装置じゃない」
「ああ、それは事故に巻き込まれる直前にこっちのフィナが同じことを言っていた気がする。具体的にはどんな装置なんだ?」
「あの転送装置は空間以外に、時間や世界線を移動できるのよ。だから、運用に細心の注意が必要なんだけど」


 ここで彼女はお茶を一口すすり、大きなため息を吐いた。
「はぁ、若いころの私は考え無しに行動してたから。おそらく、ファントムエネルギーを制御しないまま装置を起動したせいで、転送コイルが暴走したんでしょうね」
「ふぁんとむえねるぎー?」
「遺跡の動力源の一種なんだけど、このエネルギーはダークエネルギーの特別な状態で――」
「待ってくれ、そのだーくえねるぎーとは?」

「そっか、わかんないよね。この宇宙には観測しがたいエネルギーやら物質やらが満ちてて、その中でダークエネルギーは空間に付随するエネルギーで宇宙の膨張を加速させてるの」

「う~ん、いまいちわからんが、宇宙には不可思議なエネルギーが存在するということか」
「ま、今の会話は忘れて。特に過去の私には内緒に。こういったことは自分で見つけないと意味がないから」
「わかった、フィナには内緒にしておくよ」
「ええ、そうしてちょうだい」


 そう言って、再びフィナはお茶をすする。
 私はお茶を持つ彼女の左薬指にダイヤの指輪が煌めていることに気づいた。

「フィナ、その指輪……結婚、したのか?」
「うん、まぁね。エクアは生涯独身だったけど。私は、なんとなく」
「なんとなく? 相手は? 子どもは?」
「子どもは三人。娘二人に息子一人。三人とも結婚して孫もいる。ひ孫もいる。子どもたちは現在、旅の錬金術士として活躍中」
「ほ~、家庭を築いたのか。それで、肝心のお相手は?」


「グーフィス」
「えええええええええええええ!?」

 
 まさかまさかの人物に、家がびりびりと揺れるほどの馬鹿みたいな大声を上げてしまった。

 フィナは耳を押さえながら口調強く言葉を返す。
「そ、そこまで驚く!? ってか、耳が。もう、年寄りの心臓止める気?」
「あ、す、すまない。あまりにも意外で。しかしよく、君とグーフィスが。少なくとも私の知る二人の間からはその気配は皆無だぞ」

「う~ん、やっぱりそんな感じかぁ。こっちではあんたを失って以降、私とエクアはあんたを救うために没頭してたんだけど、その間、グーフィスが色々と世話をしてくれてね。で、なんとなく、ま、いっか。そんな感じ」

「なるほど。彼は本当に一途で尽くすタイプなんだな。それで、グーフィスは?」
「今はアルリナへ買い出しに。面倒なことは全部、あいつがやることになってるから」
「一人でアルリナへ? 今の彼は八十を超えているだろう。それをこき使っているのか?」
「こき使っているんじゃないよ。そういう契約の名の下の結婚」

 私は天井を仰ぎ、両目を閉じて彼のこと案じる。
「……グーフィスよ、元は取れたのか?」
「それってどういう意味っ?」
「ふふふ、まんまの意味だ」
「あんたねぇ~……ふふ、本当に懐かしいやり取り」


 不意にしんみりとした空気に満たされ、会話が途切れる。
 私は会話の間を持たせるために、他の仲間たちについて尋ねてみることにした。

 まずはゴリンとキサ。
 ゴリンはアルリナに戻り、あちらで大工仕事を再開し、三十年前に他界。
 キサはスコティと結婚してマッキンドーの森の代表となり、今も現役で起ち上げた保険会社の仕事で忙しいそうだ。
 マフィンは隠居したが、二人が留守の間、森を預かっている。

 マスティフはトロッカーでおさを務め、二十年前に他界。
 カインは旅の医者となり、医療を満足に受けられない村や集落を回り、多くの命を救い続け、七年前に他界。

 そして、親父は……。


「今から五十五年前、親父は二十二議会議長『エナメル=アメロブ=トーマ』を暗殺しようとして失敗。結果、縛り首になった……」
「そうか……彼は単独でアグリスへ」
「うん、誰にも相談することなく、あのバカ親父は……」
「私がいなくなった時点で自暴自棄になったのかもな。しかし、私がいないとエメルは議長になっていたのか?」
「エメル? エナメルのこと? そっちではまさか、親しい仲なの? 親父は大丈夫なの?」

「いいや、親しくもないし、大丈夫でもなかった。親父は感情を抑えきれず、結果的にアグリスと戦争する羽目になったしな」
「はっ!? 戦争? あのアグリスと!?」
「ああ、あのアグリスとだ。なにせこっちは五百人のカリスをトーワに引き連れて行ってしまったからな」
「カ、カリスを!? どうしてそんなことに!?」
「話すと長いが、端的に言えば、親父が暴走し、カリスを保護することになって、アグリスと戦争に。で、勝利した」

「えええええええええええええ!?」


 彼女にとってまさかの答えだったのだろう。
 家がびりびりと揺れるほどの馬鹿みたいな大声を上げる。
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