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第二十一章 世界旅行
ここでは何が起こったんだ?
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――???
視界が黒から景色へと変化していく。
「ここは?」
鼻腔には消毒液の香りが届く。
先に見えるのは、見知った病室。
「ここはトーワの診療室か? っ!?」
そう言葉を漏らした途端、激しい爆発音と振動が伝わってきた。
「な、なんだ!? 一体、なっ!?」
振動にふらつき手を置いたのは医療用ベッド。
そこには、血塗れの私が眠っていた。
「私? すでに事切れている。それに隣には……」
ベッドの隣にはもう一つの医療用ベッドがあった。
そこで横たわっていたのは同じく血に塗れたエクア……と思われる女性。
彼女は私が知るエクアよりも年を取っており、二十歳前後だと思われる。
ベッドには私と大人になったエクアが冷たく横になっている。
「ここは、数年先の未来というわけか? だが、一体何が?」
――駄目ですっ、フィナ君!
診療室の外からカインらしき声が聞こえてきた。
彼はフィナの名を呼び、同時に湾曲するほどの激しい勢いで扉が開いた。
「ケント、エクア!?」
飛び込んできたのはやはりフィナ。
背が少し伸び、顔立ちも体も大人としての魅力に溢れるフィナが、汚れと傷に塗れて私の目の前に立っている。
「フィナ?」
「ケントっ! 無事でよかった!」
「なっ!?」
フィナは私に飛び込むように抱き着き、とても深く濃厚な口づけを交わしてきた。
「むむむむむ、ま、待ってくれ、フィナ!」
強く抱きしめる彼女を引き離し、両手を前にして、諭すように声を出す。
「フィナ、落ち着いてくれ!」
「ケント、どうしたの?」
「いいか、フィナ。私は君の知っているケントではない。残念だが、君のケントは……」
私はゆらりと指先をベッドへ向けた。
そこにいたのは物言わぬ私とエクア。
二人を目にして、一瞬フィナは瞳から光を失うが、すぐに腰につけていたホルスターから自動式拳銃を抜き、私へ向けた。
「貴様何者!?」
「た、頼むからそれを撃つのはやめてくれっ。説明の機会をくれ!」
そう懇願しても、彼女は殺気を纏い、銃口をこちらへ向けたままだ。
そこに親父が焦りの声と共にやってきた。
「フィナの嬢ちゃん、すぐに戻ってくれ! 敵の攻撃が激しすぎて、追いつかねぇんだ! って、なんだ?」
親父は私と私の遺体を交互に見て言葉を消す。
その親父は左目に眼帯をして、左腕を失っていた。
彼の後ろにはショートヘアの赤毛で頬に深い傷を負った見知らぬ少女が立っている。
フィナは親父と私に素早く視線を送り、その少女に指示を飛ばした。
「キサっ、こいつを見張ってて。何か妙な動きを見せたら殺しなさい!」
「ああ、わかった」
キサと呼ばれた少女は腰から剣を抜き、私に殺気の籠る瞳を見せた。
フィナは一度ベッドに横たわるもう一人の私とエクアに視線を振ってから、カインと親父を連れて診療室から出ていった。
少女と私だけとなった診療室で、彼女に問いかける。
「君はキサと呼ばれたが、あの八百屋の娘のキサなのか?」
「ええ、そうよ。だから何?」
彼女は自分がキサだと肯定した。
だが、私の知るキサとは全くの別人。
年は十六前後。ショートヘアの赤毛で腰に剣を携えた戦士の姿。
頬には深い傷があり、言葉も雰囲気も殺気に満ちている。
「成長したキサ……やはりここは未来というわけか」
「未来?」
「キサ。信じてはもらえないだろうが、私は過去からやってきたケント=ハドリーだ」
「過去のケント様?」
「ああ。その様子だと……ふふ、領主のお兄さん呼びはやめたみたいだな」
こう問いかけると、未来のキサは少しだけ雰囲気をやわらげた。
「本当に、過去のケント様なの?」
「ああ、本当だ。私の方のフィナが転送装置の実験でミスをしてな。で、世界を股にかけて迷子になっている」
「……その口調に雰囲気。確かに昔のケント様っぽいけど」
「信じられないか?」
「俄かにはね」
「ま、そうだろうな。さて、困った。何をすれば信用してもらえるか……スコティとはどうなった?」
「私を庇って死んだ」
「そ、そうか。すまない、不用意な質問をしてしまい」
「いえ、別にいいけど……」
彼女は自分の頬の傷をそっと撫で、次に私へ少し悲しげな瞳を向けた。
彼女の様子から、スコティに助けてもらい、頬の傷だけで済んだのだろう。
私は頬の傷をちらりと見て、扉へ視線を向ける。
「あの、キサ? 質問をしてもいいかな?」
「なに?」
「今、このトーワで何が起こっている? 敵とは、誰だ?」
「それは…………ふぅ~、そうね。うん、見せてあげる」
キサは少し悩んだ様子を見せて、体を横にした。
だが、手にした剣を鞘へ納めてはいない。
私はゆっくりと歩き、彼女の前に出て背後に殺気を背負う。
そして、扉から出るように促された。
扉を開けると同時に瞳に映ったのは、広間に横たわる怪我人たち。
多くの兵士たちが傷を負い、うめき声をあげて、それを少しばかり痩せたカインと幾人かの看護士が手当てに追われていた。
カインが私たちに気づき、声を掛けてくる。
「キサ君。いいのかい?」
「この人は過去からやってきたケント様だって」
「え?」
カインは緑髪の暖簾越しから茶色の瞳をこちらへ振る。
私はそれに対して敵意がないことを伝えるべく、にこやかな笑顔で応えた。
「私のフィナがやらかして、ここへな。お忙しいところ、お邪魔して申し訳ないと思っている」
「……たしかに、この軽い口調は昔のケント様ですね」
「悪かったな、軽い男で」
「男じゃなくて口調なんですが……フフ、本当にあなたは過去の?」
「信じられないだろうが、本当だ」
「雰囲気はそうでしても、やはり簡単には――」
「カイン先生! こちらへ、患者がっ」
「ああ、すぐに行く。キサ君!」
「わかってる。何か妙な動きを見せたら、過去のケント様でも殺す!」
「わかっているならいい」
彼はキサと不穏なやり取りを終えて、怪我人のもとへと向かっていった。
私は、背の後ろでこちらに剣を向けているキサへ声を掛ける。
「よほどのことがあったようだな。君がここまで変わるとは……何があった?」
「それはあとでフィナ様から聞いて」
「フィナ様?」
「私ができるのは、あなたに起きていることを見せてあげることだけ」
彼女は剣の柄頭でトンっと背中を押した。
押された私は城の玄関口に向かって歩き始める。
――城外
城外に出た私の目には、見たこともない城壁が映った。
「壁が、光になっている?」
トーワにあった三枚の防壁。
それらは石製でできたものであったが、ここにある防壁はまるで違った。
光が三重の層となり、厚く厚くトーワを守っている。
その防壁内には幾人もの兵士らしき姿が見え、彼らはライフルのようなものを手にして動き回っていた。
彼らの動きに合わせて、瞳を北へ動かす。
北からは怒号のような、いや獣のような咆哮が耳に届いてくる。
私は北に瞳と耳を合わせて、全身を戦慄に包み、恐怖に声を漏らした。
「ま、まさか、あれは、あれらは……魔族か!?」
北の大地には何千・何万という魔族たちがひしめき合っていた。
魔族たちは咆哮に魔導の力を合わせ、光の壁を消し去ろうとしている。
さらには、こちらの兵士と同じく銃のような兵器を手にしている者たちもいる。
私はふらりと、前へ足を向ける。
そこに頭上から巨大な砲声が轟いた。
驚き、城を見上げる。
「な、なんと!?」
城の外観は私のトーワとは全く違っていた。
いくつもの砲台が備えつけられ、そこから魔法弾や光の線が無数に飛び出している。
私は持ち上げた頭に引きずられるように、足を数歩下げて、言葉を激しく散らす。
「一体、何が起こっているんだ!? キサッ!?」
だが、キサは答えない。
殺気を消すことなく、私をただじっと見ている。
「君は幼くも商才に長け、剣を持つような少女ではなかった。そのような恐ろしげな殺気を纏うような子ではなかった。城には砲台が備えられ、兵士たちが戦いを繰り広げている。しかも、相手は魔族! これはなんだ!?」
この、心の奥底から生み出す言葉に、彼女は僅かに眉を動かす。
そして、下唇を噛むような仕草を見せて、言葉を漏らそうとした。
そこに、フィナを呼ぶ親父の声が響いた。
「フィナの嬢ちゃん、敵が撤退していく!」
「はぁはぁ、敵の損耗率33%。何とか今回も凌げたようね。各員、戦闘解除。怪我人の治療に当たりなさい」
フィナと親父は兵士たちに指示を与え、こちらへ向かってきた。
私の姿に気づいたフィナが声を上げる。
「あなたは……キサ、どうして?」
フィナはキサに対して責めるような視線を向けるが、それを遮るように私が立つ。
「フィナ、教えてくれ。未来のトーワで何が起こったんだ?」
視界が黒から景色へと変化していく。
「ここは?」
鼻腔には消毒液の香りが届く。
先に見えるのは、見知った病室。
「ここはトーワの診療室か? っ!?」
そう言葉を漏らした途端、激しい爆発音と振動が伝わってきた。
「な、なんだ!? 一体、なっ!?」
振動にふらつき手を置いたのは医療用ベッド。
そこには、血塗れの私が眠っていた。
「私? すでに事切れている。それに隣には……」
ベッドの隣にはもう一つの医療用ベッドがあった。
そこで横たわっていたのは同じく血に塗れたエクア……と思われる女性。
彼女は私が知るエクアよりも年を取っており、二十歳前後だと思われる。
ベッドには私と大人になったエクアが冷たく横になっている。
「ここは、数年先の未来というわけか? だが、一体何が?」
――駄目ですっ、フィナ君!
診療室の外からカインらしき声が聞こえてきた。
彼はフィナの名を呼び、同時に湾曲するほどの激しい勢いで扉が開いた。
「ケント、エクア!?」
飛び込んできたのはやはりフィナ。
背が少し伸び、顔立ちも体も大人としての魅力に溢れるフィナが、汚れと傷に塗れて私の目の前に立っている。
「フィナ?」
「ケントっ! 無事でよかった!」
「なっ!?」
フィナは私に飛び込むように抱き着き、とても深く濃厚な口づけを交わしてきた。
「むむむむむ、ま、待ってくれ、フィナ!」
強く抱きしめる彼女を引き離し、両手を前にして、諭すように声を出す。
「フィナ、落ち着いてくれ!」
「ケント、どうしたの?」
「いいか、フィナ。私は君の知っているケントではない。残念だが、君のケントは……」
私はゆらりと指先をベッドへ向けた。
そこにいたのは物言わぬ私とエクア。
二人を目にして、一瞬フィナは瞳から光を失うが、すぐに腰につけていたホルスターから自動式拳銃を抜き、私へ向けた。
「貴様何者!?」
「た、頼むからそれを撃つのはやめてくれっ。説明の機会をくれ!」
そう懇願しても、彼女は殺気を纏い、銃口をこちらへ向けたままだ。
そこに親父が焦りの声と共にやってきた。
「フィナの嬢ちゃん、すぐに戻ってくれ! 敵の攻撃が激しすぎて、追いつかねぇんだ! って、なんだ?」
親父は私と私の遺体を交互に見て言葉を消す。
その親父は左目に眼帯をして、左腕を失っていた。
彼の後ろにはショートヘアの赤毛で頬に深い傷を負った見知らぬ少女が立っている。
フィナは親父と私に素早く視線を送り、その少女に指示を飛ばした。
「キサっ、こいつを見張ってて。何か妙な動きを見せたら殺しなさい!」
「ああ、わかった」
キサと呼ばれた少女は腰から剣を抜き、私に殺気の籠る瞳を見せた。
フィナは一度ベッドに横たわるもう一人の私とエクアに視線を振ってから、カインと親父を連れて診療室から出ていった。
少女と私だけとなった診療室で、彼女に問いかける。
「君はキサと呼ばれたが、あの八百屋の娘のキサなのか?」
「ええ、そうよ。だから何?」
彼女は自分がキサだと肯定した。
だが、私の知るキサとは全くの別人。
年は十六前後。ショートヘアの赤毛で腰に剣を携えた戦士の姿。
頬には深い傷があり、言葉も雰囲気も殺気に満ちている。
「成長したキサ……やはりここは未来というわけか」
「未来?」
「キサ。信じてはもらえないだろうが、私は過去からやってきたケント=ハドリーだ」
「過去のケント様?」
「ああ。その様子だと……ふふ、領主のお兄さん呼びはやめたみたいだな」
こう問いかけると、未来のキサは少しだけ雰囲気をやわらげた。
「本当に、過去のケント様なの?」
「ああ、本当だ。私の方のフィナが転送装置の実験でミスをしてな。で、世界を股にかけて迷子になっている」
「……その口調に雰囲気。確かに昔のケント様っぽいけど」
「信じられないか?」
「俄かにはね」
「ま、そうだろうな。さて、困った。何をすれば信用してもらえるか……スコティとはどうなった?」
「私を庇って死んだ」
「そ、そうか。すまない、不用意な質問をしてしまい」
「いえ、別にいいけど……」
彼女は自分の頬の傷をそっと撫で、次に私へ少し悲しげな瞳を向けた。
彼女の様子から、スコティに助けてもらい、頬の傷だけで済んだのだろう。
私は頬の傷をちらりと見て、扉へ視線を向ける。
「あの、キサ? 質問をしてもいいかな?」
「なに?」
「今、このトーワで何が起こっている? 敵とは、誰だ?」
「それは…………ふぅ~、そうね。うん、見せてあげる」
キサは少し悩んだ様子を見せて、体を横にした。
だが、手にした剣を鞘へ納めてはいない。
私はゆっくりと歩き、彼女の前に出て背後に殺気を背負う。
そして、扉から出るように促された。
扉を開けると同時に瞳に映ったのは、広間に横たわる怪我人たち。
多くの兵士たちが傷を負い、うめき声をあげて、それを少しばかり痩せたカインと幾人かの看護士が手当てに追われていた。
カインが私たちに気づき、声を掛けてくる。
「キサ君。いいのかい?」
「この人は過去からやってきたケント様だって」
「え?」
カインは緑髪の暖簾越しから茶色の瞳をこちらへ振る。
私はそれに対して敵意がないことを伝えるべく、にこやかな笑顔で応えた。
「私のフィナがやらかして、ここへな。お忙しいところ、お邪魔して申し訳ないと思っている」
「……たしかに、この軽い口調は昔のケント様ですね」
「悪かったな、軽い男で」
「男じゃなくて口調なんですが……フフ、本当にあなたは過去の?」
「信じられないだろうが、本当だ」
「雰囲気はそうでしても、やはり簡単には――」
「カイン先生! こちらへ、患者がっ」
「ああ、すぐに行く。キサ君!」
「わかってる。何か妙な動きを見せたら、過去のケント様でも殺す!」
「わかっているならいい」
彼はキサと不穏なやり取りを終えて、怪我人のもとへと向かっていった。
私は、背の後ろでこちらに剣を向けているキサへ声を掛ける。
「よほどのことがあったようだな。君がここまで変わるとは……何があった?」
「それはあとでフィナ様から聞いて」
「フィナ様?」
「私ができるのは、あなたに起きていることを見せてあげることだけ」
彼女は剣の柄頭でトンっと背中を押した。
押された私は城の玄関口に向かって歩き始める。
――城外
城外に出た私の目には、見たこともない城壁が映った。
「壁が、光になっている?」
トーワにあった三枚の防壁。
それらは石製でできたものであったが、ここにある防壁はまるで違った。
光が三重の層となり、厚く厚くトーワを守っている。
その防壁内には幾人もの兵士らしき姿が見え、彼らはライフルのようなものを手にして動き回っていた。
彼らの動きに合わせて、瞳を北へ動かす。
北からは怒号のような、いや獣のような咆哮が耳に届いてくる。
私は北に瞳と耳を合わせて、全身を戦慄に包み、恐怖に声を漏らした。
「ま、まさか、あれは、あれらは……魔族か!?」
北の大地には何千・何万という魔族たちがひしめき合っていた。
魔族たちは咆哮に魔導の力を合わせ、光の壁を消し去ろうとしている。
さらには、こちらの兵士と同じく銃のような兵器を手にしている者たちもいる。
私はふらりと、前へ足を向ける。
そこに頭上から巨大な砲声が轟いた。
驚き、城を見上げる。
「な、なんと!?」
城の外観は私のトーワとは全く違っていた。
いくつもの砲台が備えつけられ、そこから魔法弾や光の線が無数に飛び出している。
私は持ち上げた頭に引きずられるように、足を数歩下げて、言葉を激しく散らす。
「一体、何が起こっているんだ!? キサッ!?」
だが、キサは答えない。
殺気を消すことなく、私をただじっと見ている。
「君は幼くも商才に長け、剣を持つような少女ではなかった。そのような恐ろしげな殺気を纏うような子ではなかった。城には砲台が備えられ、兵士たちが戦いを繰り広げている。しかも、相手は魔族! これはなんだ!?」
この、心の奥底から生み出す言葉に、彼女は僅かに眉を動かす。
そして、下唇を噛むような仕草を見せて、言葉を漏らそうとした。
そこに、フィナを呼ぶ親父の声が響いた。
「フィナの嬢ちゃん、敵が撤退していく!」
「はぁはぁ、敵の損耗率33%。何とか今回も凌げたようね。各員、戦闘解除。怪我人の治療に当たりなさい」
フィナと親父は兵士たちに指示を与え、こちらへ向かってきた。
私の姿に気づいたフィナが声を上げる。
「あなたは……キサ、どうして?」
フィナはキサに対して責めるような視線を向けるが、それを遮るように私が立つ。
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