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第二十一章 世界旅行
謝罪
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父はフィナに言葉を渡し、彼女から視線を外す。
その動作に合わせ、部屋に浮かんでいた無数の光が消え去った。
「さて、ケントよ」
「はい、何でしょうか?」
「お前のとってはつい先ほどのことであろうが、改めて伝えておく。己に迷い、答えが見つからぬというならば、流動生命体に相談しろ」
「わかりました」
「では、そろそろ私は消えるとしよう」
「消える? それは?」
「複製した人格を消去するということだ」
「そ、そんな! 別に消去などしなくても!」
「ケント……本当の私は心壊れ滅んだのだ。ここに居るのは亡霊。会話することなどあり得ぬ存在。死者は生者の世界から立ち去らねばならぬ。そして生者はそれを受け入れ、死者を送り出さねばならぬ」
「それでもっ。亡霊であっても父さんには……消えて欲しくない……」
「まったく、いつまでも子どもでいるつもりか?」
父は視線を私から外し、エクアを見つめる。
「エクア=ノバルティ。であるな?」
「は、はい?」
「君の仔細は聞いている。両親を亡くし、罪に巻き込まれても、己を失わず、立っている。心強き少女だ。私よりも遥かにな」
「そんなことっ」
「謙遜するな。君の心の強さは評価に値する。ケントよ。お前よりも幼い少女がまっすぐと歩んでいるのだ。私の息子を名乗るならば、虚勢であっても、前を向けっ。この子に情けないところを見せるな!」
「父さん…………はいっ」
私は絞り出すように声を弾いた。
弾いたのは悲しさ。
もう一度、父と別れなければならないという寂しさ。
それでも、父の息子として、意地を張り、前を向く。
「さらばです、父さん」
「うむ、それでよい。しかし、私としたことが別れの言葉の順番を間違えたな。人格のコピーにより知力は複写できても、思考力はそうはいかないようだ」
「何かやり残したことが?」
「ああ。私には己を消去する前に謝罪をせねばならぬ男がいる」
「それは?」
父は執務机の前まで出てきて、無言で手を振る。
すると、転送装置が起動し、黒い円盤の上に白衣姿のカインが現れた。
「え? あれ、ここは? あ、ケントさんに皆さんも!?」
「カイン? 父さん、これは?」
「カイン=キシロ。台から降りてくれるか? 君と話がしたい」
「あなたは?」
「頼む、降りてくれ」
「なんだかよくわかりませんが、台から降りますね」
父はカインに台から降りるように促し、自身の前に立たせた。
そして、罪を告白する。
「私の名はアステ=ゼ=アーガメイト。ドハ研究所の所長を務めていた」
「え? アステ……ですが、事故でお亡くなりに」
「故あって一時的に亡霊として存在している。だが、そのようなことどうでもいいのだ。私は君に謝らなければならぬ。いや、多くに謝らなければならぬのだが、君が代表として受け取ってほしい」
「えっと……?」
「研究所は事故で吹き飛んだのではない。私が意図的に破壊したのだ」
「え!?」
「事故に巻き込まれ、君の大切な家族である姪の命を奪ったのは、この私だ。謝罪で許されるようなことではないとわかっているが、それでも頭を下げることしかできない。カイン=キシロ、すまない」
父は深々と頭を下げる。
それをカインは全身を震わせて、無言で見つめている。
震える唇から彼は言葉を漏らす。
「あ、あれはあなたが引き起こしたと? あの事故っ! あなたが意図的に引き起こしたと!?」
「その通りだ」
「では、では、ではっ、エナとリルが命を失ったのはあなたのせいだと!?」
「その通りだ」
「クッ! このっ!!」
カインは拳を強く握り締めて父を殴りつけた。
父の体は後ろにあった執務机に激しくぶつかる。
私は慌てて父のそばに寄ろうとしたが、一睨みされた視線によって足が石のように固まる。
父は唇から流れ落ちる血を拭う。
「ふむ、亡霊であっても痛みを感じる。よくできている……カイン、すまない」
「謝られてもっ、もう戻ってこない! なぜ、あのような馬鹿な真似を!!」
「己の心の弱さゆえ……」
「あなたの心の弱さのせいで、エナやリル。さらには多くの人々が巻き込まれたと!? あなたのせいで!」
「すまない」
「あなたはそれしか言えないのかっ!!」
カインは父の胸倉をつかみ、さらに拳を固め振り降ろそうとした。
だが、視線を逸らすことなく無言でカインを見つめる父の瞳を覗いて、掴んでいた胸倉を解いた。
彼は脱力するように声を産む。
「あなたをいくら殴っても、意味がない……謝罪をされても、意味がない。それでも、あなたを無茶苦茶にしてやりたいと心が叫んでいる!」
カインは右手を震わせながら、ゆっくりと掲げ、ぐっと拳を作った。
その拳を父に向かい振り下ろすが、叩きつけたのは執務机……。
「あなたは僕から大切な人を奪った。だけど、あなたの息子が僕を救ってくれた! 全てを捨て去ろうとしていた僕を再び医者の道へと戻してくれた。あの時ケントさんは、こう言ってくれた!」
――君が真に後悔しているなら、その後悔を誰かに味わわせるな!! だから、動け! カイン=キシロ!!――
「だから、僕はあなたを無茶苦茶にして、同じ後悔を、苦しみを、誰かに味わわせたくない。そして、味わうのが他ならぬ恩人であるケントさんならば、そんなことはできない……」
カインは父から離れ、自分の体を抱え込むような仕草を見せる。
爪先は体に食い込み、その痛みをもって感情に蓋をして、私に顔を向ける。
「すみません、ケントさん。感情に呑まれ、お父上を殴ってしまい」
「いや、君の気持ちを思えば当然のことだろう。こちらも今まで父の罪を黙っていた責がある。すまない、カイン」
カインはゆっくりと抱いていた手を降ろし、無言でこくりとこくりと頷き、私も同じく頷きを返す。
その様子を見ていた父は一言漏らす。
「良き友人に恵まれたな。私がこれを言葉に表すのはおこがましいが……」
父は最後にもう一度カインに頭を下げて、私へ顔を向ける。
「さて、次は本当に消えるとしよう。達者でな、ケント」
「はい、未来を良きものであるよう、努力を続けます」
「ああ、努力し学び続けることこそが、人の是よ……最後に、ケント。ギウとは仲良くするんだぞ」
「え?」
「フフ」
父は不思議な送り言葉を残して、口元を綻ばせ、薄くなり、消えていった……。
誰もいなくなった執務机を前に、皆は空白の視線を向け続ける。
僅かな時を置いて、カインが辺りを窺うように口を開いた。
「あの~、突然のことで色々わからないまま感情に振り回されてしまいましたが、一体何が起こったんです? トーワに居たはずなのに遺跡に居て、亡くなったはずのアーガメイトさんが居たと思ったら消えてしまって、一体、何が……?」
「ああ~、そうだったなカイン。ちゃんと一から説明しよう」
その動作に合わせ、部屋に浮かんでいた無数の光が消え去った。
「さて、ケントよ」
「はい、何でしょうか?」
「お前のとってはつい先ほどのことであろうが、改めて伝えておく。己に迷い、答えが見つからぬというならば、流動生命体に相談しろ」
「わかりました」
「では、そろそろ私は消えるとしよう」
「消える? それは?」
「複製した人格を消去するということだ」
「そ、そんな! 別に消去などしなくても!」
「ケント……本当の私は心壊れ滅んだのだ。ここに居るのは亡霊。会話することなどあり得ぬ存在。死者は生者の世界から立ち去らねばならぬ。そして生者はそれを受け入れ、死者を送り出さねばならぬ」
「それでもっ。亡霊であっても父さんには……消えて欲しくない……」
「まったく、いつまでも子どもでいるつもりか?」
父は視線を私から外し、エクアを見つめる。
「エクア=ノバルティ。であるな?」
「は、はい?」
「君の仔細は聞いている。両親を亡くし、罪に巻き込まれても、己を失わず、立っている。心強き少女だ。私よりも遥かにな」
「そんなことっ」
「謙遜するな。君の心の強さは評価に値する。ケントよ。お前よりも幼い少女がまっすぐと歩んでいるのだ。私の息子を名乗るならば、虚勢であっても、前を向けっ。この子に情けないところを見せるな!」
「父さん…………はいっ」
私は絞り出すように声を弾いた。
弾いたのは悲しさ。
もう一度、父と別れなければならないという寂しさ。
それでも、父の息子として、意地を張り、前を向く。
「さらばです、父さん」
「うむ、それでよい。しかし、私としたことが別れの言葉の順番を間違えたな。人格のコピーにより知力は複写できても、思考力はそうはいかないようだ」
「何かやり残したことが?」
「ああ。私には己を消去する前に謝罪をせねばならぬ男がいる」
「それは?」
父は執務机の前まで出てきて、無言で手を振る。
すると、転送装置が起動し、黒い円盤の上に白衣姿のカインが現れた。
「え? あれ、ここは? あ、ケントさんに皆さんも!?」
「カイン? 父さん、これは?」
「カイン=キシロ。台から降りてくれるか? 君と話がしたい」
「あなたは?」
「頼む、降りてくれ」
「なんだかよくわかりませんが、台から降りますね」
父はカインに台から降りるように促し、自身の前に立たせた。
そして、罪を告白する。
「私の名はアステ=ゼ=アーガメイト。ドハ研究所の所長を務めていた」
「え? アステ……ですが、事故でお亡くなりに」
「故あって一時的に亡霊として存在している。だが、そのようなことどうでもいいのだ。私は君に謝らなければならぬ。いや、多くに謝らなければならぬのだが、君が代表として受け取ってほしい」
「えっと……?」
「研究所は事故で吹き飛んだのではない。私が意図的に破壊したのだ」
「え!?」
「事故に巻き込まれ、君の大切な家族である姪の命を奪ったのは、この私だ。謝罪で許されるようなことではないとわかっているが、それでも頭を下げることしかできない。カイン=キシロ、すまない」
父は深々と頭を下げる。
それをカインは全身を震わせて、無言で見つめている。
震える唇から彼は言葉を漏らす。
「あ、あれはあなたが引き起こしたと? あの事故っ! あなたが意図的に引き起こしたと!?」
「その通りだ」
「では、では、ではっ、エナとリルが命を失ったのはあなたのせいだと!?」
「その通りだ」
「クッ! このっ!!」
カインは拳を強く握り締めて父を殴りつけた。
父の体は後ろにあった執務机に激しくぶつかる。
私は慌てて父のそばに寄ろうとしたが、一睨みされた視線によって足が石のように固まる。
父は唇から流れ落ちる血を拭う。
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「謝られてもっ、もう戻ってこない! なぜ、あのような馬鹿な真似を!!」
「己の心の弱さゆえ……」
「あなたの心の弱さのせいで、エナやリル。さらには多くの人々が巻き込まれたと!? あなたのせいで!」
「すまない」
「あなたはそれしか言えないのかっ!!」
カインは父の胸倉をつかみ、さらに拳を固め振り降ろそうとした。
だが、視線を逸らすことなく無言でカインを見つめる父の瞳を覗いて、掴んでいた胸倉を解いた。
彼は脱力するように声を産む。
「あなたをいくら殴っても、意味がない……謝罪をされても、意味がない。それでも、あなたを無茶苦茶にしてやりたいと心が叫んでいる!」
カインは右手を震わせながら、ゆっくりと掲げ、ぐっと拳を作った。
その拳を父に向かい振り下ろすが、叩きつけたのは執務机……。
「あなたは僕から大切な人を奪った。だけど、あなたの息子が僕を救ってくれた! 全てを捨て去ろうとしていた僕を再び医者の道へと戻してくれた。あの時ケントさんは、こう言ってくれた!」
――君が真に後悔しているなら、その後悔を誰かに味わわせるな!! だから、動け! カイン=キシロ!!――
「だから、僕はあなたを無茶苦茶にして、同じ後悔を、苦しみを、誰かに味わわせたくない。そして、味わうのが他ならぬ恩人であるケントさんならば、そんなことはできない……」
カインは父から離れ、自分の体を抱え込むような仕草を見せる。
爪先は体に食い込み、その痛みをもって感情に蓋をして、私に顔を向ける。
「すみません、ケントさん。感情に呑まれ、お父上を殴ってしまい」
「いや、君の気持ちを思えば当然のことだろう。こちらも今まで父の罪を黙っていた責がある。すまない、カイン」
カインはゆっくりと抱いていた手を降ろし、無言でこくりとこくりと頷き、私も同じく頷きを返す。
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「はい、未来を良きものであるよう、努力を続けます」
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「え?」
「フフ」
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