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第二十四章 絶望と失意の花束を
沈黙の男
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――遺跡のとある一室
「何か、不自由はないか?」
私は特殊な力を宿したガラス張りの部屋に佇む、細身ながらもしっかりとした筋肉にバスローブのような白服を纏う男へ問い掛ける。
だが彼は、首を傾けるだけ。
「ああ、こちらの言葉がわからないんだったな」
彼は艶やかな金の髪を揺らし、暗緑色と薄茶が混じり合う榛色の瞳をこちらへ向けて喉を押さえる仕草を見せた。
そこから彼の意図を読み取る。
「喉が渇いているんだな。わかった。フィナ」
フィナに呼びかける。
彼女はモニターを浮かべ操作し、ガラスの向こう側にあるテーブルの上に水の入ったコップを産み出した。
彼は何の警戒心も抱くことなく、礼のような態度を取って喉を潤していく。
私はひとまずこの場をマフィンとマスティフに預けることにした。
――幻想のアーガメイトの書斎
キサ・ゴリン・グーフィスはトーワに戻り、今ここには、エクアとフィナとカインと腰に二本の剣を差した戦士姿の親父がいる。
私もまた、右腰に銃の入ったホルスターをぶら下げ、左腰には弾丸の入ったポシェットを装備していた。
隙間のない警戒心を纏いつつ私はエクアとフィナ、そして親父とカインに金髪の男の印象について尋ねる。
「彼が水球より目覚め、早三日。言葉は通じぬとも悪印象はない。皆はどうだ?」
「私もケント様と同じです。こちらに対していつも丁寧な振る舞いですから」
「そうね。敵意は全く感じない」
「だがよ、こっちが警戒してんのはわかってるのに不審な態度の一つも見せないって、逆に怪しくないか?」
「親父さんの意見はもっともですが、彼は目覚めて間もない。言葉も通じず、状況も理解できていない。だから、なるべくこちらへ悪印象を与えないように振舞っているのでは?」
皆の意見を聞き、私は今後の対応に頭を悩ます。
「ふむ、もうしばらく今の部屋に閉じ込めておくしかないか。だが、いつまでそうしておくかだが……はぁ、誤算だったな。まさか、言葉が通じないとは。それに……彼を殺そうとした存在も気になるしな」
――七日前
私たちは互いに強さを数値化して覗き込む余興を終え、強大な存在を封印する方法がこの施設にあると知った。
そこでその施設を利用しつつ、水球の男の肉体に拘束用の魔法や呪いを仕込むという万全に万全を期した状態で目覚めさせることにした。
四日を掛けて目覚めさせる準備をし、私はドハ研究所の経験を基に彼のナノマシンを安定させる。
そこから、以前フィナが見つけた蘇生のスイッチを押すだけだったのだが、途中で私はそのスイッチがフェイクであることに気づいた。
ボタンを押そうとしたフィナを止める。
「フィナ、待て。様子がおかしい」
「え?」
「君が押そうとしているスイッチだが、枠が二重になってぶれていないか?」
「二重に……あ、ほんとだ。なんで?」
彼女はそう言いながら、スイッチの枠端に指を当てて横にずらしていく。
すると、スイッチの裏に隠れていたもう一つのスイッチが現れた。
フィナは新たに表れたスイッチの正体を調べるためにモニターを見つめる。
「ふむふむ……あれ、こっちが起動用のスイッチだ。表面にあったスイッチは~~~~えっ、水球を爆破させるもの!?」
「爆破だと? では、もし気づかずにスイッチを押していたら?」
「たぶん、水球の彼は死んでた」
「なぜ、こんな真似を?」
この問いに親父が答える。
「何者かが金髪の男を殺そうとしたのでは?」
「おそらくそうだろうが、回りくどすぎる。このような真似をしなくても、フェイクのスイッチを産み出せるほどの者であれば他にも殺す方法はあるだろう」
「たしかにそうですな」
「しかも、わざわざ他の誰かに殺させようとしている。フェイクのスイッチを作った者に殺害の意思があるなら、いつ誰が押すかもしれないスイッチに細工する必要がない。フィナ、どう思う?」
問い掛けられたフィナは、空中に浮かぶ半透明のモニターに顰めた眉をぶつけながら睨みつけている。
「う~ん、妙ね」
「何がだ?」
「このスイッチだけど、めちゃくちゃいい加減なのよ。無理やりシステムと直結して、ホイッて感じでスイッチの上にスイッチを重ねただけ。まるで子どもの悪戯」
「悪戯にしては酷いな。彼を殺そうとしている」
「そうね……なんというか、たどたどしい感じ。システムを扱い慣れてない……いえ、扱いは完璧だけど、怪我でもしてた? でも、手順がいい加減だし……酔ってた?」
「フィナ?」
「核心はないけど印象から、このスイッチを作った人は思考が鈍い状況でたどたどしくシステムを操ってみたい。酔った状態でって感じ」
「酔った状態とは? 怪我を負ったために意識が朦朧として、不可解なシステムを組んだのでは?」
「いえ、それはない。扱いは完璧。むしろ、朦朧としていたらこんな面倒なことはできない。ただ、思考がおかしい。そういった印象を受ける」
このスイッチを作った者は、水球の彼を殺したかった。
だが、なぜか直接システムを止めることもせず、回りくどい方法でスイッチを隠し、勘違いした誰かにスイッチを押させ男が死ぬようにした。
「よくわからないな。このスイッチを作った者は何が目的だったんだ?」
「さぁ。やり口はともかく、この男を殺したかった。そこだけはわかる」
「今から目覚めさせようとしている男は奇妙な殺意を向けられる男、というわけか……不気味だな」
「だからといってここでやめるわけにはいかない。謎はこの男が知ってるかもしれないし」
「そうだな。それではフィナ、目覚めさせた後の手順を確認しよう」
「うん、わかった。それじゃあ」
――フィナの説明による、水球の男を目覚めさせる手順
昏睡状態を維持しつつ、スイッチを押す。
水球はゆっくりと床に降りて消えてなくなり男だけになる。
すぐさま錬金術で造られた貴重な転送石を使い、隔離用に準備した全面ガラス張りの部屋へ移動させる。
隔離用の部屋は、高位の存在を閉じ込められる部屋。
その部屋では如何なる力も封じることができる。
さらに、他の場所へアクセスできないようにシステムを孤立させておく。
これで完全に隔離が可能。
男が驚異的な力を持っていたとしても安心して目覚めさせることができる。
部屋に移動後、マフィンさんが束縛の呪いをかけて、私特製の電撃ブレスレットを足に装着しておく。
呪いは発動すると四肢の動きを奪うもの。
ブレスレットは雷撃で体の自由を奪うもの。
最後に覚醒させて、私たちはガラスの外から男を観察する。
―――隔離用の全面ガラス張りの部屋へ移動
「ということで、一連の流れの通り、水球の男を移動させました、と」
すでに男は水球から出て、バスローブのような白服に身を包み、隔離用の部屋の真ん中で横たわっている。
「では、覚醒。みんな準備は良い?」
私たちは無言でこくりと頷く。
フィナは皆の頷きを受け取り、モニターに映る覚醒のスイッチを押した。
男はびくりと跳ねて、ゆっくりと身を起こしていく。
フィナは彼の能力値を口にする。
「目覚めてから瞬時に能力値が変化。18200前後で安定している」
「その程度なら君やマスティス殿とマフィンで何とかなるな」
「これ以上、変化しないならね」
そう言って、フィナは金髪の男へ視線を向ける。
その彼は細身ながらも程よく筋肉のつい肉体をバスローブで隠しつつ、辺りを見回して、私たちの姿を榛色の瞳に宿した。
私が皆を代表して彼に話しかける。
「やぁ、おはよう。私はトーワの領主・ケント=ハドリー。水球に眠っていた君を起こしたのだが、君がどのような存在なのかわかるまで、安全のためにこのような措置を取っている。安全が確認されればすぐにでもこのガラス部屋から出すつもりだ」
と、彼に話しかけるが、彼はきょとんとした様子で反応が鈍い。
もう一度話しかける。
「あの、ガラス越しでも聞こえているとは思うが……君の名前は?」
彼はこの問いかけに、口をパクパクと動かして、首を横に振る。
カインが彼の仕草からあることに気づく。
「もしかして、喋れないのでは?」
「え?」
「さらにこちらの言葉を理解できていないように見えます」
「まさかっ……いや、その可能性はあるか。この施設はスカルペルの言語を翻訳できていない。そのため、こちらの言葉が翻訳されずにいるのだろう。これは困ったぞ」
「ええ、喋ることもできないようですから、意志の疎通はかなり難しいでしょうね」
「何か、不自由はないか?」
私は特殊な力を宿したガラス張りの部屋に佇む、細身ながらもしっかりとした筋肉にバスローブのような白服を纏う男へ問い掛ける。
だが彼は、首を傾けるだけ。
「ああ、こちらの言葉がわからないんだったな」
彼は艶やかな金の髪を揺らし、暗緑色と薄茶が混じり合う榛色の瞳をこちらへ向けて喉を押さえる仕草を見せた。
そこから彼の意図を読み取る。
「喉が渇いているんだな。わかった。フィナ」
フィナに呼びかける。
彼女はモニターを浮かべ操作し、ガラスの向こう側にあるテーブルの上に水の入ったコップを産み出した。
彼は何の警戒心も抱くことなく、礼のような態度を取って喉を潤していく。
私はひとまずこの場をマフィンとマスティフに預けることにした。
――幻想のアーガメイトの書斎
キサ・ゴリン・グーフィスはトーワに戻り、今ここには、エクアとフィナとカインと腰に二本の剣を差した戦士姿の親父がいる。
私もまた、右腰に銃の入ったホルスターをぶら下げ、左腰には弾丸の入ったポシェットを装備していた。
隙間のない警戒心を纏いつつ私はエクアとフィナ、そして親父とカインに金髪の男の印象について尋ねる。
「彼が水球より目覚め、早三日。言葉は通じぬとも悪印象はない。皆はどうだ?」
「私もケント様と同じです。こちらに対していつも丁寧な振る舞いですから」
「そうね。敵意は全く感じない」
「だがよ、こっちが警戒してんのはわかってるのに不審な態度の一つも見せないって、逆に怪しくないか?」
「親父さんの意見はもっともですが、彼は目覚めて間もない。言葉も通じず、状況も理解できていない。だから、なるべくこちらへ悪印象を与えないように振舞っているのでは?」
皆の意見を聞き、私は今後の対応に頭を悩ます。
「ふむ、もうしばらく今の部屋に閉じ込めておくしかないか。だが、いつまでそうしておくかだが……はぁ、誤算だったな。まさか、言葉が通じないとは。それに……彼を殺そうとした存在も気になるしな」
――七日前
私たちは互いに強さを数値化して覗き込む余興を終え、強大な存在を封印する方法がこの施設にあると知った。
そこでその施設を利用しつつ、水球の男の肉体に拘束用の魔法や呪いを仕込むという万全に万全を期した状態で目覚めさせることにした。
四日を掛けて目覚めさせる準備をし、私はドハ研究所の経験を基に彼のナノマシンを安定させる。
そこから、以前フィナが見つけた蘇生のスイッチを押すだけだったのだが、途中で私はそのスイッチがフェイクであることに気づいた。
ボタンを押そうとしたフィナを止める。
「フィナ、待て。様子がおかしい」
「え?」
「君が押そうとしているスイッチだが、枠が二重になってぶれていないか?」
「二重に……あ、ほんとだ。なんで?」
彼女はそう言いながら、スイッチの枠端に指を当てて横にずらしていく。
すると、スイッチの裏に隠れていたもう一つのスイッチが現れた。
フィナは新たに表れたスイッチの正体を調べるためにモニターを見つめる。
「ふむふむ……あれ、こっちが起動用のスイッチだ。表面にあったスイッチは~~~~えっ、水球を爆破させるもの!?」
「爆破だと? では、もし気づかずにスイッチを押していたら?」
「たぶん、水球の彼は死んでた」
「なぜ、こんな真似を?」
この問いに親父が答える。
「何者かが金髪の男を殺そうとしたのでは?」
「おそらくそうだろうが、回りくどすぎる。このような真似をしなくても、フェイクのスイッチを産み出せるほどの者であれば他にも殺す方法はあるだろう」
「たしかにそうですな」
「しかも、わざわざ他の誰かに殺させようとしている。フェイクのスイッチを作った者に殺害の意思があるなら、いつ誰が押すかもしれないスイッチに細工する必要がない。フィナ、どう思う?」
問い掛けられたフィナは、空中に浮かぶ半透明のモニターに顰めた眉をぶつけながら睨みつけている。
「う~ん、妙ね」
「何がだ?」
「このスイッチだけど、めちゃくちゃいい加減なのよ。無理やりシステムと直結して、ホイッて感じでスイッチの上にスイッチを重ねただけ。まるで子どもの悪戯」
「悪戯にしては酷いな。彼を殺そうとしている」
「そうね……なんというか、たどたどしい感じ。システムを扱い慣れてない……いえ、扱いは完璧だけど、怪我でもしてた? でも、手順がいい加減だし……酔ってた?」
「フィナ?」
「核心はないけど印象から、このスイッチを作った人は思考が鈍い状況でたどたどしくシステムを操ってみたい。酔った状態でって感じ」
「酔った状態とは? 怪我を負ったために意識が朦朧として、不可解なシステムを組んだのでは?」
「いえ、それはない。扱いは完璧。むしろ、朦朧としていたらこんな面倒なことはできない。ただ、思考がおかしい。そういった印象を受ける」
このスイッチを作った者は、水球の彼を殺したかった。
だが、なぜか直接システムを止めることもせず、回りくどい方法でスイッチを隠し、勘違いした誰かにスイッチを押させ男が死ぬようにした。
「よくわからないな。このスイッチを作った者は何が目的だったんだ?」
「さぁ。やり口はともかく、この男を殺したかった。そこだけはわかる」
「今から目覚めさせようとしている男は奇妙な殺意を向けられる男、というわけか……不気味だな」
「だからといってここでやめるわけにはいかない。謎はこの男が知ってるかもしれないし」
「そうだな。それではフィナ、目覚めさせた後の手順を確認しよう」
「うん、わかった。それじゃあ」
――フィナの説明による、水球の男を目覚めさせる手順
昏睡状態を維持しつつ、スイッチを押す。
水球はゆっくりと床に降りて消えてなくなり男だけになる。
すぐさま錬金術で造られた貴重な転送石を使い、隔離用に準備した全面ガラス張りの部屋へ移動させる。
隔離用の部屋は、高位の存在を閉じ込められる部屋。
その部屋では如何なる力も封じることができる。
さらに、他の場所へアクセスできないようにシステムを孤立させておく。
これで完全に隔離が可能。
男が驚異的な力を持っていたとしても安心して目覚めさせることができる。
部屋に移動後、マフィンさんが束縛の呪いをかけて、私特製の電撃ブレスレットを足に装着しておく。
呪いは発動すると四肢の動きを奪うもの。
ブレスレットは雷撃で体の自由を奪うもの。
最後に覚醒させて、私たちはガラスの外から男を観察する。
―――隔離用の全面ガラス張りの部屋へ移動
「ということで、一連の流れの通り、水球の男を移動させました、と」
すでに男は水球から出て、バスローブのような白服に身を包み、隔離用の部屋の真ん中で横たわっている。
「では、覚醒。みんな準備は良い?」
私たちは無言でこくりと頷く。
フィナは皆の頷きを受け取り、モニターに映る覚醒のスイッチを押した。
男はびくりと跳ねて、ゆっくりと身を起こしていく。
フィナは彼の能力値を口にする。
「目覚めてから瞬時に能力値が変化。18200前後で安定している」
「その程度なら君やマスティス殿とマフィンで何とかなるな」
「これ以上、変化しないならね」
そう言って、フィナは金髪の男へ視線を向ける。
その彼は細身ながらも程よく筋肉のつい肉体をバスローブで隠しつつ、辺りを見回して、私たちの姿を榛色の瞳に宿した。
私が皆を代表して彼に話しかける。
「やぁ、おはよう。私はトーワの領主・ケント=ハドリー。水球に眠っていた君を起こしたのだが、君がどのような存在なのかわかるまで、安全のためにこのような措置を取っている。安全が確認されればすぐにでもこのガラス部屋から出すつもりだ」
と、彼に話しかけるが、彼はきょとんとした様子で反応が鈍い。
もう一度話しかける。
「あの、ガラス越しでも聞こえているとは思うが……君の名前は?」
彼はこの問いかけに、口をパクパクと動かして、首を横に振る。
カインが彼の仕草からあることに気づく。
「もしかして、喋れないのでは?」
「え?」
「さらにこちらの言葉を理解できていないように見えます」
「まさかっ……いや、その可能性はあるか。この施設はスカルペルの言語を翻訳できていない。そのため、こちらの言葉が翻訳されずにいるのだろう。これは困ったぞ」
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