銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

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第二十四章 絶望と失意の花束を

フィナの死

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 男は荒れ地に佇み、空を見上げ、何度も深呼吸を行っていた。
 その男へ、フィナが言葉をぶつける。


「逃がさないよ!」


 この言葉に、男は声ではなくズシリと心と世界に響く音を漏らした。


――逃げる? ククク、貴様らはどれほどまでに自分たちを過大評価しているのか。


「なんですって!?」


――貴様ら如きに逃げ出す必要性など皆無。だが、あの場でことを行えば、研究施設を傷つける可能性があった。これに加え……。


「な、なによ?」



「この身体の試運転を行おうと思ってな! クククク、ハハハハハ!!」


 男は言葉を発し、高笑いを見せながら片手を空へ上げて円を描くように振った。
 すると、青々とした空が灰色に染まり始め、それは傘のように私たちを包む。
 大地もまた、彼の足元から色を消して、私たちの足元へと広がってきた。

 世界の全てが灰色に染まる――。


「一体、何が?」

 この私の問いに、金髪の男が答えを返す。


「空間を閉じさせてもらった。私の大切な星を無用に傷つけたくなかったからな。ここならば、いくら破壊されようとスカルペルに害はない」
「空間を? いや、私の星だと?」

「そうだ、スカルペル人よ。この星は私が貰う。千年の時を経て、たねもそれなりに育ったことだろう。私は彼ら導き、宇宙を再生し統治する」
「種? 彼ら? 宇宙? 再生?」
「ククッ、貴様ら如き未開人が知る必要の無きこと。愛玩動物の価値もないスカルペル人にこの星はもったいない。退場……願おうかっ!」


 語尾が弾けると同時に、彼の身の内から光の奔流ほんりゅうが生まれた。
 私はフィナとマフィンに声を飛ばす。
「フィナ、マフィン。彼を止めるっ。発動しろ!」
「わかった!」
「わかったニャ!」


 フィナは男が装着しているブレスレットから雷撃をほとばしらせ、マフィンは呪いを四肢に広げる。
 だが――


「そ、そんな……」
「む、無効化されたニャ!」

「ククク、下らん小細工を。そのような紙縒こよりもか細き鎖で私を止められると思っていたとはな。ククククク!」


 彼から溢れ出した光が渦となり、馬鹿げた力となって私たちの肌をチリチリと焼く。
 その力は魔族など比ではない。
 暴走した私を遥かに超える力……数万・数十万では語れぬ能力を表している。

 驚異的な力を前にして恐れに言葉を閉ざす私たちの姿を、男は実に愉快そうに見下し笑う。


「ふふふ、この程度の力で怯えるか。まだまだこちらは本調子ではないのだが……まぁ、仕方なきことか。未開人から見れば、私という存在は遥かの外。しかし、そうであっても、名くらいは教えてやろう――私の名はバルドゥル」


 バルドゥル――そう名乗った男は私へ顔を向けて、視線を銀眼へ合わせる。
「その瞳、ナノマシンか。我々の知識の一端を操っているようだが……ククッ、未熟。その程度ではさほどの力も操れまい」
「見ただけで私の銀眼に気づくとは……バルドゥル、私たちは君と敵対するつもりはない。警戒が過ぎたため不快な対応をとったが」
「それについてはどうでもよいのだ」

「ならば、荒々しい力と殺気を鎮めてくれないか?」
「できぬ相談」
「なぜ?」
「スカルペル人を排除し、この星を私のものとし、ここを拠点に宇宙を創生し、支配するため……」

「言っていることが全く理解できないな。だが、殺意をおろしてくれないということはわかる。それでも、おろしてほしい。私たちは言葉を交わすことができる。殺意を交えるよりも前にやれることはあると思うが?」


「ふふふふ、平和主義者、というわけか? 遅れた価値観だ。あるいは、圧倒的な力の差を前にして怯えているのか? もっとも、会って僅か数日。互いも良く知らぬのに命のやり取りを行うなど狂気の沙汰であるか。しからば、その狂気が夢現ゆめうつつではなく、現実ということをはっきり認識させてやろう」


 バルドゥルは右手を開き前へ伸ばす。
 すると、そこに塵のようなものが集まり、ゆっくりと人の姿を形作る。
 形がはっきりと露わになったところで、エクアとフィナが驚きに声を飛ばした。


「え、フィナさんっ!?」
「な、なんで私がっ!?」

 
 彼の右手の前に集まった塵は、錬金術師の格好をしたフィナを産み出した。
 それは目を閉じているフィナそのもの。
 男は笑いを混ぜ込み、語る。


「ふふ、その通り、これはフィナ。貴様というわけだ」
「何を言ってるの? 私はここに居る。それは偽物でしょう?」
「いやいや、これは貴様だ。細胞も遺伝子も分子も、寸分違わず複製した」
「私の、クローン?」
「その通り。さらに、このフィナに貴様の記憶をコピーすればどうなる?」
「え?」

 バルドゥルはフィナの小さな疑問の声を無視して、指先を振った。
 すると、彼の前にいるフィナがゆっくりと瞼を開けて、次にきょろきょろと辺りを見回し、私たちに話しかけてきた。

「え、え、え? あれ、ここどこ? さっきまでケントと一緒に監視用の部屋にって、ケント? え!? なんで私がいんの?」

 生み出されたフィナは私たちの知るフィナと全く同じ反応を見せる。
 その姿へ笑い声を差し向けながら、バルドゥルは言葉を生む。


「ふふふ、こいつは私が外へ出る前のフィナだ。何もかもオリジナルと変わりないフィナ。変わるとすれば、ほんの少し記憶の時間が違うだけのこと」
「ちょっと、いきなりあんた何を言ってんの? ガラスの部屋に閉じ込めていたはずでしょ、うぐっ!?」

 バルドゥルが右手の人差し指を軽く動かす。
 ただそれだけでもう一人のフィナは体の自由を束縛されて、うめき声だけを漏らし続ける。

「ちょ、な、やめ、いたい、やめ、て……」
「やめろ、バルドゥル! 彼女をどうするつもりだ!?」

「この新しい身体の準備運動のために、少々貴様らに協力してもらおうとな。そのための、余興だ」

 そう言って、彼は開いていた右手を閉じていく。
 すると、もう一人のフィナの首があらぬ方向へとねじ曲がり始める。
「か、くあああ、きあああ」
「フフ、苦しいか? だが、それも一瞬の間。さらばだ、フィナよ。状況を理解できず眠るがいい」

「やめろぉぉぉ、バルドゥルぅぅぅ!!」


――ゴキッ


 鈍い音が広がる。
 そして、どさりとフィナは地面へ落ち、横たわった。
 彼女の顔は背中側を向いて、光の宿らぬ瞳に灰色の空を映し、僅かに唇から血を這わす……。


 彼女はクローン。
 だけど、私たちのことを知っていた。 
 つい先ほどまで、私といたことを覚えていた。
 まぎれもなく彼女は――フィナだ!


「バルドゥルゥゥゥゥゥ!!」


 私はホルスターから銃を抜き、銃弾を撃ち込んだ。
 しかし、鉛の弾丸は彼に届くことなく見えない壁によって阻まれる。
 
 親父とマスティフが前へ飛び出す。
 バルドゥルは軽く右手を振るい衝撃波を生み出して、二人を地面へ叩きつけた。

 マフィンが氷の刃を飛ばし、フィナが冷気の詰まった試験管型爆弾を投げつける。
 氷が津波のように襲い掛かるが、彼は指先をふいっと上に向けて地面より壁を産み出し荒れ狂う氷の波を封じた。


 彼は一連の動きをとても残念そうな声色で迎える。
「はぁ~、準備運動くらいにはなるかと思っていたが、それにも値しないとは。感情を刺激した甲斐もない」
 
 このふざけた男の態度に対して、フィナが怒りに染まる瞳を叩きつける。

「言ってくれるじゃないっ! 何が甲斐もないですってっ!! あんな、あんな……」


 彼女は男のそばで横たわる物言わぬ自分の姿に視線をぶつけ、男へ戻し、今まで手にしたことのない真っ青な海色の試験管型爆弾をたいから引き抜いた。
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