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第二十五章 故郷無き災いたち
無へと帰る
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――休憩室と思われる部屋
三人は何やら世間話を行っている。
百合は近くにあった食物をレプリケートできるボックスの前に。それは以前、エクアがお茶を産み出したボックス。そのボックスにエクアが発した同じ言葉を掛けている。
「お茶」
ボックスの空洞の部分に光のカーテンが降りて、緑茶が生まれ、それを見た百合が声を荒げる。
「おい、なんで緑茶なんだよ!? ジュベル、てめぇだろ! 勝手にお茶の設定を緑茶にしやがって!」
「何を言うんだい、百合。お茶と言えば緑茶だろ。君は日本人の血を引いているんだから、緑茶を嗜むべきだ」
「そんなの知らねぇよ。日本人ったって純血でもねぇし、それにそんな過去の都市の名を出されてもよくわかんねぇっての」
「都市じゃないよ。国だよ国。かつて、彼の国には偉大なる戦士である侍がいた。その侍の血を引いているというのに、もう少しその誇りを胸に抱いてさ。日本のことを勉強してみては?」
「だから知らねっつの。なんだよ、さむらいって?」
「そこは脳から直接中央情報局にアクセスして」
「時間の無駄。そんなに日本だかさむらいだかが好きなら、てめぇがさむらいになってろ」
「残念ながら僕の祖先はフランス人だからねぇ。日本出身じゃないから侍を名乗るのは気が引けるよ」
「それなら俺もだよ。生まれは土星の衛星エンケラドゥスの軌道都市出身だしよ」
と、ここまでソファに座り二人の会話を眺めていたアコスアが、ビスケットを頬張りながら言葉を差し入れた。
「もふもふ、エンケラドゥス出身なら火星の住人にもなれただろうに、なんで落ちぶれた地球なんか選んだの?」
「あん? 元は土星の警備隊をやってたんだけどよ。親父が地球に住んでた頃があったんで、それでな」
「それだけが理由?」
「実はな、ちょいと火星の最強と連邦の最強を相手にする機会があってな、それでぼろ負けしたから軍人に向いてねぇなと思って研究員にでもなろっかなって。で、地球で応募してたから応募したら受かって、あれよあれよと出世して、この施設の副所長様ってわけさ」
「この、才能の塊め。というかさぁ、個人で負けて軍人に向いてないって何よ?」
「それがよ~、腕っぷしには自信があったんだけどさ、上には上がいると思ったらやる気失せちまった。だったら、別の分野であいつらを上回ってやろうってな」
「軍人に向いてない理由になってないし……で、地球で最重要研究を預かる副所長になって、さらには地球最強の戦士ってわけ? ホント、才能の塊じゃん」
「そうか? 科学者としてはバルドゥルのジジイに劣るし、腕っぷしは地球最強でも、宇宙だと六番目くらいだし。特に火星最強が強すぎる。なんだよあいつ? 戦艦の主砲並みの火力を生身で出しやがる。反則だろっ」
「いや、あんたも十分に反則級だから。まったく、高見の存在どもめ」
「愚痴ってねぇでアコスアも頑張れや。ナノマシンの適正と遺伝子情報を精査して突き詰めろ。聞いたぞ。かなりの特性があるらしいじゃねぇか」
「それをやったら私の場合、肉体の構造が維持できないの。肌の色が真っ青になって目が七つになるって言われたんだから」
「別にいいじゃねぇか。今の時代、容姿なんて飾り飾り」
百合がやる気なさそうにひらひらと手を振る。
その姿をジュベルは見つめ、頬へ仄かな熱を乗せて言葉を漏らす。
「百合。君は生まれながらの姿のままなんだよね?」
「ああ、ほとんどな。それがなに?」
「いや、今どき容姿を弄らず、生まれたままの姿でそれほど美しい容姿を持てるなんて。しかも、その姿のままで戦闘用ナノマシンの適合に魔法の詠唱式を遺伝子に刻んでも変化を見せないなんて、奇跡のような存在だ」
「そう? 奇跡? はっ、どうでもいいけどな。それじゃ俺、仕事に戻るわ。ふぁ~あ……副作用で欠伸が出やすいんだけどなぁ。そのせいで偏狭な連中には怠け者にみられるし」
百合は二人を残して、休憩室から出ていく。
残されたアコスアはジュベルに顔を向ける。
百合を見送る彼の顔は赤いまま。
「ジュベル。もしかして、百合に惚れてる?」
「え? はっ? 何故、わかったっ!?」
「ええっ、誤魔化さないで白状するの? 今どき恋なんて珍しいね。原始的思想を受け継いでいる火星人みたいなまぐわいでもしたいの?」
「伝統的な、だ。たしかに地球だとそういう行為は失われ、情報局監理下で子供が誕生しているけどね。正直、僕だって驚いている。誰かに恋愛感情を持つなんて……初めて百合と会ったときから、こう胸の奥が熱くて……特に日本人の血を引いているとわかったときは、もうっ!」
「この日本オタクめ。実は恋愛感情じゃなくて、ただ単に百合に流れる日本人の血を欲してるだけじゃ……」
「ち、違うよ! 人を吸血鬼みたいに言わないでくれ! 初めて会ったときからって言っただろ! これにプラスして日本人の末裔と知って興奮が、こうっ、が~って」
「こわっ」
「怖いって言うな!」
「はぁ、あんなずぼらで口の汚い奴のどこがいいんだか」
「アコスアにはわからないよ。ああ見えて百合はとても繊細で――」
「あ、そうだ、忘れてた」
急に百合が戻ってきて、出口傍で顔を突き出している。
二人はすぐさま言葉を収めて、彼女に声を返した。
「え、どうしたんだい百合?」
「何か忘れ物?」
「ん? 二人とも焦ってねぇか?」
「「ないない!」」
「そう? でさ、ジュベル」
「な、なにかな?」
「お茶の設定を戻してとけよ。いっつもお茶を頼むと緑茶が出てきてげんなりすんだよ! ちゃ~んと設定をコーヒーにしとけよ~。じゃあな~」
片手を上げて振りながら立ち去る百合に二人はツッコむ!
「コーヒーはお茶じゃないよ!」
「それはお茶じゃない!」
アコスアは視線をジュベルに戻し、じとりとした瞳をぶつけて一言。
「ジュベル、繊細?」
「ええ~っと、ぼ、僕にはわかるんだ! 百合は繊細な女性だ!」
――
ジュベルの声を最後に画面が揺らぎ、別の場所へと移動する。
移動先は、恐ろし気でありながらも優しさを内包する光の集合体が揺蕩う、バルドゥルが演説を行った部屋。
その部屋の様相は一変していて、壁や床や天井などがない、真っ白な空間へと変わっていた。部屋の奥では、光の集合体が無数の七色のリングを纏って激しく明滅を繰り返している。
多くの古代人たちが瞳のみを動かして、空中に浮かぶ彼らの文字である丸文字を見ていた。
彼らは瞳に宿るナノマシンで丸文字に内包される膨大な情報を処理し、さらに丸文字の周りにある光の粒子を動かしている様子。
何かの作業を行っているようだが、その様子には緊迫したものがあった。
作業を行っていた一人の男性が悲鳴のような声を上げる。
「所長、駄目ですっ。完全に制御不能です!」
「馬鹿のことを言うな。我々はこの力を完全に把握している。すぐさま計算を見直せ」
女性の声が飛ぶ。
「な、なに、なんなのこれは!? 所長、未知のエネルギーが流入してシステムの制御を阻害しています」
「未知? 未知だと!? 全てを知る我々にもはや知らぬものなどはない! ええ~い、どけぇ!!」
老人のバルドゥルは女性を突き飛ばし、無数に浮かぶ光の粒を瞳を使い操作している。
「クッ、何という膨大なエネルギーだ。これほどのエネルギーは一体どこから? おのれっ、我々の知らぬ力が存在するというのか!?」
焦りを見せるバルドゥル。
そこへ百合が声を挟み込んだ。
「これは別の次元でもねぇ。時間でもねぇ……こいつぁ驚いたぜ。無を形成している場所からエネルギーが流入してやがる。無に存在するエネルギー? 空間の揺らぎ? 暗黒流動? わからねぇな。ふふ、こいつは俺たちじゃ手も足も出ねぇぜ」
「何を笑っているっ? どこからやってこようと今はエネルギーを制御しろ! さもなくば!」
「所長、残念だけど完全に制御不能だ。これが弾けたら宇宙は消えちまう。おまけに未知のエネルギーの影響で多重シールドに綻びができちまった。バレたぜ、火星に」
「おのれっ! ……………………」
バルドゥルは反吐を吐き、押し黙る。だが、すぐに冷静な声を取り戻した。
「知られたところで火星とてどうにもできぬわ。我々の宇宙は無に消える。副所長、この忌々しいエネルギーは調べ終えたか?」
「ほとんどわかんねぇけど、抽象兵器に近しいものみてぇだ。エネルギーレベルは桁違いだけどよ」
「フンッ、ならばこの兵器を安定させるシールドを応用できるな。兵器を施設より射出しろ!」
「了解。チッ、最悪だぜ」
この二人のやり取りに男性の職員が抗議の声を上げる。
「待ってください、所長! これが弾けてしまうと宇宙は!」
「そんなことは言われずともわかっている。だから、これを施設から少しでも遠くに引き離し、ナノ秒でも時間稼ぎをして我々だけでも生き残ろうとしているのだ」
「そ、そんなっ。百合さん!」
「言いてぇことはわかってるさ。やらかした当事者がさっさと逃げ出そうなんて最低のクズだ。だがよ、何をしてもみんな消えるなら、少しでも生き残れる連中を残しといた方がいいだろ」
どうやら古代人たちが生み出した兵器は制御を失い、彼らの世界を完全に消し去ろうとしているようだ。
そこで彼らは、自分たちだけでも生き残る選択を行った。
百合は射出のプロセスを終えて、バルドゥルへ声を掛ける。
「射出準備完了」
「すぐに射出しろ。射出後は兵器安定用シールドで施設全体を保護しろ」
「エネルギーが足んねぇけど?」
「地球の主要エネルギーの全てを無理やりこちらへ回せ。貴様なら短時間で侵入できるだろう」
「はいよ。まさか、第一級犯罪に手を染めるとはなぁ」
「フンッ、裁く連中は消えてなくなる。気にする必要はない」
「なんだかなぁ~。射出、次元幕展開。ワープで太陽系の向こうまでさようならっと。次はエネルギーセンターにアクセス。権限強奪のエネルギーを寄こせやこの野郎。これでも、施設が耐えられる保証はねぇな。どうするよ、所長?」
「耐えろ」
「へ?」
「自分は絶対に存在する。生き残ると強く念じろ。これにはそれが一番有効だ。施設職員に告ぐ、消えたくなければ己の存在を強く意識しろ! 繰り返す――」
「はは、まさか、この時代に精神論が有効とは笑えるぜ。兵器崩壊まで、あと十秒。9・8・7・6・5・4・3・2・1。崩壊」
百合の言葉の数秒後、どこからともなく湧いてきた黒い闇が部屋全体を包み込み、記録映像から音が消えた……しばらくして、映像が切り替わる。
百合が気を失って、土の大地に倒れている。
それをジュベルが優しく体を揺すって起こしているようだ。
「百合、百合、百合」
「ん、あ、ん~、あ、ジュベルか。てめぇは消えずに済んだようだな」
「ああ、そうみたいだ」
「で、ここは?」
百合は半身を起こして辺りを見回す。
周囲には鬱蒼とした森が広がり、空気には大量の湿気が含まれていた。
彼女は銀の瞳を輝かせ、この場所の答えを口にする。
「施設内か。投影機能が妙なことになってるみてぇだな」
「施設全体が相当なダメージを負っている。それに……同僚の大部分が、消えた」
「兵器の影響か……所長は?」
「消えていない。すでに、施設の復旧のため勝手に行動しているよ」
「どんな状況でも変わらねぇな、あのジジイは。アコスアは?」
「存在するよ。今は所長の護衛についている」
「護衛?」
「所員の中に今回の実験失敗に納得できず、彼を恨んでる者が」
「ま、当然だろうな。それで、ここが施設内ってのはわかったけどよ、全体的な場所は? まさか地球まで残ってるとかいうオチじゃねぇだろうな」
「それを僕たちで調べるんだ。所長は施設のダメージ。僕たちはここがどこなのか」
「へ、そういうことか。いいぜ、ピクニックと洒落込もうや」
三人は何やら世間話を行っている。
百合は近くにあった食物をレプリケートできるボックスの前に。それは以前、エクアがお茶を産み出したボックス。そのボックスにエクアが発した同じ言葉を掛けている。
「お茶」
ボックスの空洞の部分に光のカーテンが降りて、緑茶が生まれ、それを見た百合が声を荒げる。
「おい、なんで緑茶なんだよ!? ジュベル、てめぇだろ! 勝手にお茶の設定を緑茶にしやがって!」
「何を言うんだい、百合。お茶と言えば緑茶だろ。君は日本人の血を引いているんだから、緑茶を嗜むべきだ」
「そんなの知らねぇよ。日本人ったって純血でもねぇし、それにそんな過去の都市の名を出されてもよくわかんねぇっての」
「都市じゃないよ。国だよ国。かつて、彼の国には偉大なる戦士である侍がいた。その侍の血を引いているというのに、もう少しその誇りを胸に抱いてさ。日本のことを勉強してみては?」
「だから知らねっつの。なんだよ、さむらいって?」
「そこは脳から直接中央情報局にアクセスして」
「時間の無駄。そんなに日本だかさむらいだかが好きなら、てめぇがさむらいになってろ」
「残念ながら僕の祖先はフランス人だからねぇ。日本出身じゃないから侍を名乗るのは気が引けるよ」
「それなら俺もだよ。生まれは土星の衛星エンケラドゥスの軌道都市出身だしよ」
と、ここまでソファに座り二人の会話を眺めていたアコスアが、ビスケットを頬張りながら言葉を差し入れた。
「もふもふ、エンケラドゥス出身なら火星の住人にもなれただろうに、なんで落ちぶれた地球なんか選んだの?」
「あん? 元は土星の警備隊をやってたんだけどよ。親父が地球に住んでた頃があったんで、それでな」
「それだけが理由?」
「実はな、ちょいと火星の最強と連邦の最強を相手にする機会があってな、それでぼろ負けしたから軍人に向いてねぇなと思って研究員にでもなろっかなって。で、地球で応募してたから応募したら受かって、あれよあれよと出世して、この施設の副所長様ってわけさ」
「この、才能の塊め。というかさぁ、個人で負けて軍人に向いてないって何よ?」
「それがよ~、腕っぷしには自信があったんだけどさ、上には上がいると思ったらやる気失せちまった。だったら、別の分野であいつらを上回ってやろうってな」
「軍人に向いてない理由になってないし……で、地球で最重要研究を預かる副所長になって、さらには地球最強の戦士ってわけ? ホント、才能の塊じゃん」
「そうか? 科学者としてはバルドゥルのジジイに劣るし、腕っぷしは地球最強でも、宇宙だと六番目くらいだし。特に火星最強が強すぎる。なんだよあいつ? 戦艦の主砲並みの火力を生身で出しやがる。反則だろっ」
「いや、あんたも十分に反則級だから。まったく、高見の存在どもめ」
「愚痴ってねぇでアコスアも頑張れや。ナノマシンの適正と遺伝子情報を精査して突き詰めろ。聞いたぞ。かなりの特性があるらしいじゃねぇか」
「それをやったら私の場合、肉体の構造が維持できないの。肌の色が真っ青になって目が七つになるって言われたんだから」
「別にいいじゃねぇか。今の時代、容姿なんて飾り飾り」
百合がやる気なさそうにひらひらと手を振る。
その姿をジュベルは見つめ、頬へ仄かな熱を乗せて言葉を漏らす。
「百合。君は生まれながらの姿のままなんだよね?」
「ああ、ほとんどな。それがなに?」
「いや、今どき容姿を弄らず、生まれたままの姿でそれほど美しい容姿を持てるなんて。しかも、その姿のままで戦闘用ナノマシンの適合に魔法の詠唱式を遺伝子に刻んでも変化を見せないなんて、奇跡のような存在だ」
「そう? 奇跡? はっ、どうでもいいけどな。それじゃ俺、仕事に戻るわ。ふぁ~あ……副作用で欠伸が出やすいんだけどなぁ。そのせいで偏狭な連中には怠け者にみられるし」
百合は二人を残して、休憩室から出ていく。
残されたアコスアはジュベルに顔を向ける。
百合を見送る彼の顔は赤いまま。
「ジュベル。もしかして、百合に惚れてる?」
「え? はっ? 何故、わかったっ!?」
「ええっ、誤魔化さないで白状するの? 今どき恋なんて珍しいね。原始的思想を受け継いでいる火星人みたいなまぐわいでもしたいの?」
「伝統的な、だ。たしかに地球だとそういう行為は失われ、情報局監理下で子供が誕生しているけどね。正直、僕だって驚いている。誰かに恋愛感情を持つなんて……初めて百合と会ったときから、こう胸の奥が熱くて……特に日本人の血を引いているとわかったときは、もうっ!」
「この日本オタクめ。実は恋愛感情じゃなくて、ただ単に百合に流れる日本人の血を欲してるだけじゃ……」
「ち、違うよ! 人を吸血鬼みたいに言わないでくれ! 初めて会ったときからって言っただろ! これにプラスして日本人の末裔と知って興奮が、こうっ、が~って」
「こわっ」
「怖いって言うな!」
「はぁ、あんなずぼらで口の汚い奴のどこがいいんだか」
「アコスアにはわからないよ。ああ見えて百合はとても繊細で――」
「あ、そうだ、忘れてた」
急に百合が戻ってきて、出口傍で顔を突き出している。
二人はすぐさま言葉を収めて、彼女に声を返した。
「え、どうしたんだい百合?」
「何か忘れ物?」
「ん? 二人とも焦ってねぇか?」
「「ないない!」」
「そう? でさ、ジュベル」
「な、なにかな?」
「お茶の設定を戻してとけよ。いっつもお茶を頼むと緑茶が出てきてげんなりすんだよ! ちゃ~んと設定をコーヒーにしとけよ~。じゃあな~」
片手を上げて振りながら立ち去る百合に二人はツッコむ!
「コーヒーはお茶じゃないよ!」
「それはお茶じゃない!」
アコスアは視線をジュベルに戻し、じとりとした瞳をぶつけて一言。
「ジュベル、繊細?」
「ええ~っと、ぼ、僕にはわかるんだ! 百合は繊細な女性だ!」
――
ジュベルの声を最後に画面が揺らぎ、別の場所へと移動する。
移動先は、恐ろし気でありながらも優しさを内包する光の集合体が揺蕩う、バルドゥルが演説を行った部屋。
その部屋の様相は一変していて、壁や床や天井などがない、真っ白な空間へと変わっていた。部屋の奥では、光の集合体が無数の七色のリングを纏って激しく明滅を繰り返している。
多くの古代人たちが瞳のみを動かして、空中に浮かぶ彼らの文字である丸文字を見ていた。
彼らは瞳に宿るナノマシンで丸文字に内包される膨大な情報を処理し、さらに丸文字の周りにある光の粒子を動かしている様子。
何かの作業を行っているようだが、その様子には緊迫したものがあった。
作業を行っていた一人の男性が悲鳴のような声を上げる。
「所長、駄目ですっ。完全に制御不能です!」
「馬鹿のことを言うな。我々はこの力を完全に把握している。すぐさま計算を見直せ」
女性の声が飛ぶ。
「な、なに、なんなのこれは!? 所長、未知のエネルギーが流入してシステムの制御を阻害しています」
「未知? 未知だと!? 全てを知る我々にもはや知らぬものなどはない! ええ~い、どけぇ!!」
老人のバルドゥルは女性を突き飛ばし、無数に浮かぶ光の粒を瞳を使い操作している。
「クッ、何という膨大なエネルギーだ。これほどのエネルギーは一体どこから? おのれっ、我々の知らぬ力が存在するというのか!?」
焦りを見せるバルドゥル。
そこへ百合が声を挟み込んだ。
「これは別の次元でもねぇ。時間でもねぇ……こいつぁ驚いたぜ。無を形成している場所からエネルギーが流入してやがる。無に存在するエネルギー? 空間の揺らぎ? 暗黒流動? わからねぇな。ふふ、こいつは俺たちじゃ手も足も出ねぇぜ」
「何を笑っているっ? どこからやってこようと今はエネルギーを制御しろ! さもなくば!」
「所長、残念だけど完全に制御不能だ。これが弾けたら宇宙は消えちまう。おまけに未知のエネルギーの影響で多重シールドに綻びができちまった。バレたぜ、火星に」
「おのれっ! ……………………」
バルドゥルは反吐を吐き、押し黙る。だが、すぐに冷静な声を取り戻した。
「知られたところで火星とてどうにもできぬわ。我々の宇宙は無に消える。副所長、この忌々しいエネルギーは調べ終えたか?」
「ほとんどわかんねぇけど、抽象兵器に近しいものみてぇだ。エネルギーレベルは桁違いだけどよ」
「フンッ、ならばこの兵器を安定させるシールドを応用できるな。兵器を施設より射出しろ!」
「了解。チッ、最悪だぜ」
この二人のやり取りに男性の職員が抗議の声を上げる。
「待ってください、所長! これが弾けてしまうと宇宙は!」
「そんなことは言われずともわかっている。だから、これを施設から少しでも遠くに引き離し、ナノ秒でも時間稼ぎをして我々だけでも生き残ろうとしているのだ」
「そ、そんなっ。百合さん!」
「言いてぇことはわかってるさ。やらかした当事者がさっさと逃げ出そうなんて最低のクズだ。だがよ、何をしてもみんな消えるなら、少しでも生き残れる連中を残しといた方がいいだろ」
どうやら古代人たちが生み出した兵器は制御を失い、彼らの世界を完全に消し去ろうとしているようだ。
そこで彼らは、自分たちだけでも生き残る選択を行った。
百合は射出のプロセスを終えて、バルドゥルへ声を掛ける。
「射出準備完了」
「すぐに射出しろ。射出後は兵器安定用シールドで施設全体を保護しろ」
「エネルギーが足んねぇけど?」
「地球の主要エネルギーの全てを無理やりこちらへ回せ。貴様なら短時間で侵入できるだろう」
「はいよ。まさか、第一級犯罪に手を染めるとはなぁ」
「フンッ、裁く連中は消えてなくなる。気にする必要はない」
「なんだかなぁ~。射出、次元幕展開。ワープで太陽系の向こうまでさようならっと。次はエネルギーセンターにアクセス。権限強奪のエネルギーを寄こせやこの野郎。これでも、施設が耐えられる保証はねぇな。どうするよ、所長?」
「耐えろ」
「へ?」
「自分は絶対に存在する。生き残ると強く念じろ。これにはそれが一番有効だ。施設職員に告ぐ、消えたくなければ己の存在を強く意識しろ! 繰り返す――」
「はは、まさか、この時代に精神論が有効とは笑えるぜ。兵器崩壊まで、あと十秒。9・8・7・6・5・4・3・2・1。崩壊」
百合の言葉の数秒後、どこからともなく湧いてきた黒い闇が部屋全体を包み込み、記録映像から音が消えた……しばらくして、映像が切り替わる。
百合が気を失って、土の大地に倒れている。
それをジュベルが優しく体を揺すって起こしているようだ。
「百合、百合、百合」
「ん、あ、ん~、あ、ジュベルか。てめぇは消えずに済んだようだな」
「ああ、そうみたいだ」
「で、ここは?」
百合は半身を起こして辺りを見回す。
周囲には鬱蒼とした森が広がり、空気には大量の湿気が含まれていた。
彼女は銀の瞳を輝かせ、この場所の答えを口にする。
「施設内か。投影機能が妙なことになってるみてぇだな」
「施設全体が相当なダメージを負っている。それに……同僚の大部分が、消えた」
「兵器の影響か……所長は?」
「消えていない。すでに、施設の復旧のため勝手に行動しているよ」
「どんな状況でも変わらねぇな、あのジジイは。アコスアは?」
「存在するよ。今は所長の護衛についている」
「護衛?」
「所員の中に今回の実験失敗に納得できず、彼を恨んでる者が」
「ま、当然だろうな。それで、ここが施設内ってのはわかったけどよ、全体的な場所は? まさか地球まで残ってるとかいうオチじゃねぇだろうな」
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カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
えっ、能力なしでパーティ追放された俺が全属性魔法使い!? ~最強のオールラウンダー目指して謙虚に頑張ります~
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ファンタジー
コミカライズ10/19(水)開始!
2024/2/21小説本編完結!
旧題:えっ能力なしでパーティー追放された俺が全属性能力者!? 最強のオールラウンダーに成り上がりますが、本人は至って謙虚です
※ 書籍化に伴い、一部範囲のみの公開に切り替えられています。
※ 書籍化に伴う変更点については、近況ボードを確認ください。
生まれつき、一人一人に魔法属性が付与され、一定の年齢になると使うことができるようになる世界。
伝説の冒険者の息子、タイラー・ソリス(17歳)は、なぜか無属性。
勤勉で真面目な彼はなぜか報われておらず、魔法を使用することができなかった。
代わりに、父親から教わった戦術や、体術を駆使して、パーティーの中でも重要な役割を担っていたが…………。
リーダーからは無能だと疎まれ、パーティーを追放されてしまう。
ダンジョンの中、モンスターを前にして見捨てられたタイラー。ピンチに陥る中で、その血に流れる伝説の冒険者の能力がついに覚醒する。
タイラーは、全属性の魔法をつかいこなせる最強のオールラウンダーだったのだ! その能力のあまりの高さから、あらわれるのが、人より少し遅いだけだった。
タイラーは、その圧倒的な力で、危機を回避。
そこから敵を次々になぎ倒し、最強の冒険者への道を、駆け足で登り出す。
なにせ、初の強モンスターを倒した時点では、まだレベル1だったのだ。
レベルが上がれば最強無双することは約束されていた。
いつか彼は血をも超えていくーー。
さらには、天下一の美女たちに、これでもかと愛されまくることになり、モフモフにゃんにゃんの桃色デイズ。
一方、タイラーを追放したパーティーメンバーはというと。
彼を失ったことにより、チームは瓦解。元々大した力もないのに、タイラーのおかげで過大評価されていたパーティーリーダーは、どんどんと落ちぶれていく。
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