銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

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第二十五章 故郷無き災いたち

不穏

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 場面は切り替わり、バルドゥル、百合、ジュベル・アコスアがソファの置かれた休憩室で情報交換を行っている。


 まずは百合とジュベルが報告を行う。
「ここはスカルペルという魔法を中核に置いた典型的な超能力惑星。これは予測通りだな」
「僕たちみたいな物理の原理に特化した科学惑星は珍しいからね」

「まぁな。魔法に頼り過ぎているため文化的な割には技術的発展はかんばしくなく技術レベルは2。イスラム世界の農耕革命の入口程度。で、施設はクライル半島という地下に埋まってるってわけだ」
「惑星の位置だけど、特定不能。所長は嫌がるだろうけど、未知の銀河系っぽいです」


「フンッ、っぽいとはなんだ。まぁいい、私とアコスアが得た情報を話そう。システムの大部分がダウンして、復旧には数か月かかる。今は防衛システムが辛うじて動いている状態だ」
「一応、自動修復システムが起動してるから生命維持の方は心配ないけどね。あとは、施設職員の63%が消失。施設が分離していて、こっちにいるのは237名」

 アコスアのこの言葉に百合が疑問符を跳ねる。
「分離?」
「兵器の障害の影響で施設は一時、居住区画と研究区画に変異して別れたみたい。二つは長廊下で繋がっていたけど、ここへ移動してきた衝撃に負けて分離。居住区画の方は別大陸の方へ飛ばされたのよ。さっき連絡が入った。ちなみにあっちも地面の中」

「あっちの生き残りの数と被害状況は?」
「生存者は572名。被害は惨憺さんたんたるもの。システムのほとんどが使い物にならない。おまけに500名という数が仇になって、数日のうちにエネルギーが尽きる」
「こちらから転送システムを応用してエネルギーを届けられねぇのか?」

「転送装置がいまいちで、あんたたちを探索させるために外へ出すのがやっと。それに向こうも地下に埋まってる上に、こっちよりも岩盤が厚くて転送ビームが届きにくいの。武器システムが起動次第、穴でもあけるしかないね」
「面倒なことになってんなぁ。地下に埋まった理由はわかるか?」


 この百合の問いかけにバルドゥルが答えを返す。

「兵器から溢れた力は我々を物質世界から消し去ろうとした。しかし、シールドで守られたこの施設は兵器の力から逃れるために、他の物質世界への移動を試みた。一種の転送のような状態だ」

「は~ん、それでこのスカルペルという場所を見つけて転送してきたと……だけど、衝撃に耐えられねぇで施設が分離し、損傷もしてたから転送座標の固定もできずに離れた場所の地中に埋まったわけか」

「そういうことだ」
「なぁ、所長。無駄だと思うが一応聞いとく。時を遡って世界を戻せねぇか?」


「すでに試したが無理だった。元々何人なんぴとたりともそれができぬよう、宇宙中に時空抑制装置があったからな。さらに、あの兵器の影響もある。あれは全てを無に帰すもの。我々を無に帰せなかったが影響下にある。黒い靄に包まれた記憶があるだろう」
「ああ」

「我々は完全に過去から決別された存在だ。我々がどう足掻こうと我々の世界は取り戻せぬ」
 
 バルドゥルはさも当たり前のようにやり直しがきかないという現実を告げる。
 それにジュベルは悲しげな声を漏らすが、バルドゥルは一笑いっしょうする。

「僕たちは世界から嫌われた、というわけか……」
「フッ、これから新たに世界を構築すればいい。そのようなことよりも、兵器によって宇宙の全ては無に帰ったというのに、ここには物質世界が存在する。その秘密を紐解きたいが、まずは分離組にエネルギーを届けるのが先だ。転送装置の復旧を行え。ついでに地下から地上へ向かってエネルギー波を放ち非常用の出口も作っておけ」

「それはいいけどよ。やっこさんの檻の方も強化しておかねぇと」
「そうだったな。まさか、研究用に捕らえていた奴が生き残るとは。そちらは副所長に一任する。あれが暴れたら、貴様しか抑えが利かぬからな」
「へ~い」



――場面は変わる。
 
 百合が光の檻に閉じ込められた丸い黒色の水球を見つめている。
 どうやらその黒色の水球が、先ほど彼らが話していた研究用に捕らえた何かの生命体のようだ。
 百合の後ろにはアコスアが立っており、百合へ話しかける。

「どう、様子は?」
「だんまりだな。緊急事態だし、こいつにも協力してもらうか?」
「やめなって、みんな食べられるから。これを相手できるのはあんたくらいなんだからね」

「相手にかぁ。部隊を率いてぎりぎりだったんだけどな。その作戦はこいつから新兵器について必要な情報を聞き出すこと……だったはずなのに、こんなところに閉じ込めちまってごめんな」
「こいつらは遥か昔から存在する生命体。多くを知ってるから、必要な情報を持っている可能性が高い。仕方ないでしょ」
「そうは言っても、やりすぎだと思うけどな。条約違反だしよ」

「そうね。昔と違って今はこいつらと友好関係を結んでいる。なのにこうやって秘密裏に隔離してるんだもん。ま、その条約も宇宙消失と共に意味をなくしちゃったけどね」
「そうだな。俺たちの宇宙の生き残りは俺らとこいつだけ。だからこそ、ここは協力するべきだと思うが……ここから出したら、俺一人じゃきついか」


 百合はそう言って、手を前に出し銃を産み出した。
「最悪、こいつでパンッ」
「なに、その古代の武器は?」
「昔、ジュベルから貰った銃。なんか、骨董品らしい」
「へぇ~、って。なんか改良されてない? いじられた跡が見えるけど」

「元はコルトM1848だったんだけどよ、俺の手にしっくりこなかったから銃身つめたりグリップ弄ったりシリンダー弄ったりして、最新技術を盛り込んだんだよ。おかげで原型がなくなっちまった」
「え、骨董品ってことはこれ、レプリケート産じゃなくて本物っ?」
「らしいな。勝手に改良したら、ジュベルが泣いてた」
「そりゃ泣くでしょうよっ。貴重な品を……」

「なに言ってんだ? レプリケート産も昔のものを分子構造的には同じだろ?」
「なんて無頓着な。ジュベル、可哀想に……って、弾丸も鉛じゃないよね?」
「こいつ用のダムダム弾を入れてある。ついでにグリップ内部には絶対不可避の瞳をな、クックック」
「両方とも禁止兵器じゃん! しかも、地球に持ち込むなんて! あんた滅茶苦茶ね!」


 場面が暗転する。
 その隙間を借りて、フィナが銃についてケントに尋ねてきた。
「ねぇ、さっき百合が取り出した銃って?」
「ああ。おそらく、私が手にしている銃だろうな。この銃は百合さんの持ち物だったのか」
――


 暗闇は青の光に満たされた部屋へと変わる。
 そこは真っ青な海中で、魚たちが舞っている部屋。その中央でバルドゥルが激高している場面から映像は始まる。


「分離組が支援を断っただと!? 何故だ!?」

 唾を飛ばされたのはジュベル。
 彼はハンカチで顔を拭きながら言葉を返す。

「あちらは所長に従う気がないそうです」
「なんだと?」
「今回の出来事であなたに不信を抱き、こちらとは距離を置きたいようですね」

「クッ、感情に呑まれおって。向こうはエネルギーが尽きかけているのでは?」
「近くにウラン鉱床を見つけたようで、それを使い原子力を利用しているようです」
「ふん、小癪な真似を。だが、結局は我々に頭を下げざるえまい。向こうは居住レベルの施設。こちらは研究レベルの施設。被害もあちらと比べるとこちらは軽微。すぐに泣きついてくるだろう」

「それはどうでしょうか?」
「なんだと?」
「正直言いますね、所長。あちら側だけでもなく、こちら側でもあなたの信用は失われています。あなたが完璧と称した兵器の使用で宇宙を消すという大失態。信用を失って当然ですよっ」


 ジュベルの物言いから彼もまた、バルドゥルに思うことあると伝わってくる。
 バルドゥルはこの場にいる、百合とアコスアに視線を振る。

「貴様らもか?」
「俺は副所長で責任がある立場だしな。あんただけを責めることはできねぇ。それに、これは所員全員及び地球政府が納得した実験だと思っているからな。あんた一人を責め立てるのもおかしな話だと思ってる。だから、今のところ中立だ」

「私もある程度は百合と同意見。危険があるのはわかってたしね。それに一応、この施設の警備を任されてたから。率先して混乱を招くような真似はできないし」

「フン、積極的に私を支持しているわけではないのだな。だが、構わん。貴様ら二人が反旗を翻さぬ限り、大事ない。分離組はしばらく放置するとし、こちらの不穏分子に注視しておけ」
「はいよ、無茶しないように見てるわ」
「はぁ、生き残り同士でいさかいなんて最悪」

「二人とも、愚痴を言っている暇があれば、この惑星の謎を紐解け。どのようにして、全てを無に帰す力からのがれられたのか」
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