銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

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第二十七章 情熱は世界を鳴動させ、献身は安定へ導く

燃え盛る情熱こそ心を揺り動かす

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 エクアはジクマ閣下とネオ陛下を力強く見つめ、はっきりと言葉を渡す。

「畏れ多くも申し上げますっ。お二人は間違っています!」
「ほぅ、随分と威勢の良い少女だ」
「私たちの何が間違っていると言うんだい?」

「お二人はサレート=ケイキの描いた絵と同じ……ちっぽけな希望を言い訳にして、あなた方の足元でもがき苦しむ人々を見ない振りをしている。見えているはずなのに、それを誤魔化している!!」


 心に晴朗な響きを与えるエクアの声が世界に広がった。
 だが、二人にはまったく届かない……。
 ジクマ閣下は短く語る。
「見えている。だから、なんだというのだ?」
「え?」

 ネオ陛下は優しく答える。
「お嬢さん。私たちはしっかりと犠牲をまなこに焼きつけて、今、ここに立っている。君の言葉はうに通り過ぎた話なんだ」
「そんな……」
「たしかに、君の言うとおり、ちっぽけな希望だ。そのために百万の犠牲を払っている。それでも私たちはそれを良しとして行動しているんだよ。死体を積み重ね塔を創り、少しでも空に近づき、暗雲を突き破ることを選んだんだ」


 二人の瞳に曇りなどない。
 どこまでも透き通るような善意と悪意を内包する人の心が、エクアの心を恐怖に包む。
 そこには、決して肯定できぬ、支配者としての完成された姿があった。
 私も彼らの姿を否定したい。
 でも、二人が正しいのだろう。

 
 多くの者の上に立ち、導く者として……だけど、私は二人が生み出した道・世界。それとは全く別の世界を見つめている。

 
――私は犠牲を強いて守るだけの世界などまっぴらごめんだ。安穏な世界の地下に、過酷が隠れている世界など。どうせ過酷からのがれられないのならば、私は共に道を切り開く過酷な世界を望む――


――そのために過去の私は奴隷制度を否定した。否定の中に描いた思いは平等などという綺麗事ではない。そこにあったのは、多くの者が学ぶ権利を有すること。可能性という機会を得ること……そして、責任を公平に担う存在として、皆が過酷と向き合うべきだと考えたからだ――


「ネオ陛下、ジクマ閣下。あなた方は優しい。そして臆病だ。闇を率先して背負うことで、他者の痛みを和らげようとしている。だがそれは、他者を信用できない臆病さの裏返しでもある」

 私はかつて師として仰ぎ見た、ジクマ=ワー=ファリンを見た。


「私は多くに犠牲と責任の恐ろしさを伝えます。それはとても重いもの。ですが、多くで支えることができれば軽くできます。私は多くを信じ、共に歩みます」
「ケント、それは過ちだ。お前は若く、目が曇っている。多くの者たちは責任を理解できない。理解できたとしても、重みに潰されてしまうぞ」

「だからこそ、支え合うんじゃないでしょうか?」
 
 言葉を出したのはエクア。
 彼女はこう続ける。


「私たちはどうして集まるのでしょう? どうして、家族を作り、友を作るのでしょう? それは繋がる楽しさと強さを知っているからだと思います。私たちはすでに、支え合う大切さと強さを知っています」
「君もまた若い。家族単位、友人単位であればそれは正しかろう。だが、国家という単位なれば考える頭も増え、歩く足も、伸ばす手も増える。一度あらぬ方向を向けば、バラバラになってしまう」

 
「お言葉ですがね、そいつは傲慢ってやつじゃないですかね?」
 親父の言葉が広がる。

「たしかに、あんたらは俺たちなんかよりも深い闇を覗き続けて、そう結論付けたんでしょうよ。だが、俺はな、闇に光差す姿をしっかりと見たんだよ」
 親父はエクアをちらりと見て、陛下と閣下を睨みつける。

「あんたらが諦めたから、他の連中にも不可能だってのは傲慢でしょうよ」


 カインが思いを形にする。
「僕は全てを捨て去ろうとした。それを支えてくれた人がいる。そんな人々が世界に多くあれば、きっと、いえ、必ず素晴らしい世界が現れる。その芽をあなた方の都合で摘むのはやめていただきたい」

 
 三人の声に押されて、マスティフとマフィンが前に出る。
「ワシはトロッカー鉱山、ワントワーフのおさ、マスティフ=アルペー」
「俺はマッキンドーの森、キャビットのおさ、マフィン=ラガーニャ」

 二人の宣言に、ネオ陛下とジクマ閣下はたじろぐ。
「これは驚いた。良いのかい? 長として名乗りを上げた以上、もはや、個人の問題では済まされないよ」
「トロッカーにマッキンドー。ヴァンナスに弓を引くというのか?」

「フンッ、それは恐れておったわ。だからこそ、あくまでも個人の意思として行動していた」
「にゃけどな、気が変わったニャ。俺たちも信じてみようと思うニャ。大切な仲間たちをニャ」

 この二人の言葉を、青臭い話だとジクマ閣下は切って捨てる。
「何を甘いことを。お二人は上に立つ厳しさを知らぬわけでもなかろう。若者たちに毒されたか?」


「フフ、毒ではない。刺激を受けたのだ。ワシも年を取った。気がつけば、若かりし日の挑戦という魂を失い、長としての立ち回りばかりを行っておる。そしてそれを、他の者に強いていた」
「それだけじゃにゃいニャ。いま、あんたらの話を聞いて、つまんにゃいと思ってしまったニャ」

「なんだと?」

「たしかにニャ、ネオ陛下もジクマ閣下も間違ってはにゃいニャ。にゃけどな、そんな国ばっかりじゃ世界はつまんにぇ~だろってんだニャ!」

「マフィンの言うとおりだ! 若者が新たな世界を産み出そうとしている。ならば、そいつを見届けるのも悪くない。ワシたちには叶わなかった世界を作るというのならば、それを見せてもらいたいものだ!」
「そうニャね! 俺たちは年寄りという特権を振りかざし、ポップコーン片手に若者の挑戦を見学するニャ!」


 最後にフィナとギウが先頭に立ち、フィナは鞭をしならせ、ギウは銛を軽やかに回す。そして、陛下と閣下に指先と銛先を突きつけて挑戦状を叩きつけた。
「ヴァンナス、とことん味わってやる!」
「ギウ!」


 私たちの姿を見た陛下が……笑う。

「く、ぷふふ、ははは、あははははは!」
「陛下?」
「ジクマよ、見たか、聞いたか。いや~、面白い。長生きはしてみるもんだ。絶望を知る者、闇を知る者がこぞって下らん理想に命を張る気だぞ! そうだ、そうだな! 若者はそうでなくっちゃ! 頭の固い老人すらも動かす情熱。こいつが若さだ! ジクマ!!」


 ネオ陛下はジクマ閣下の肩をバンバンと叩き……ゆっくりと顔をこちらへ向ける。
 彼の紫水晶のような瞳には殺気が宿る。

「だからといって、道を譲るつもりはない。ここまで道を作ってきたのは私たちだ。トーワ領主・ケント=ハドリー。君は、ヴァンナスの覇道を邪魔する敵だ!」
「ご安心ください、陛下。道など譲られるつもりはありません! 新たに道を作って見せますよ。あなたの道よりも魅力的な道をねっ!!」
「このやろ~、言いやがったな! ジクマ!」
「は、陛下。シエラたち、前へ」


 閣下が前に手を振ると、茂みから二十を超える人影が現れた。
 その姿は、全て同じ。
 陛下の口を押さえていたシエラと同じ見目に格好をしている。
 私は疑問をたずさえて、閣下へ顔を向ける。

「閣下、これは?」
「彼女たちはプロトタイプ。つまり、五年限定の使い捨てだ。容姿に個性を与える必要はない」
「あなたはっ!」

 私はシエラたちへ目を向ける。
 痛みを伴うはずの言葉を向けられたシエラたちは、こう言葉を出す。


「もう、ヴァンナスに逆らうなんて馬っ鹿ねぇ~」
「ほんとほんと。やっぱり先輩って欠陥品なんだ」
「そうそう、作ってもらった恩義を忘れて、逆らっちゃうんだもん」


「「「これはお仕置き決定だね!」」」


 彼女たちは閣下の言葉に何ら疑問を抱くことなく、ヴァンナスに弓を引いた私たちを侮蔑ぶべつし、殺気をぶつけてくる。

 彼女らの姿を見て、フィナが私に一声かける。

「洗脳、これほどなんて……ケント、助けてあげたいけど」
「わかっている。残酷だが、これもまた救いだ」
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