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第二十七章 情熱は世界を鳴動させ、献身は安定へ導く
命捧げる存在
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茂みから突然現れた女の子は陛下の口を右手で覆い押さえる。
だが、陛下は口を閉ざすことに抵抗しようとする。
「ふががっが、ふがっががががが!」
「ちょっと、陛下。暴れない! うわ、ベロ出してる!? やめてよ、手の平ぺろぺろしないで!!」
陛下は身体を振って少女を振り回し、少女はしかめ面をしながらも陛下を押さえ込もうとしている。
私は全く知らぬシエラと呼ばれた少女の姿を銀の瞳に宿す。
見た目は十六前後。
僅かに黒味がかった赤の長い髪を右側だけに集めて結んでいる。
金属製の肩パット付きの黒ビキニのような服に身を包み、下はスパッツの上に同じく黒の短いスカートを纏っていた。
瞳は澱んだ血の色を彷彿させる赤黒の瞳。
腰には剣。
それは片刃の剣であるが、その刃と相対する位置の峰には無数の凹凸が存在している。これは剣を破壊するという、ソードブレイカーと呼ばれる剣だ。
そして、彼女の身の内から、私の銀眼に宿る力。レイやアイリと近しい力を感じる。
私はシエラへ問い掛ける。
「君が、新たな勇者。というわけか?」
「ピンポ~ン。そう、私が次世代の勇者。名前はシエラ。よろしくね、先輩」
彼女は陛下の唾液塗れになった手の平を振るいながら言葉を返す。
「先輩、か。ま、言い得て妙か」
私は彼女から視線を外し、ジクマ閣下へ向ける。
「挨拶が遅れてしまい、申し訳ありません。お久しぶりですね、閣下」
「ふふ、ビュール大陸ではなかなか活躍しているようだな」
「ええ。これもあなたが私を鍛えてくれたおかげです」
「その礼が、これとはな。恩知らずめ」
「申し訳ありません。こればかりは見過ごせませんので」
一度、施設へ視線を振り、戻す。
「いつから、私が敵だと?」
「ケント、敵がお前だという予測はあっても確信はなかった。だから、誘い出すことにした」
「そして、この広場へ誘導したわけですか。それで、誘い出して何を?」
「敵がお前であるならば、説得を試みたいとな」
「なぜ?」
「お前は友アステの息子。血の繋がりはなくとも、あいつが残した大切な子だ。だから、一度だけ機会を与えたかった」
「閣下……」
「ケント、大人しく降伏しろ。そうすれば、余計な波風は立たぬ。もちろん、お前たちの身の安全に身分を保証しよう」
「降伏、ですか……」
目の前に単純な選択肢が浮かぶ。
降伏――するか、しないか。
この状況下での最適解は、『する』だろう。
こちらの襲撃を予期して、偽造データでフィナの目を晦まし、わざわざネオ陛下とジクマ閣下が敵である私たちの前に現れた。
それだけの自信があるということ。
そばに勇者の一人がいるが、おそらく周囲の森にはクローンポットから目覚めた大勢の勇者たちが潜んでいるだろう。
――だが、ここで矜持を折れば、それは私ではない。過ちを正そうとしている自分を穢すことになる。そう、もうスカルペルのために地球人の命を弄ぶなどやめるべきなんだ――
私はシエラへ顔を向ける。
「シエラ、君はどのくらい生きられる?」
「う~ん、長くて五年くらいかな?」
「五年……五年だけ。大切な五年を君はどう使うつもりだ?」
「決まってるよ。ヴァンナスのために使うの。だって私は、そのために生まれてきたんだからっ」
迷いもなく、彼女はとても楽し気に答える。
これにはさすがに、閣下と陛下を睨まずにはいられない。
「あなた方は一体何をやっているんだ!? 命を弄び、意志を弄ぶ! 国家のためとはいえ、これは逸脱しすぎだ!」
「ケント、私はお前に教えたであろう。政治家とは善悪・光に闇。全てを当然のごとく平らげ、決して動じぬこと。人の上に立つ者は心を消して、多くのために尽くすべきなのだ」
「相変わらずジクマは厳しいねぇ。でも、こいつの言うとおりだ。ヴァンナスの繁栄、いや、スカルペルの安全のためにシエラたちは必要だ。そのために血塗られた道を進むぞ、ケント」
「すでに、スカルペルに脅威はありません、陛下。バルドゥル……ビュール大陸に眠る巨悪は滅びました」
「そのようだね。参考までに、どうやって敵を打ち破ったのか知りたいんだけど? こちらでは資料のみだった。それでも、勇者を遥かに超える危険な存在だということは、君の父君から耳にタコができるくらいに聞かされていた。そんな奴をどうやって?」
「古代人の兵器を使用しました……」
この言葉に陛下と閣下は僅かに体を硬直させた。
それは、私たちが世界を滅びに追いやる男を消せる兵器を手にしていると思っているからだろう。
このまま、それが存在するように振舞うこともできる。
だが、私は……私に機会をくれた二人へ偽りのない心を開く。
「お二方、安心してください。その兵器は一度の使用で不能となりました。修復も不可能ですから」
「へぇ、そうなんだ。随分と正直だねぇ」
「ケントよ、何を企んでいる?」
「企みなどありません。私はあなた方に、もはや脅威がないことを伝えたいのです。ですから、勇者増産計画など、もうお止めください。このスカルペルは、スカルペル人だけで守れますから!」
これは私の真の声。心からの訴えだった。
しかし、閣下と陛下はそれを嘲笑う。
「フッ、お前の言が真実だとしても、今もまだ魔族と呼ばれる古代人共がスカルペルを蹂躙している。これに対抗するためには勇者が必要」
「それに、なんだかんだでヴァンナス国の勇名を維持するのに勇者の存在は大きいからねぇ。そう簡単に無くせないよ」
「……そうですか」
二人の目に宿る光。
それは、国家を守る者として当然のことを行う相手に、誠実などと言う世迷言をぶつける若者を見下す光。
この光に、エクアが声をぶつける。
だが、陛下は口を閉ざすことに抵抗しようとする。
「ふががっが、ふがっががががが!」
「ちょっと、陛下。暴れない! うわ、ベロ出してる!? やめてよ、手の平ぺろぺろしないで!!」
陛下は身体を振って少女を振り回し、少女はしかめ面をしながらも陛下を押さえ込もうとしている。
私は全く知らぬシエラと呼ばれた少女の姿を銀の瞳に宿す。
見た目は十六前後。
僅かに黒味がかった赤の長い髪を右側だけに集めて結んでいる。
金属製の肩パット付きの黒ビキニのような服に身を包み、下はスパッツの上に同じく黒の短いスカートを纏っていた。
瞳は澱んだ血の色を彷彿させる赤黒の瞳。
腰には剣。
それは片刃の剣であるが、その刃と相対する位置の峰には無数の凹凸が存在している。これは剣を破壊するという、ソードブレイカーと呼ばれる剣だ。
そして、彼女の身の内から、私の銀眼に宿る力。レイやアイリと近しい力を感じる。
私はシエラへ問い掛ける。
「君が、新たな勇者。というわけか?」
「ピンポ~ン。そう、私が次世代の勇者。名前はシエラ。よろしくね、先輩」
彼女は陛下の唾液塗れになった手の平を振るいながら言葉を返す。
「先輩、か。ま、言い得て妙か」
私は彼女から視線を外し、ジクマ閣下へ向ける。
「挨拶が遅れてしまい、申し訳ありません。お久しぶりですね、閣下」
「ふふ、ビュール大陸ではなかなか活躍しているようだな」
「ええ。これもあなたが私を鍛えてくれたおかげです」
「その礼が、これとはな。恩知らずめ」
「申し訳ありません。こればかりは見過ごせませんので」
一度、施設へ視線を振り、戻す。
「いつから、私が敵だと?」
「ケント、敵がお前だという予測はあっても確信はなかった。だから、誘い出すことにした」
「そして、この広場へ誘導したわけですか。それで、誘い出して何を?」
「敵がお前であるならば、説得を試みたいとな」
「なぜ?」
「お前は友アステの息子。血の繋がりはなくとも、あいつが残した大切な子だ。だから、一度だけ機会を与えたかった」
「閣下……」
「ケント、大人しく降伏しろ。そうすれば、余計な波風は立たぬ。もちろん、お前たちの身の安全に身分を保証しよう」
「降伏、ですか……」
目の前に単純な選択肢が浮かぶ。
降伏――するか、しないか。
この状況下での最適解は、『する』だろう。
こちらの襲撃を予期して、偽造データでフィナの目を晦まし、わざわざネオ陛下とジクマ閣下が敵である私たちの前に現れた。
それだけの自信があるということ。
そばに勇者の一人がいるが、おそらく周囲の森にはクローンポットから目覚めた大勢の勇者たちが潜んでいるだろう。
――だが、ここで矜持を折れば、それは私ではない。過ちを正そうとしている自分を穢すことになる。そう、もうスカルペルのために地球人の命を弄ぶなどやめるべきなんだ――
私はシエラへ顔を向ける。
「シエラ、君はどのくらい生きられる?」
「う~ん、長くて五年くらいかな?」
「五年……五年だけ。大切な五年を君はどう使うつもりだ?」
「決まってるよ。ヴァンナスのために使うの。だって私は、そのために生まれてきたんだからっ」
迷いもなく、彼女はとても楽し気に答える。
これにはさすがに、閣下と陛下を睨まずにはいられない。
「あなた方は一体何をやっているんだ!? 命を弄び、意志を弄ぶ! 国家のためとはいえ、これは逸脱しすぎだ!」
「ケント、私はお前に教えたであろう。政治家とは善悪・光に闇。全てを当然のごとく平らげ、決して動じぬこと。人の上に立つ者は心を消して、多くのために尽くすべきなのだ」
「相変わらずジクマは厳しいねぇ。でも、こいつの言うとおりだ。ヴァンナスの繁栄、いや、スカルペルの安全のためにシエラたちは必要だ。そのために血塗られた道を進むぞ、ケント」
「すでに、スカルペルに脅威はありません、陛下。バルドゥル……ビュール大陸に眠る巨悪は滅びました」
「そのようだね。参考までに、どうやって敵を打ち破ったのか知りたいんだけど? こちらでは資料のみだった。それでも、勇者を遥かに超える危険な存在だということは、君の父君から耳にタコができるくらいに聞かされていた。そんな奴をどうやって?」
「古代人の兵器を使用しました……」
この言葉に陛下と閣下は僅かに体を硬直させた。
それは、私たちが世界を滅びに追いやる男を消せる兵器を手にしていると思っているからだろう。
このまま、それが存在するように振舞うこともできる。
だが、私は……私に機会をくれた二人へ偽りのない心を開く。
「お二方、安心してください。その兵器は一度の使用で不能となりました。修復も不可能ですから」
「へぇ、そうなんだ。随分と正直だねぇ」
「ケントよ、何を企んでいる?」
「企みなどありません。私はあなた方に、もはや脅威がないことを伝えたいのです。ですから、勇者増産計画など、もうお止めください。このスカルペルは、スカルペル人だけで守れますから!」
これは私の真の声。心からの訴えだった。
しかし、閣下と陛下はそれを嘲笑う。
「フッ、お前の言が真実だとしても、今もまだ魔族と呼ばれる古代人共がスカルペルを蹂躙している。これに対抗するためには勇者が必要」
「それに、なんだかんだでヴァンナス国の勇名を維持するのに勇者の存在は大きいからねぇ。そう簡単に無くせないよ」
「……そうですか」
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