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第二十八章 救いの風~スカルペルはスカルペルに~
出し惜しみなし
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――地上・ケント陣営
地上にいる私たちの瞳には、翼をもがれた船が船体を傾かせてよろめく姿が映っていた。
その船から、無数の長筒が飛び出した。
あれはハルステッドに完備されている脱出用ポット。
「そうか、レイアは船を捨てることにしたのか」
と、呟くと、私のそばに光の雨が降り注ぎ、その雨の中に深紅のゴスロリ服に身を包み大鎌を持った、見目は十代にしか見えないアイリの姿が浮かび上がった。
雨が止むと、アイリが私の胸に飛び込んでくる。
「お兄ちゃん!」
「っと、アイリ!?」
私は彼女を受け止めて、ダンスを舞うように体を一周させてアイリを大地に降ろした。
「久しぶり、お兄ちゃん!」
「ああ、久しぶりだ。だが、再会の喜びを分かち合う余裕はない」
「そうだね」
アイリは愛用の大鎌を構えて、こちらを窺う魔族たちの姿を衣装と同じ深紅の瞳で射抜いた。
私は彼女に簡素な報告を頼む。
「こちらに来た理由は?」
「ヴァンナスがトーワに行けと言って、私とお兄ちゃんに逮捕状を出した。だけど、レイアがそれを蹴った」
「なるほど、彼女らしい。そして、アイリが来てくれたのは頼もしい」
「ふふ、ありがとう」
――そこ、イチャイチャするなぁ!――
空から鼓膜を突き破るような大声が響いてきた。
私は耳を押さえながら空を見上げる。
「レイアか?」
もちろん、問いかけは届かない。
それをいい事に、レイアはとんでもないことをしゃべり始めた。
――ビュール大陸の皆さ~ん。初めまして、私はケントの想い人であるハルステッド艦長レイア=タッツだぁ!――
「なっ!?」
――そして、ケントの初めての相手でもあ~る!――
「おお~い! やめろ、やめるんだレイア!!」
私はハルステッドに向かって大きく手を振る。
当然のごとく、届かない。
私の周りにいる仲間たちは驚きに言葉を震わせる。
「ケ、ケント様の想い人で初めての人!?」
「違う、違うぞ、エクア! 全部でたらめだ! あの人はそういう洒落にならない冗談を言う人なんだ! 頼むから、みんな、私の言葉を信じてくれ!」
魔族の存在など完璧に忘れて、私はひたすらに言い訳を口にする。
すると、マスティフとマフィンが……。
「まぁ、悪い冗談であるのはケント殿の必死さでわかるが」
「そうニャね。でも、手遅れニャ」
「え?」
カインと親父がトロッカーとアグリス軍を指差す。
「今のはトロッカーの皆さんにも聞こえているでしょうね」
「んで、アグリスにもな。あいつらには旦那の叫びは聞こえてないでしょうし」
「あ、ああっ!」
そして、レイとフィナが止めを差す。
「みんな、レイアさんの言葉を信じたでしょうね」
「あはははは、ご愁傷様、ケント」
「おおおおおっ!」
私はがくりと片膝をつき、片手を地につける。
「もう、駄目だ。私は進めない。ここで死ぬっ」
心の底からそう思い、言葉を出す。
これにフィナがツッコみを入れてくる。
「こんなことで心折らないでよ。あんたはバルドゥル相手でも頑張ってたじゃん」
「あの人はバルドゥルよりも恐ろしいんだよっ。ああ~、もうっ!」
地面を蹴り上げるように立ち上がり、ハルステッドを睨みつける。
すると、こちらの様子をモニターか何かで見ていたのだろう。
実にタイミングよく、笑い声と共に話しかけてくる。
――あははは、いい気味だっ。さて、冗談はここまでにして。今から私が援護に回る。君たちは遺跡に向かえ。その後はハルステッドのシールドを使い、遺跡を守る。以上だ!――
通信は切れて、いまだ煙を噴き続ける船は砲門を私たちの前にいる魔族たちに向けた。
「そうきたか。だが、それぐらいしかできないほどダメージを負ったんだな、アイリ?」
「うん。一撃で轟沈寸前。最悪よ。船の動力もあまり持たないから急ぎましょう! レイ!」
「ああ、わかってる。私たちが突貫して道を作る。皆さんは私たちの後ろに続いて!」
二人の言葉を受けて、マフィンがカオマニーとスコティに声を飛ばす。
「ここはお前らに預けたニャ!」
「了解ニャ、マフィン様!」
「了解ニャよ、親父!」
「それじゃっ!」
レイはオニキスの瞳に何重もの分厚き魔族の壁を宿し、剣先を向ける。
アイリもまた深紅の瞳をギラリとさせながら大鎌を構え、私たちにこう命じた!
「私とレイについてきてっ。遅れたら振り落としちゃうからね!」
私たちの返事を待たず、レイとアイリは魔族へと突貫していく。
マスティフはエクアを抱え、マフィンはカインを背中に乗せて彼らの後を追う。
親父は己の足で前へ飛び出し、私はフィナに手を握られ、魔族の波の中に飛び込んでいった。
レイはアイリに声を掛け、アイリはそれに応える。
「アイリ、私たちは道を作る。兄さんのことは仲間たちに任せよう!」
「わかった。それじゃあ~、行っくよ~!!」
アイリは大鎌を振るう。
だたそれだけで空気を爆ぜさせ、正面の魔族たちを空へと舞わした。
さらに彼女は空へ飛び上がり、大鎌に雷撃の力を纏わせ、舞った魔族たちを踏み台にしながら切りつけていく。
空を舞うアイリの下では、レイが両刃剣を大きく振るった。
「おお~!!」
剣は大地に叩きつけられ、その衝撃で地面は隆起し、幾つもの大地の拳が魔族を消し去っていく。
彼らの活躍を見たマフィンはマスティフに声を掛ける。
「さすがは勇者ニャ。でも、こっちも負けていられにゃいニャ! ケント、フィナ! カインを預けるニャ! マスティフ!!」
「応っ、わかっておる!! もはや体力魔力の温存など必要ない! ここが見せ場ぞ! エクアは親父殿に!」
マフィンは首につけた鈴に魔力を集約させて、力を増幅し、光の奔流に身を包む。
そして、友情の魔法を唱える!
――共に歩み別れ線は交差する機会を失えど、盟友の絆は凛として輝く。輝きは光の衣となりて我らの穢れなき魂魄を示し、十万億土へと続く道を形作る。我と汝は幾重もの層を産み、分界は終幕へと結び新たなる道を指し示さん! ニャ!!――
「永遠の誓い! マスティフ、任せたニャ!!」
「任せられた!! うおおおおぉぉぉぉお!!」
マフィンの柔らかな肉球から飛び出した力はマスティフを包み込み、その力は彼の肉体の限界を打ち破り、頂へと導く。
「行くぞっ! 澎湃紫電撃!!」
マスティフはガントレットから魔力を溢れさせて、全身にバチバチと音を弾けさせる紫の雷光を纏い、光の残影を置いて姿を消した!
紫電はレイへ襲い掛かろうとしていた千を超える魔族の一団を吹き飛ばし焼き尽くす。
稲光が通った道の後には、魔族の血と土煙が入り混じり逆巻く。
「がぁあぁぁぁぁ!」
マスティフの雄叫びが大地を縦横無尽に駆け巡り、彼の牙は獲物を喰らい尽くしていく。
彼の活躍に負けじと、マフィンはキャビットの誇る最大にして最強の魔法を唱える。
「偉大なるニャントワンキルの魔女王よ。そなたの眸子は搏動を劫略し寂滅の瞳。四肢を平伏させ、心を毀す。抗拒を失せし槃特に猫の始祖たる大いなる御手を顕現せよ、ニャ!」
――猫の瞳と肉球、ニャ!!――
マフィンは鈴により増幅された魔力を青白い光線として空へ放った。
光線が空を切り裂く。
裂かれた空は線を残し、それはゆっくりと開いていく。
開かれた亀裂の奥には闇が広がり、その闇には巨大な紫の猫の瞳が浮かび、それはこちらを覗き見た。
瞳は魔族たちを睨みつけて、ギンとした衝撃を地上へ放つ。
すると、衝撃を受けた魔族たちは体の動きを止めて、恐怖に呻き声を上げ始める。
瞳は消え、霧散した魔力は空に無数の巨大な猫の手を生んだ。
それはとても柔らかそうでありながら、重量感を纏うもの。
動きを奪われた魔族たちに肉球スタンプが降り注ぎ、彼らの強再生をあざ笑うかのように肉体を粉々に踏みつぶしていく。
さらに、大地に落ちた肉球から生まれた魔力の欠片が、周辺にいた魔族たちの神経を侵し、彼らの心を奪う。
一部の魔族は肉球の魅惑に囚われ、仲間たちに襲い掛かり始めた。
フィナはキャビット族必殺の魔法を目にして言葉を飛ばす。
「なんていうか、凄いんだけど、わっけわかんない魔法だね!」
「はぁはぁはぁ、わけわかんにゃいとはひどい言われようニャ。鈴の力で魔力を増幅させて、やっとできた極大召喚系魔法ニャのに」
「ええっと、ごめん。私の感性と対極にあるものだったからつい。さてっ、レイやアイリ。そして、マスティフさんやマフィンさんだけに任せてられないよね。私も行くよっ!」
「それは待つニャ」
「え、なんでよ?」
「フィナは今すぐ結界の道具の準備ニャ」
彼の言葉に私も同意する。
「マフィンの言うとおりだっ。レイアの援護が来る! 結界を張りつつ、レイたちが作ってくれた道を駆け抜けるぞ! さぁ、みんな。遺跡まであと少しだ! 行こう! フィナも!」
「え、ちょっと? 待ってよ!」
私たちは揃って駆け出した。
そのタイミングを見計らったように、空に浮かぶハルステッドから援護射撃が飛んできた――――とんでもない至近弾で!
私たちのすぐそばに砲弾が着弾し、衝撃が身体を貫いていく。
光線が大地を溶かし、熱が皮膚を炙る。
結界に包まれながら私は大声を喚き散らし、それにフィナが答える。
「まったく、無茶をする! フィナがいなかったらお陀仏だぞ!」
「なんなのっ? レイアっていう艦長はっ!? これ、援護どころか私たちごと吹き飛ばす気満々じゃん!」
「分厚い魔族の壁を前にして、それを打ち破ろうとするためには、これだけの至近距離に撃ち込まなければ意味がないということだ! そして、彼女はこちらの力量を予測し、この程度なら防げると踏んだのだろう!」
「力量を予測って? あ、マスティフさんとマフィンさんの戦いね。もう、二人が活躍するから!」
「な、なんと? 魔族の臓腑を食い破り怒られるとは……」
「頑張ったのに、残念ニャっ」
私たちは手を伸ばせば届く距離となった遺跡を目指して、己の足で駆けていく。
私たちを守るレイとアイリは道を作り続け、私たちの周囲にいる魔族たちは砲弾により姿を消し去っていく。
フィナは砲弾からの衝撃を結界で守り、レイたちの猛攻や砲弾の隙間に入り込んできた魔族を、親父とマスティフとマフィンが相手にして、エクアとカインと私がその援護に回る。
遺跡の入口まであと少し――
地上にいる私たちの瞳には、翼をもがれた船が船体を傾かせてよろめく姿が映っていた。
その船から、無数の長筒が飛び出した。
あれはハルステッドに完備されている脱出用ポット。
「そうか、レイアは船を捨てることにしたのか」
と、呟くと、私のそばに光の雨が降り注ぎ、その雨の中に深紅のゴスロリ服に身を包み大鎌を持った、見目は十代にしか見えないアイリの姿が浮かび上がった。
雨が止むと、アイリが私の胸に飛び込んでくる。
「お兄ちゃん!」
「っと、アイリ!?」
私は彼女を受け止めて、ダンスを舞うように体を一周させてアイリを大地に降ろした。
「久しぶり、お兄ちゃん!」
「ああ、久しぶりだ。だが、再会の喜びを分かち合う余裕はない」
「そうだね」
アイリは愛用の大鎌を構えて、こちらを窺う魔族たちの姿を衣装と同じ深紅の瞳で射抜いた。
私は彼女に簡素な報告を頼む。
「こちらに来た理由は?」
「ヴァンナスがトーワに行けと言って、私とお兄ちゃんに逮捕状を出した。だけど、レイアがそれを蹴った」
「なるほど、彼女らしい。そして、アイリが来てくれたのは頼もしい」
「ふふ、ありがとう」
――そこ、イチャイチャするなぁ!――
空から鼓膜を突き破るような大声が響いてきた。
私は耳を押さえながら空を見上げる。
「レイアか?」
もちろん、問いかけは届かない。
それをいい事に、レイアはとんでもないことをしゃべり始めた。
――ビュール大陸の皆さ~ん。初めまして、私はケントの想い人であるハルステッド艦長レイア=タッツだぁ!――
「なっ!?」
――そして、ケントの初めての相手でもあ~る!――
「おお~い! やめろ、やめるんだレイア!!」
私はハルステッドに向かって大きく手を振る。
当然のごとく、届かない。
私の周りにいる仲間たちは驚きに言葉を震わせる。
「ケ、ケント様の想い人で初めての人!?」
「違う、違うぞ、エクア! 全部でたらめだ! あの人はそういう洒落にならない冗談を言う人なんだ! 頼むから、みんな、私の言葉を信じてくれ!」
魔族の存在など完璧に忘れて、私はひたすらに言い訳を口にする。
すると、マスティフとマフィンが……。
「まぁ、悪い冗談であるのはケント殿の必死さでわかるが」
「そうニャね。でも、手遅れニャ」
「え?」
カインと親父がトロッカーとアグリス軍を指差す。
「今のはトロッカーの皆さんにも聞こえているでしょうね」
「んで、アグリスにもな。あいつらには旦那の叫びは聞こえてないでしょうし」
「あ、ああっ!」
そして、レイとフィナが止めを差す。
「みんな、レイアさんの言葉を信じたでしょうね」
「あはははは、ご愁傷様、ケント」
「おおおおおっ!」
私はがくりと片膝をつき、片手を地につける。
「もう、駄目だ。私は進めない。ここで死ぬっ」
心の底からそう思い、言葉を出す。
これにフィナがツッコみを入れてくる。
「こんなことで心折らないでよ。あんたはバルドゥル相手でも頑張ってたじゃん」
「あの人はバルドゥルよりも恐ろしいんだよっ。ああ~、もうっ!」
地面を蹴り上げるように立ち上がり、ハルステッドを睨みつける。
すると、こちらの様子をモニターか何かで見ていたのだろう。
実にタイミングよく、笑い声と共に話しかけてくる。
――あははは、いい気味だっ。さて、冗談はここまでにして。今から私が援護に回る。君たちは遺跡に向かえ。その後はハルステッドのシールドを使い、遺跡を守る。以上だ!――
通信は切れて、いまだ煙を噴き続ける船は砲門を私たちの前にいる魔族たちに向けた。
「そうきたか。だが、それぐらいしかできないほどダメージを負ったんだな、アイリ?」
「うん。一撃で轟沈寸前。最悪よ。船の動力もあまり持たないから急ぎましょう! レイ!」
「ああ、わかってる。私たちが突貫して道を作る。皆さんは私たちの後ろに続いて!」
二人の言葉を受けて、マフィンがカオマニーとスコティに声を飛ばす。
「ここはお前らに預けたニャ!」
「了解ニャ、マフィン様!」
「了解ニャよ、親父!」
「それじゃっ!」
レイはオニキスの瞳に何重もの分厚き魔族の壁を宿し、剣先を向ける。
アイリもまた深紅の瞳をギラリとさせながら大鎌を構え、私たちにこう命じた!
「私とレイについてきてっ。遅れたら振り落としちゃうからね!」
私たちの返事を待たず、レイとアイリは魔族へと突貫していく。
マスティフはエクアを抱え、マフィンはカインを背中に乗せて彼らの後を追う。
親父は己の足で前へ飛び出し、私はフィナに手を握られ、魔族の波の中に飛び込んでいった。
レイはアイリに声を掛け、アイリはそれに応える。
「アイリ、私たちは道を作る。兄さんのことは仲間たちに任せよう!」
「わかった。それじゃあ~、行っくよ~!!」
アイリは大鎌を振るう。
だたそれだけで空気を爆ぜさせ、正面の魔族たちを空へと舞わした。
さらに彼女は空へ飛び上がり、大鎌に雷撃の力を纏わせ、舞った魔族たちを踏み台にしながら切りつけていく。
空を舞うアイリの下では、レイが両刃剣を大きく振るった。
「おお~!!」
剣は大地に叩きつけられ、その衝撃で地面は隆起し、幾つもの大地の拳が魔族を消し去っていく。
彼らの活躍を見たマフィンはマスティフに声を掛ける。
「さすがは勇者ニャ。でも、こっちも負けていられにゃいニャ! ケント、フィナ! カインを預けるニャ! マスティフ!!」
「応っ、わかっておる!! もはや体力魔力の温存など必要ない! ここが見せ場ぞ! エクアは親父殿に!」
マフィンは首につけた鈴に魔力を集約させて、力を増幅し、光の奔流に身を包む。
そして、友情の魔法を唱える!
――共に歩み別れ線は交差する機会を失えど、盟友の絆は凛として輝く。輝きは光の衣となりて我らの穢れなき魂魄を示し、十万億土へと続く道を形作る。我と汝は幾重もの層を産み、分界は終幕へと結び新たなる道を指し示さん! ニャ!!――
「永遠の誓い! マスティフ、任せたニャ!!」
「任せられた!! うおおおおぉぉぉぉお!!」
マフィンの柔らかな肉球から飛び出した力はマスティフを包み込み、その力は彼の肉体の限界を打ち破り、頂へと導く。
「行くぞっ! 澎湃紫電撃!!」
マスティフはガントレットから魔力を溢れさせて、全身にバチバチと音を弾けさせる紫の雷光を纏い、光の残影を置いて姿を消した!
紫電はレイへ襲い掛かろうとしていた千を超える魔族の一団を吹き飛ばし焼き尽くす。
稲光が通った道の後には、魔族の血と土煙が入り混じり逆巻く。
「がぁあぁぁぁぁ!」
マスティフの雄叫びが大地を縦横無尽に駆け巡り、彼の牙は獲物を喰らい尽くしていく。
彼の活躍に負けじと、マフィンはキャビットの誇る最大にして最強の魔法を唱える。
「偉大なるニャントワンキルの魔女王よ。そなたの眸子は搏動を劫略し寂滅の瞳。四肢を平伏させ、心を毀す。抗拒を失せし槃特に猫の始祖たる大いなる御手を顕現せよ、ニャ!」
――猫の瞳と肉球、ニャ!!――
マフィンは鈴により増幅された魔力を青白い光線として空へ放った。
光線が空を切り裂く。
裂かれた空は線を残し、それはゆっくりと開いていく。
開かれた亀裂の奥には闇が広がり、その闇には巨大な紫の猫の瞳が浮かび、それはこちらを覗き見た。
瞳は魔族たちを睨みつけて、ギンとした衝撃を地上へ放つ。
すると、衝撃を受けた魔族たちは体の動きを止めて、恐怖に呻き声を上げ始める。
瞳は消え、霧散した魔力は空に無数の巨大な猫の手を生んだ。
それはとても柔らかそうでありながら、重量感を纏うもの。
動きを奪われた魔族たちに肉球スタンプが降り注ぎ、彼らの強再生をあざ笑うかのように肉体を粉々に踏みつぶしていく。
さらに、大地に落ちた肉球から生まれた魔力の欠片が、周辺にいた魔族たちの神経を侵し、彼らの心を奪う。
一部の魔族は肉球の魅惑に囚われ、仲間たちに襲い掛かり始めた。
フィナはキャビット族必殺の魔法を目にして言葉を飛ばす。
「なんていうか、凄いんだけど、わっけわかんない魔法だね!」
「はぁはぁはぁ、わけわかんにゃいとはひどい言われようニャ。鈴の力で魔力を増幅させて、やっとできた極大召喚系魔法ニャのに」
「ええっと、ごめん。私の感性と対極にあるものだったからつい。さてっ、レイやアイリ。そして、マスティフさんやマフィンさんだけに任せてられないよね。私も行くよっ!」
「それは待つニャ」
「え、なんでよ?」
「フィナは今すぐ結界の道具の準備ニャ」
彼の言葉に私も同意する。
「マフィンの言うとおりだっ。レイアの援護が来る! 結界を張りつつ、レイたちが作ってくれた道を駆け抜けるぞ! さぁ、みんな。遺跡まであと少しだ! 行こう! フィナも!」
「え、ちょっと? 待ってよ!」
私たちは揃って駆け出した。
そのタイミングを見計らったように、空に浮かぶハルステッドから援護射撃が飛んできた――――とんでもない至近弾で!
私たちのすぐそばに砲弾が着弾し、衝撃が身体を貫いていく。
光線が大地を溶かし、熱が皮膚を炙る。
結界に包まれながら私は大声を喚き散らし、それにフィナが答える。
「まったく、無茶をする! フィナがいなかったらお陀仏だぞ!」
「なんなのっ? レイアっていう艦長はっ!? これ、援護どころか私たちごと吹き飛ばす気満々じゃん!」
「分厚い魔族の壁を前にして、それを打ち破ろうとするためには、これだけの至近距離に撃ち込まなければ意味がないということだ! そして、彼女はこちらの力量を予測し、この程度なら防げると踏んだのだろう!」
「力量を予測って? あ、マスティフさんとマフィンさんの戦いね。もう、二人が活躍するから!」
「な、なんと? 魔族の臓腑を食い破り怒られるとは……」
「頑張ったのに、残念ニャっ」
私たちは手を伸ばせば届く距離となった遺跡を目指して、己の足で駆けていく。
私たちを守るレイとアイリは道を作り続け、私たちの周囲にいる魔族たちは砲弾により姿を消し去っていく。
フィナは砲弾からの衝撃を結界で守り、レイたちの猛攻や砲弾の隙間に入り込んできた魔族を、親父とマスティフとマフィンが相手にして、エクアとカインと私がその援護に回る。
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生まれつき、一人一人に魔法属性が付与され、一定の年齢になると使うことができるようになる世界。
伝説の冒険者の息子、タイラー・ソリス(17歳)は、なぜか無属性。
勤勉で真面目な彼はなぜか報われておらず、魔法を使用することができなかった。
代わりに、父親から教わった戦術や、体術を駆使して、パーティーの中でも重要な役割を担っていたが…………。
リーダーからは無能だと疎まれ、パーティーを追放されてしまう。
ダンジョンの中、モンスターを前にして見捨てられたタイラー。ピンチに陥る中で、その血に流れる伝説の冒険者の能力がついに覚醒する。
タイラーは、全属性の魔法をつかいこなせる最強のオールラウンダーだったのだ! その能力のあまりの高さから、あらわれるのが、人より少し遅いだけだった。
タイラーは、その圧倒的な力で、危機を回避。
そこから敵を次々になぎ倒し、最強の冒険者への道を、駆け足で登り出す。
なにせ、初の強モンスターを倒した時点では、まだレベル1だったのだ。
レベルが上がれば最強無双することは約束されていた。
いつか彼は血をも超えていくーー。
さらには、天下一の美女たちに、これでもかと愛されまくることになり、モフモフにゃんにゃんの桃色デイズ。
一方、タイラーを追放したパーティーメンバーはというと。
彼を失ったことにより、チームは瓦解。元々大した力もないのに、タイラーのおかげで過大評価されていたパーティーリーダーは、どんどんと落ちぶれていく。
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