銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

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番外編 最良だったはずの世界

番外編10 冷たき弾丸

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 少女の声が響く。

――顕在匪砲レゾンレイン――

 すると、戦艦の赤の球体が光を纏い、そこから一条の光が三度瞬く。
 一つはハルステッドに命中し、もう一つは新造艦。
 最後の一つはアグリスのシールド。


 アステはモニターを見つめ、彼には似合わぬ焦りを見せた。

「両艦共にシールドダウン! 武器システム停止! アグリスのシールドもダウンだと!? 同じく武器システムが動いていない! これは!?」


 アステは空を見上げ、突として現れた船を見つめ、言葉を失った。
 いや、彼だけではない。誰もが言葉を失った。

 一人を残して……。

 バルドゥルは言葉に怯え纏い、船の正体を口にする。


「ま、まさか、あれは、連邦のれい艦隊旗艦……アルミラーデルウォン。そしてこの声は……ミシャ評議長?」


――正解です――


 空を巨大なモニターとし、一人の少女が現れた。
 彼女はバルコニーにもまた、立体映像ホログラムとして現れる。

 彼女は腰丈まで届く長い銀髪を持つ十代前半の少女。
 黒の瞳は新緑の虹彩に覆われ、それはとろりと眠そうな瞳をしており、顔は幼くとても愛らしいが、将来、美女としての姿が約束された顔立ち。

 服装は青のボーダーが入った白色のスカートに黒タイツ。上着は青の薄手のベストの上に、紺色の長袖のブレザー。
 そのブレザーの胸元と右肩には、複数のメビウスの輪でかたどられた花の模様があり、首元には黒のリボンタイといったまるで学生服のような装い。


 ケントは彼女の姿に見覚えがあった。
「たしか、君は遺跡の立体映像ホログラムのデータにあった……」<第二十四章 人智を超えし数値>


 少女は瞳をケントへ寄せて、感情の籠らぬ声で淡々と言葉を発する。
「連邦・最高評議会議長ミシャ=ロールズ。そのナンバー9です」
「え?」

 ケントが疑問の声を上げるが、その声をバルドゥルの狂声きょうせいが掻き消した。

「一桁ナンバーだと!? いや、それ以前に、どうして連邦が存在して!?」
「バルドゥル所長。宇宙消失の責を問うため、あなたを連行します。他の者へ命じます。彼を引き渡しなさい。これは命令であり拒否権はありません。拒否すれば、星を消します」


 そう言って、彼女はちらりとケントを見た。
 この小さな動作で彼は知る――。

(もしや、フィナの使いか? ならば、今が好機!!)

 ケントは素早く銃を抜き、バルドゥルへ発砲しようとした――だが、それよりも早く、重々しい別の銃声が響く。

――ドンッ! ドンッ!――

「がはっ!」
「なっ!?」

 悲鳴を上げたのはバルドゥル。驚きの声はケント。
 銃声の出所は――アステ!?


 バルドゥルは口から血を零しながらアステへ問い掛ける。
「な、ぜ……?」
「愚問だな。連邦とは貴様たち地球人と相対し、勝利を収めた存在。そのような存在を敵に回すなどできん。しかしながら、生きてお前を引き渡し、屈辱を与えるは余りにも哀れ。故に、友としておくってやろう」

「ふざけ――」


――ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!――


 アステは無言のまま銃を撃ち続ける。
 身体に風穴を生み続けるバルドゥル。
 彼は幾度も着弾の衝撃に体を跳ねて、やがてはバルコニーの冷たい床に倒れた。

 白いバルコニーに広がる鮮血。
 
 それを目にしたバルドゥルを守っていた騎士がアステに声をぶつけた。
「アステ様!? あなたは!!」
「落ち着け。状況を見極めよ。アレを敵に回して、我々が勝てると思うか?」

 彼はふいっと空に顎を動かす。
 そこにあるのは連邦の巨大戦艦。
 一瞬にして、アグリスの二隻の戦艦と王都のシールドを沈黙させた船。

 アステは自分の傍に立つ騎士へ命じる。
「奴らを拘束して置け。下らぬ考えを起こさぬようにな。もちろん、バルドゥルにくみしようと考えていた他の連中も」
「はっ!」

 騎士たちが仲間である騎士を捕らえ、連行していく、
 ここでケントは、この世界のフィナのある言葉を思い出す。


――アグリス内にはアステ派とバルドゥル派がいるのよ。旗色はアステ派の方がまだまだ優勢だけど、アステが無視できないくらいの勢力ができつつある――


(そうか、父さんはこれを好機ととらえ、バルドゥルを粛清したんだ。バルドゥルを支持する者たちも)


 瞬時にして状況を見極め、冷酷な決断を下した父の姿に、ケントの背筋には冷たいものが走った。
 そのアステはミシャへ向かい、言葉を掛ける。

「守護騎士は去った。このバルコニーに居るのは私と……お前の世界の住人だけだ」
「え?」

 ケントの小さな声。
 それに答えるように、ミシャの姿が揺らぎ、見知った姿へと変わる。

「ふ~ん、あんたにはバレてたってわけか」

 彼女はフィナ。
 ケントの世界のフィナ。
 フィナはアステへ話しかける



「よくわかったね? あのバルドゥルの目さえも誤魔化せてたのに」
「フッ、少々覚えがあってな」
「ん?」
「こちらの話だ」
「そ。ま、いっか。ケント。ごめんね、ちょっと手間取っちゃった」


 小さく舌を出すフィナ。
 ケントは軽い混乱を見せる。
「えっと、つまり……どういうことだ?」
「簡単に言うとね、遺跡の資料から連邦の兵器顕在匪砲レゾンレインっての見つけたの。これがまたすごいのなんのって。だけど、完全再現が難しくて、これだとバルドゥルをビビらせるどころかフェイクってバレちゃう。だから――」


 ここでアステが言葉を奪う。

「連邦の最高評議会議長の振りをして、バルドゥルを一時混乱させたというわけか」
「ぴんぽ~ん、あたり~」
「そして、空に浮かぶ戦艦は精巧な立体映像ホログラムだな。武器は本物のようだが」
「ぴんぽ~ん、またまた大あたり~」

「はぁ、やることも態度も子供じみた真似だな……」
「だからこそ、頭がかっちかちの大人が引っ掛かるってわけじゃん」

 ニヤリと不敵な笑みを見せるフィナ。これにアステは軽く鼻息を飛ばし、ケントへ視線を送る。
「フッ、貴様の世界のフィナは曲者のようだな。ケント」
「ええ、まぁ」

「ちょっと、そこは否定しなさいよ!」
「否定できる材料がなくてな」
「このやろっ」

「そう怒るな。今のは誉め言葉だと思うぞ」
「どこが! で、これからどうすんの?」
「バルドゥルは死んだ。ここで、私たちの役目は終わりだが……」


 ケントはアステへ顔を向ける。
 彼は笑みを見せて、こう言葉を返す。
「フフ、こちらまだまだ戦いの余力が残っている。バルドゥルは無く、戦艦は無かろうとな」
「まだ、戦争を?」
「フッ……しかしだ、これ以上続ければ勝ちを得ても被害は甚大。よって、停戦を求める。停戦の条件はこちらが大幅に譲歩しよう。そう、向こうのフィナに伝えてくれるか、フィナよ」

「おっけ。あとはこっちの世界の問題だしね。それが伝え終えたら、帰ろっか、ケント」
「そうだな。だが、最後に……父さん」


「なんだ?」

「余計な世話だと重々承知ですが、言わせていただきます。どうか、人の心を見てください。私の父にはできた。だから、あなたにもできるはずだ」
「フン、下らん」
「ふ~、やれやれ、こちらの父さんは曲者ようだ」
「ぬっ」


 これにフィナが笑い声を挟み入れる。
「あはは、言われてやんの~」
「はぁ、お前たちの世界は気楽な世界のようだな」

「そうでもないよ~、バルドゥルとやり合って、別の世界のバルドゥルをコテンパンにして、数十万の魔族と戦って、ネオ陛下とジクマじいさんと数十人のシエラと同時に戦って、炎燕エンエンと真っ向勝負したんだから」

「それは……驚きの世界だ」

「同じ研究者として言うけどさ、何もかもを省みない研究なんて世界を狭くするだけよ。もっと余裕をもって道を歩まないと損だって」
「はっ、小娘にここまで好き勝手に言われるとはな……早く帰れ、ここはお前らには不似合いな世界だ」


 彼の言葉に、フィナは両手を軽く上げて肩を竦める。
 それにケントは笑い声を漏らし、アステは眉を顰めた。

「さて、こちらのフィナに報告を上げて、私たちの世界へ帰るとしよう。帰りは――」
「ミーニャに任せるニャ。フィナが空間の干渉波を緩和したおかげで、出入りが簡単ににゃったからニャ。フィナの方は遺跡のエネルギーの使い過ぎで、充填にしばらくかかるニャろ?」
「うん。無理やり起動したからね。じゃ、私はこっちで待ってるから、通信終了」


 フィナの姿が消える。
 同時に、空に浮かんでいた連邦の戦艦も姿を消した。
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