転生少女と黒猫メイスのぶらり異世界旅

うみの渚

文字の大きさ
2 / 180
第一章 

第2話 鏡の中の少女

しおりを挟む
「はぁ……。いい加減、現実に目を向けなきゃ……」

 項垂れたまま床に両手をついていたが、どんなに否定したくても時間は過ぎていくだけで何も解決しない。
 ノロノロと立ち上がり、椅子に腰を下ろしてテーブルに肘をついて両手を組んだ。
 室内を見渡して思ったのは、最低限の家具は揃っているがどれも使い古した物ばかりで、どう見ても私のために用意されたようには見えなかったことだ。
 しかし、じっくりと見てみるとその家具一つ一つに細かい装飾が施されているのが分かる。
 以前はそれなりに裕福な家で使用されていたのかもしれない。
 どういった経緯でここにあるのか分からないし、もしかしたら最初からここに設置されていたのかもしれないが……。
 いずれにせよ、この状況下で考えるべきことは他にある。

「私、誰なの?で、ここはどこ?」

 細く筋張った手を眺めて考えた。
 声色と目線の低さから、大人ではないことくらい自分でも分かる。
 だが、それ以外の情報がないため、自分の姿を確認する方法がなくて視線を彷徨わせた。
 周囲を見渡して、部屋に備え付けられた家具に視線を向けて呟いた。

「あっ、引き出しに何かないかな?」

 僅かな期待を胸に引き出しに手を伸ばした。
 引き出しを開けて中を覗くと、ほこりを被った手鏡を見つけた。

「あっ、手鏡がある。とりあえず今の私がどんな感じか見てみよう」

 自分がどんな容姿なのか知らないため、興味が湧いて覗いてみた。

「ふぇっ?……これが私?」

 ひび割れた鏡に映っていたのは、明らかに日本人とは違う顔立ちの黒髪黒目の瘦せこけた少女だった。
 ジッと眺めていると、激しい頭痛に襲われて頭を抱えてうずくまる。
 あまりの痛みに目を閉じて息が荒くなる。
 痛みに耐えている間に脳内に大量の記憶が流れ込んできて、ますます動揺してしまった。

「う、うぅ……。な、なに?……この記憶は私の記憶?」

 大量の情報量に最初は動揺してしまったが、痛みが治まると共に落ち着きを取り戻した。
 
「……なるほど。私の名前はユリーシュカ・ロージスなのね。で、私の黒髪黒目のせいでお母様と離れに追いやられたってことか……」

 ユリーシュカとしてこの世に生を受けて九年。
 蘇った記憶を辿ってもお母様と二人離れで暮らした記憶はあるが、それ以外の人といえば、お母様が亡くなってからは食事を運んで来る使用人しかいなかった。
 その食事も、硬いパンとほとんど具材が入っていない冷めたスープだった。
 当然のことながら、そんな食事では栄養なんてしっかりと摂れるはずがない。
 筋張った腕を見て大きく息を吐き出した。

「は―。どうりで瘦せこけている訳だ。育ち盛りの子供にこんな仕打ちをするなんて、日本だったら幼児虐待で訴えられても文句は言えないレベルよ」

 ポツリと零した声は、自身の声とは思えないほどに弱々しかった。
 再び椅子に腰を下して腕を組んで考える。

 記憶にあるお母様は、いつもにこやかに微笑んでいた。
 物心つく頃には、私が困らないようにと読み書きを教えてくれた。
 どうやらその頃から物覚えが良かったようで、すぐに文字を覚えて一人で本を読めるまでになっていたようだ。
 そんな私をお母様は素直に喜んで褒めてくれた。

『まあ!わたくしの可愛いユリーシュカは天才なのね!お母様は嬉しいわ!』

 あの時のお母様の笑顔はまるで少女のように愛らしく見えた。
 その後、魔法に興味を持った私を困ったような表情をしながらも、基礎を丁寧に教えてくれたんだっけ。
 おかげで、魔法は問題無く使えそうだ。
 あの頃の私は、魔法が存在することに何の疑問も持っていなかった。
 しかし、前世の記憶が蘇ったことで、ここが地球とは違う次元に存在する世界なのだと気づかされた。
 私は椅子の背もたれに体を預けると、天井を仰ぎ見て呟いた。

「あ~。やっぱり異世界転生しちゃってたのかぁ……」

 どうして前世の記憶が蘇ったのか分からない。
 でも、細くて筋張った腕を見るからに、このままだとこの世とお別れする日もそう遠くないことだけは容易に想像出来た。
 もしかして、私を憐れんだ神様もしくは今は亡きお母様が助けてくれたのかもしれない。
 随分と都合の良い解釈だが、そうでも思わないと孤独と寂しさで心がおかしくなってしまいそうだ。

 ぐうぅぅぅ

 沈みかけていた気持ちを邪魔するように、お腹から盛大な音が聞こえて意識が浮上する。

「お腹空いた。先ずは食料の確保が最優先事項ね」

 せっかく与えられた第二の人生だ。
 何が何でも生き抜いてやる。
 空腹で足に力が入らないままふらりと立ち上がると、状況を確認するため窓に近づいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に来ちゃったよ!?

いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。 しかし、現在森の中。 「とにきゃく、こころこぉ?」 から始まる異世界ストーリー 。 主人公は可愛いです! もふもふだってあります!! 語彙力は………………無いかもしれない…。 とにかく、異世界ファンタジー開幕です! ※不定期投稿です…本当に。 ※誤字・脱字があればお知らせ下さい (※印は鬱表現ありです)

底無しポーターは端倪すべからざる

さいわ りゅう
ファンタジー
運び屋(ポーター)のルカ・ブライオンは、冒険者パーティーを追放された。ーーが、正直痛くも痒くもなかった。何故なら仕方なく同行していただけだから。 ルカの魔法適正は、運び屋(ポーター)に適した収納系魔法のみ。 攻撃系魔法の適正は皆無だけれど、なんなら独りで魔窟(ダンジョン)にだって潜れる、ちょっと底無しで少し底知れない運び屋(ポーター)。 そんなルカの日常と、ときどき魔窟(ダンジョン)と周囲の人達のお話。 ※タグの「恋愛要素あり」は年の差恋愛です。 ※ごくまれに残酷描写を含みます。 ※【小説家になろう】様にも掲載しています。

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

元チート大賢者の転生幼女物語

こずえ
ファンタジー
(※不定期更新なので、毎回忘れた頃に更新すると思います。) とある孤児院で私は暮らしていた。 ある日、いつものように孤児院の畑に水を撒き、孤児院の中で掃除をしていた。 そして、そんないつも通りの日々を過ごすはずだった私は目が覚めると前世の記憶を思い出していた。 「あれ?私って…」 そんな前世で最強だった小さな少女の気ままな冒険のお話である。

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう! 公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
アルファポリス様より書籍化! 転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

まったく知らない世界に転生したようです

吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし? まったく知らない世界に転生したようです。 何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?! 頼れるのは己のみ、みたいです……? ※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。 私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。 111話までは毎日更新。 それ以降は毎週金曜日20時に更新します。 カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。

魔王と噂されていますが、ただ好きなものに囲まれて生活しているだけです。

ソラリアル
ファンタジー
※本作は改題・改稿をして場所を移動しました。 現在は 『従魔と異世界スローライフのはずが、魔王と噂されていく日々』 として連載中です。2026.1.31 どうして、魔獣と呼ばれる存在は悪者扱いされてしまうんだろう。 あんなに癒しをくれる、優しい子たちなのに。 そんな思いを抱いていた俺は、ある日突然、命を落とした――はずだった。 だけど、目を開けるとそこには女神さまがいて、俺は転生を勧められる。 そして与えられた力は、【嫌われ者とされる子たちを助けられる力】。 異世界で目覚めた俺は、頼りになる魔獣たちに囲まれて穏やかな暮らしを始めた。 畑を耕し、一緒にごはんを食べて、笑い合う日々。 ……なのに、人々の噂はこうだ。 「森に魔王がいる」 「強大な魔物を従えている」 「街を襲う準備をしている」 ――なんでそうなるの? 俺はただ、みんなと平和に暮らしたいだけなのに。 これは、嫌われ者と呼ばれるもふもふな魔獣たちと過ごす、 のんびり?ドタバタ?異世界スローライフの物語。 ■小説家になろう、カクヨムでも同時連載中です■

処理中です...