転生少女と黒猫メイスのぶらり異世界旅

うみの渚

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第一章 

第3話 新たな決意

 ふらふらとした足取りで窓に近づいて外に視線を向けた。
 陽射しは強いが暑いというほどでもない。
 視線を落として眼下に広がる景色を見て言葉を失った。
 視界に捉えた光景は、まるで絨毯じゅうたんのように緑色に染まる草原が広がっていた。

「うわぁ―」

 都会のコンクリートジャングルに慣れた私にとって、自然に満ち溢れた景色は新鮮に映った。
 感嘆の声をあげてしばらく食い入るように眺めていた。

 コツ、コツ、コツ

 ふと、私の耳に誰かの足音が聞こえて振り返る。
 その足音は真っ直ぐこの部屋に近づいているようだ。
 窓を背に立っていると、ノックも無しに扉が開かれた。
 扉の向こうから現れたのは、白いエプロンを着けた薄茶色の髪を結った女性だった。
 彼女はこちらに視線を向けることもないまま雑に食事が乗ったトレーを置くと、すぐにきびすを返して部屋を出て行った。

 パタンと扉が閉まる音に我に返る。
 そこで、彼女が毎日食事を運んで来る使用人だと気がついた。
 テーブルに近づいてトレーに置かれた食事を覗き込む。
 記憶と同じ硬いパンと、ほとんど具が入っていない冷めたスープにため息を零した。

「はぁ……。これだけじゃ、ちっとも足りないんだけどなぁ」

 文句を零しつつ椅子に腰を下ろす。
 しかし、お腹と背中がくっつきそうなこの状況で、食べないという選択肢はない。
 硬いパンを手に取り感触を確かめる。

「……かった。カチカチじゃん。……スープに浸して柔らかくしておくか」

 記憶にあるパンも硬かったけど、実際手に取ってみると尋常でない硬さにため息が零れた。
 空腹ですぐにでも食べたかったのに、一気に食欲が無くなってしまった。
 それでも、無理矢理パンとスープを胃袋に流し込んで食事を済ませる。

「ふぅ……」

 足りないと思っていたのだが、意外にもお腹が膨れてしまった。
 きっと、毎日少ない食事を摂っていたせいで、胃が小さくなってしまったのだろう。
 お腹が満たされたことで、少しだけ心に余裕が出来た。
 再び窓辺に立って外を眺めながら呟いた。

「一応、最低限の食事は出てる。……でも、このままだといずれ栄養失調で死んじゃうかも……」

 ネグレクトという言葉が脳裏をよぎり身震いした。
 今は辛うじてあの使用人が食事を運んで来ているが、それすら放棄されたら数日と持たずにあの世行きになるのは確実だ。

「せっかく魔法がある世界に転生したのに、何も楽しめないまま死ぬのは絶対に嫌だ」

 俯きかけた顔を上げて拳を握りしめる。
 黒髪黒目というだけで私を忌み嫌い、お母様と私を離れに追いやった顔も知らないお父様、いやクソ親父のために死んでやる義理はない。
 幸いにも前世の記憶が蘇る前に、お母様から読み書きと魔法について学んでおいて良かったと笑みを浮かべた。
 これはただの推測だけど、こうなることを見越してお母様は色々と教えてくれたのではないかと思っている。
 そうでなければ、生きていくための知識を教えようとは思わないはずだ。
 だって、私は一応貴族の令嬢なのだから。
 それに、お母様は常々言って聞かせてくれた。

『わたくしの可愛いユリーシュカ。あなたは紛れもなくあの方とわたくしの大切な娘です。あなたの黒い髪と瞳はカミール家初代ご当主様と同じなのです。……きっと、先祖返りしたのでしょう。何もやましいことはありません。己を恥じることなく堂々となさい。……そして、自由に幸せになりなさい』

 病床に就いてからも、お母様は自身のことより私の身をずっと案じてくれていた。
 あの時の私は幼過ぎて、話しの半分も理解していなかった。

 今なら分かる。
 顔も知らないクソ親父がいつか迎えに来ると期待していた時期もあったが、前世の記憶が蘇った今なら絶対に迎えに来ないだろうことを。
 それなら私のやるべきことは一つだ。

「ここを出る。それしかないわ」

 グッと強く拳を握りしめた私は、決意を新たに風に身を任せて揺れる草原を眺めていた。

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