転生少女と黒猫メイスのぶらり異世界旅

うみの渚

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第一章 

第55話 濃紺の商業カード

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 交互にヤマモトさんと布袋を見ていた私に、ヤマモトさんは話し始めた。

「ユーリ様は冒険者をなさっておいででは?それでしたら、商業カードもお作りしておいた方がよろしいかと存じます。うちは商業カードを発行していまして、他の商業ギルドでカードを作るより登録料はお安く出来ますし、ユーリ様でしたら融通を利かせることも可能ですし色々と特典をお付けします。いかがですか?」

 ヤマモトさんは柔和な笑みを浮かべながら、魅惑的な勧誘をしてきた。
 魅惑的な話しに私は頷きかけて動きを止める。
 素直に受け入れて良いのだろうか?
 ヤマモトさんは悪い人には見えないが、ここまで優遇されるようなことはしていないと思うのだが。
 返事を濁していると、脳内にメイスの声がした。

『アイツにも何某なにがしらの益があるから提案しているのだろう。遠慮なく作っておけ』

 メイスの言葉に、それもそうかと納得した。
 私はちらりと肩に乗っているメイスを見て小さく頷いた後、ヤマモトさんに視線を向けて応えた。

「はい。それではこちらで商業カードをお願いしても構いませんか?」

「もちろんでございます。さっそくお作りいたしますので、もうしばらくお待ちください」

 そう告げて席を離れたヤマモトさんは、足早に部屋を出て行った。
 一人と一匹が部屋に残されて、目の前のトレーに視線を向ける。
 もっと美味しい物が食べたくて軽い気持ちで話しただけなのに、いつの間にか契約やら特許料やらで話しが大きくなってしまった。
 布袋の半端ない膨らみ具合から、大金が詰まっていることは容易に想像出来る。
 茫然と眺めていたら、控えめなノック音がした後、ヤマモトさんが部屋に入って来た。

「お待たせいたしました。恐れ入りますが、カードに血を一滴垂らしていただくことになりますが構いませんか?それで登録は完了いたします」

 やっぱりここでも登録するには血が必要なのか。
 でも、二回目だし針に回復魔法が付与されているなら、そこまで身構えなくても大丈夫かな。
 そう考えた私はヤマモトさんに返事をした。

「すぐ終わりますよね?だったらお願いします」

 真向かいに腰を下ろしたヤマモトさんに向かって手を伸ばすと、ギュッと目を閉じた。

「それでは失礼いたします。チクッとするのはほんの一瞬ですので、少し我慢してください」

 ヤマモトさんの穏やかな声に、私は無言で頷いた。
 温かい手が下から支えるように持ち上げられて、閉じた目に力が籠る。

「はい。終わりましたよ。目を開けて大丈夫です」

 その声に目を開けると、笑みを浮かべるヤマモトさんと目が合った。
 まるで子供か孫に微笑みかけるような眼差しを向けられて、私は照れくさくて顔を俯けた。
 実際、十歳の子供なんだけどね。
 でも、前世から注射が苦手だったため、目を瞑るのがクセになっていたみたいで、それが何だか恥ずかしかったのだ。
 俯いていると、ヤマモトさんの穏やかな声が聞こえた。

「ユーリ様。こちらが商業カードでございます。入金の確認をする場合は、裏面に描かれてある硬貨に指を触れてくだされば残高を確認出来ます。尚、支払いや買い物もこのカードで出来ますので、大金を持ち歩く心配もございません。うちと提携している店であれば、多少割引いてもらえるでしょう」

 そう説明し終えると、濃紺のカードをトレーに載せて私の前に差し出した。
 私は、差し出されたカードを手に取りじっくりと眺める。
 手触りはプラスチックみたいだけど、この世界にも似たような材質の物が存在するのだろうか?
 不思議に思った瞬間、またしても鑑定のスキルが勝手に発動した。
 不意を突かれたため、肩がピクッと跳ねる。
 肩が跳ねたのに気がついたメイスが、念話で尋ねてきた。

『……どうした?何か気になることでもあったか?』

 メイスの問いかけに、私は慌てて返事をした。

『ううん。鑑定のスキルが勝手に発動したから驚いただけ。驚かせてごめんね』

『そうか。それならば良い』

 メイスは短く答えると、安心させるように私の背中を尻尾で撫でた。
 メイスの優しさに笑みを浮かべて、再び濃紺のカードに視線を向ける。
 目の前には鑑定の結果が表示されていた。
 カードに使われた素材は、前世でも聞いたことがない鉱石を加工したものだった。



 その後、報酬をカードに預けた私は、ヤマモトさんに見送られてグローブフォレスト商会を後にした。
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