転生少女と黒猫メイスのぶらり異世界旅

うみの渚

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第一章 

第58話 王城よりも串焼き

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 老婆の姿が見えなくなって、私は再びベンチに腰を下ろす。
 前世の日本と違い、この世界には身分差があることを強く思い知らされた。
 老婆の忠告がなければ、王城に近づく前にあの世行きだったと想像しただけで背筋が凍る思いがした。

「平民か貴族で待遇が違うってこと、すっかり忘れていたなぁ……」

 ポソッと呟くと、肩から膝の上に移動したメイスがこちらを見上げて言った。

『見つからなければ良いのだろう?王城が見たいなら俺が連れて行ってやろう』

 いや、それ不法侵入になるから。
 確かに、魔法に長けたメイスなら難無く王城へ近づくことも容易だろう。
 だけど、もし見つかってしまえば、せっかくの冒険が早々に終わってしまう。
 それだけは何としても避けたい。
 私は苦笑交じりに答えた。

「どうしても近くで見たい訳じゃないから、そこまでしてくれなくても大丈夫だよ。気持ちだけ受け取っておく。ありがとう、メイス」

 そう言ってメイスの艶やかな背中を撫でる。
 私の返事にメイスは不満気の様子だけど、騒動を起こしたくない私は必死にメイスのご機嫌を取った。

「そうだ。そろそろお腹空かない?美味しいお肉が食べたくなっちゃった」

『……肉か。ふむ。そうだな』

 メイスはそう答えて肩に飛び乗って来ると言った。

『さっさと行くぞ』

 肉に目がないメイスで良かった。
 ほっと胸を撫で下ろして立ち上がる。
 尻尾で肩を叩いて急かしてくるメイスに苦笑しながら、私達は再び人々で混み合う市場へと戻っていった。







 昼時ということもあり、市場はますます人々で混み合っている。
 こういう時、子供の体は不便だなとつくづく実感してしまう。
 しかし、こういう時こそスキルが役に立つ。
 私はスキルを駆使して肉を扱う店を探した。
 すると、身体強化した鼻が肉の匂いを嗅ぎ取った。

「あっ、あの店だ!見つけたよ、メイス!」

 メイスに声をかけながら足早に目的の店に駆け寄る。
 その店の前には、肉を買い求める客が列をなしていた。
 肉の香ばしい匂いに混じり、ベルクの街で嗅いだ醬油の香りが鼻をくすぐる。
 これ、絶対美味しいヤツだ!
 そう確信したのと同時に、興奮した様子のメイスが脳内に語りかけてきた。

『ユーリ、この匂いはあそこで食した串焼きと似ているぞ!あの店の肉にしよう!』

 珍しく興奮した様子のメイスが、落ち着きをなくしてそわそわとし始めた。
 その姿がおかしくて、思わず笑みが零れてしまう。

「ふふふ。うん、あのお店なら絶対に美味しいと思う。お客さんが多いから少し待つことになるけど、大人しく待っていられる?」

『ああ、問題ない。それよりも早く列に並んでおけ。他のヤツに割り込まれるぞ』

 他の店より列をなしている客が多いため、メイスが尻尾で肩を叩きながら急かしてくる。

「ふふ。はいはい」

 ベルクの街で食べたタレが余程お気に召したのか、肩に乗ったまま忙しなくぐるぐると歩き回っている。
 ここまで興奮したメイスを見たのは初めてで、笑いを堪えるのが大変だった。



 ホント、肉に目がないメイスで良かった。
 もし、あのまま王城へ連れて行かれていたら、こうやってのんびりと串焼きを食べられたか分からない。
 今のメイスの興味は、醬油の香ばしい香りを放つ串焼きに向けられている。
 王城よりも串焼きが大事なのだろう。
 王城から串焼きに関心を逸らせたことに内心安堵しながら、メイスに急かされるように列に並んだ。
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