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第一章
第59話 メイスの胃袋は亜空間?
しおりを挟む串焼きを大量に買って、広場のベンチで少し遅めの昼食を摂る。
メイスはご機嫌な様子で尻尾を揺らしながら肉に嚙り付いていた。
『ふむ。やはりこのタレが肉に合うな。ユーリ、もう一本くれ』
「はいはい。でも、これで十本目だよ。食べ過ぎじゃない?」
驚くほどの食欲を見せるメイスに呆れながら、串から肉を取り外して皿に載せていく。
私の言葉が耳に届かなかったのか、メイスは黙々と肉を胃袋に収めていくと、ようやく満足したように顔を上げた。
『ユーリ、明日もあの店に寄ろう。他の客が居るからと二十本までしか買えなかっただろう?毎日買って亜空間に収納しておけばいつでも食せる。どうだ、良い案だろう?』
もの凄く良いアイデアだとばかりに話すメイスだが、串焼きと言っても肉一つ一つは大きくて、私は一本でお腹いっぱいになってしまった。
二十本でも十分な量なのに、毎日買うなんてハマり過ぎじゃない?
メイスの胃袋も亜空間になっていそうで怖い。
でも、まぁ、メイスがご機嫌ならいいか。
それに、ヤマモトさんから貰った報酬だってたんまりとあるし、日頃メイスに世話になっているんだもん、少しくらい贅沢しても構わないだろう。
「ふふ。分かった。でも、二十本までだよ。それ以上は店主に迷惑をかけちゃうからダメだよ。他のお客さんだって買いたいだろうしね」
しばらくの沈黙の後、メイスは口を開いた。
『……うむ。仕方あるまい。だが、王都に居る間は毎日買いに行くぞ。それだけは譲れん』
メイスさん?もしかして、もっと買うつもりでいたの?
一応、二十本までと言っておいて良かった。
残り四日、毎日あの店に買いに行くことで納得してくれたけど、そうじゃなかったらどれだけ買い占める気でいたのか、逆に気になってしまった。
それから私達は毎日広場へ向かい、同じ店で串焼きを二十本ずつ買い続けていた。
当然、串焼きを買った後は、グローブフォレスト商会で仕入れた米を炊く道具や包丁、まな板など、調理器具を買うことも忘れてはならない。
そんなこんなで用事を済ませながら、いよいよ明日は王都を発つ日がやってきた。
通い慣れた広場に向かうと、見慣れた店が見えてきた。
私の姿を視界に捉えた店主が笑顔で迎えてくれた。
「おぅ、坊主。いつもありがとうな。今日も二十本でいいのか?」
ここの所、強い陽射しのせいで顔や腕など日に焼けて真っ黒になった店主を見上げて私は答えた。
「はい。こちらこそ、いつも無理を言ってすみません。明日王都を発ちます。美味しい串焼き、ごちそうさまでした」
店主は目を大きく見開いた後、ボソッと呟いた。
「明日発つのか?……それは寂しくなるな」
確かに、毎日串焼きを二十本も買う客はそうそう居ないだろう。
たった四日の短い間だったけど、私ももうこの店の串焼きが買えなくなると思うと寂しいと感じた。
「……そうですね」
そう返事をすると、店主がニカッと白い歯を見せて言った。
「湿っぽい話しはヤメだ。明日発つんだろ?だったら今日は沢山買っていってくれ。オマケするよ」
『ユーリ!倍の四十、いや、それだとキリが悪いから五十本だ。五十本にしろ!』
それまで大人しくしていたメイスが、店主の話しに被せるように騒ぎ始めた。
メイスに気がついた店主が一瞬目を見開いた後、私に問いかけてきた。
「なぁ、坊主。その従魔、何を騒いでいるんだ?俺にはニャーニャーと鳴いているようにしか聞こえないんだが、坊主には分かるんだろ?」
私と会話が出来ているから、店主から言われるまで気がつかなかった。
そうか。すっかり忘れていたけど、従魔契約をした者としか会話が交わせないんだっけ。
私は苦笑を零しながら店主にメイスの言葉を伝えた。
「えっとですね。串焼きが五十本欲しいそうです」
「……五十本?」
これでもかと言うほど目を大きく見開く店主に、私は申し訳なくて眉尻を下げた。
「……はい。五十本です。……すみません」
未だ、肩で五十本と連呼するメイスを無視して頭を下げる。
「あ、いや、謝らなくていい。……五十本か。よし!坊主と従魔のために気合いを入れて焼くか!」
そう言って腕捲りした店主は、列に並んで待っていた他の客に事情を説明すると串焼きに集中した。
私も、並んで待っているお客さんにペコペコと頭を下げて回った。
メイスはと言うと、我関せずといった様子で串焼きを凝視していた。
理解のあるお客さんたちで良かったと胸を撫で下ろしたのはここだけの話。
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