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第一章
第60話 先輩冒険者の言葉の重み
しおりを挟む王都での一週間はあっという間だった。
少し早めに身支度を整えて朝食を済ませると、女将さんに挨拶をして宿を出る。
もっと色んな場所に行ってみたかったが、老婆の忠告に従ってあまり王城付近には近寄らなかった。
メイスの幻惑魔法で髪と瞳の色を変えているとは言え、あの人に私の居場所を知られるとも限らないからだ。
もっとも、あの人が探しているとは到底思えないのだが。
まあ、そんなことよりもだ。
昨夜、夕食の時に女将さんに諸外国についていくつか情勢を尋ねておいた。
メイスではなく、なぜ女将さんなのかと言うと、以前メイスに尋ねた時に言われたのだ。
『俺の人間界についての情報は二、三百年前で止まっているから聞くだけ無駄だ』
とのことだったので、王都に住んでいる女将さんなら何か知っているだろうと考えて尋ねることにした。
宿で働いているなら、きっと他所の国の情報も知っているだろうと自分なりに考えてのことだったのだが……。
「ああ、それならうちの主人の方が詳しいと思うわよ。主人はね、若い頃は冒険者をしていたの。あちこち行ったって言っていたから、そう言った話しなら主人に聞いた方が良いわ。手が空いたら呼びに行くから部屋で待っててもらえるかしら?」
忙しいのに態々時間を割いてくれるなんて、女将さんもご主人も良い人だ。
何だか申し訳ない気がして、断ろうと口を開きかけた。
すると、私の心を見透かしたように女将さんが話しを続けた。
「お客さんは冒険者でしょう?情報というのは私ら商売している者にはとても大事なことなの。だから、私達に遠慮は要らないわ」
女将さんは、たった一週間滞在しただけの私にとても親身に接してくれた。
その気遣いが嬉しくて、自然と感謝の言葉が出ていた。
「お心遣いありがとうございます。そう言ってもらえると助かります」
「あら、いいのよ。それに、お客さんのようなお若い方が一人で冒険者をしているのですもの。何か困ったことがあったら手助けしたいと思っていたの。お役に立てそうで良かったわ。それじゃあ、後でお部屋の方に呼びに行くから待っていてね」
女将さんは朗らかに応えると、厨房へと去って行った。
家族には縁がなかったけど、メイスやビリーさん、カリーナさんに街の人達と出会う人に恵まれたと思う。
こんなにも異世界の人達が思いやりに溢れていたなんて思いもしなかった。
その後、女将さんが部屋に呼びに来て食堂へと向かう。
そこには、女将さんとそう変わらない年齢の大柄な赤い髪の男性が、椅子に腰かけて私を見ていた。
男性は、椅子に腰を下ろしたまま口を開いた。
「座ったままで悪いな。左足が不自由でな、義足をつけてはいるんだが、疲労がたまると痛むんだ。で、外国の情勢を知りたいんだって?俺で良ければ何でも聞いてくれ。答えられることなら何でも答えるぞ」
男性の話しを聞いて、私は言葉を失った。
冒険者になるということは、常に死と隣り合わせだということを私はすっかり忘れていた。
柔らかく目を細めて私を見つめるその眼差しは、年齢にしては随分と達観しているように見える。
茫然と立ち尽くす私に、男性は真面目な顔をして語り始めた。
「驚くのも無理はないか。だがな、冒険者になったのならこうなることも想定しておくべきだ。ランクが上がれば報酬も上がる。俺のような学の無い人間でも冒険者になれる。しかし、その分危険もつきまとうもんだ。よほど腕に覚えのある者じゃなければ冒険者なんて長くは務まらない。あんたもその辺しっかりと考えておくことだ」
男性の言葉には重みがあった。
改めて先輩冒険者だった男性の話しを聞いて、私は気を引き締め直す。
神妙な面持ちの私に、男性は笑みを浮かべて続けて語る。
「あんた、年のわりに賢いな。俺があんたの年の頃は、近所のガキを引き連れて悪さばかりしてたってのにな」
悪戯っぽく笑みを浮かべた男性の隣で、女将さんが肘で男性の肩をせっついて言った。
「もう、そんな黒歴史、何も今話す必要はないでしょ。早く外国の話しをしてあげなさいな」
「あ、ああ、悪い。つい楽しくてな。……あまり詳しくはないが、俺が外国を旅して感じたこと、治安、気をつけることを話そう。これはあくまでも俺の経験と感じたことだから、参考程度に頭の隅にでも覚えておいてくれたら良い」
そう告げると、男性は静かに語り始めた。
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