転生少女と黒猫メイスのぶらり異世界旅

うみの渚

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第二章

第65話 命名 ブロン

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 マシュマロのようなころころとした真っ白い子犬の姿に、私の心臓が一瞬で撃ち抜かれる。

「可愛い~!マシュマロみたい!」

 あまりの愛らしさにフェンリルを腕に抱えて頬ずりする。
 ふわっふわの毛並みが柔らかくて気持ち良い。
 時折、フェンリルのお腹に顔を埋めてお日様の匂いを堪能する。
 フェンリルは私にされるがまま大人しく腕に抱えられていた。
 でも、嫌というわけではなさそうで、ふさふさの尻尾をパタパタと振っている。
 肩に乗ったメイスが不貞腐れたように呟く。

『……俺の時とはえらい違いだな』

 メイスの呟きを耳にして確かにそうだと気がつく。

 私は基本、もふもふ系が大好きだ。
 ビロードのような艶々とした黒い毛並みも、撫で心地が良くて気に入っている。
 しかし、同じもふもふでも、メイスには気軽に触れるようなことはなるべく避けていた。
 こうしてフェンリルと見比べてみると、理由が分かったような気がした。
 それは、大人の態度を取るメイスと、幼い少年のままのフェンリルを見ていたらすぐに気がついた。

 メイスの場合、内面から滲み出る気品とでも言えば良いだろうか、気後れしてしまいそうになるほどの高貴なオーラに、近寄り難いこともしばしばあった。
 別にメイスが苦手なわけではなく、言動や佇まいが人間の大人みたいだってことね。
 
 一方のフェンリルは、声色から幼いことは容易に想像出来たし、そもそも言動も幼子とそう大して変わらない。
 図体は大きいのに言動が幼いなんてちぐはぐしているが、そんな状態の彼を野放しのままでいたらきっと大変なことになってしまう。
 メイスの呟きを無視して、腕に抱えた愛らしい子犬(元は大きなフェンリルだった)に視線を向けて尋ねる。

「そうだ!名前は何て言うの?」

 尋ねられた子犬は首を傾げて言った。

『なまえ?ないよ?』

 その言葉に私もつられて首を傾げる。
 メイスは自分の名前を持っているのに、この子は持っていないということだろうか?

 ん?
 魔物が名前を持っていること自体がおかしいのか?
 ふと湧いた疑問が脳内を占めていく。
 疑問が何周も脳内を駆け巡っていた時、フェンリルの弾んだ声が耳に届いた。

『おねえちゃんがなまえつけて』

 穢れを知らない純粋な瞳と視線が合う。
 可愛い……。
 名前をつけてと言われたけど、本当に私がつけて良いの?
 どうしようかと悩んでいると、メイスが話し始めた。

『ユーリ、アイツに名前をつけてやれ。名前をつけることでアイツはお前の言うことに逆らえなくなる。俺としても面倒事から解放されるのはありがたい』

 メイスったら。面倒事を私に押しつける気ね。
 ま、私としてもこんな愛らしい子が傍に居てくれるなら大歓迎よ。
もふもふし放題な上に、もし、この子が暴走しそうになった時は名づけ親として全力で止めさせてもらうわ。

「わかった。メイスの平穏のためにもとびっきりいい名前を考えるわ」

 期待の眼差しを向けるフェンリルに応えるため、私は前世の記憶を頼りに名前を考える。
 真っ白くてふわっふわの毛並みは、まるでマシュマロのようだ。
 そうだっ!
 マシュマロから取ってマシューはどうだろう?
 いやいや、あまりにも安直過ぎない?
 だったら、白いから色に因んだ名前の方が無難かもしれない。
 白かぁ……。
 英語ではホワイトだけど、ホワイトって……ないな。
 シロ……はもっとない。
 う~ん。私って壊滅的にネーミングセンスがなさすぎる。

「あっ、君の名前はブロン。白いって意味だよ。……どうかな?」

 我ながらセンスある名前だと思ったが、すぐに自信がなくなる。
 なぜなら、ブロンという響きは良いものの、意味はそのまんまだったからだ。
 しかし、フェンリルはその名前が気に入ったみたいで、ぶんぶんと尻尾を振って弾んだ声で言った。

『ブロン!ぼく、ブロン!うれしい!ありがとう、おねえちゃん!』

 フェンリル改めブロンはそう返事をすると、眩しい光を放って体が耀き出した。

「っ!眩しいっ!」

 間近で見ていた私は、反射的に目を瞑る。

『もう目を開けて大丈夫だ。これで従魔契約は完了した』

 メイスの声にそっと目を開けると、腕の中にはころころとしたブロンが尻尾を振っているだけだった。
 その後、握りかけのおにぎりに興味を示したブロンにおにぎりの美味しさをしっかりと伝えたら、あっという間におにぎりの虜になってしまったようだ。



 新たにブロンと名付けられたフェンリルが仲間に加わり、一人と二匹の楽しい冒険が始まった。
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