転生少女と黒猫メイスのぶらり異世界旅

うみの渚

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第二章

第116話 落ち着ける場所

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 契約の手続きを済ませて前家賃を支払った後、家の鍵を受け取り冒険者ギルドを後にする。
 こんなすぐに家が見つかるとは思ってもいなかった私達は、宿に戻り事情を説明して残りの宿泊費を精算してもらった。
 キリアンさんに紹介してもらったのに申し訳ないと思いつつ宿を出た私達は、その足で契約した家に引き返す。
 全ての窓を開けて換気を行っていると、ヒデさんが口を開いた。

「ユーリさん。僕に掃除を任せてもらえるかな?」

「え?でも、二人で掃除した方が早くない?」

 そう返した私にヒデさんはニッと笑って言った。

「家賃を支払ってくれたでしょ?だったら掃除は僕に任せて。すぐに終わるから」

 何やら自信満々の様子のヒデさんに、私は無言で頷いた。
 頷き返した私を見たヒデさんは、目を閉じて意識を集中させると詠唱した。

「クリーン」

 詠唱と同時に室内の埃や汚れが一瞬で綺麗になっていく。
 まるで新品同様の仕上がりに私は目を丸くした。
 目を開けて隅々まで見渡したヒデさんが満足気に頷いた。

「イメージ通りに綺麗になった。魔法って便利だな。じゃあ、この調子で二階も掃除してくるから、ユーリさんは荷物の整理をお願い」

 そう告げると、ヒデさんは軽い足取りで二階に上がって行った。
 その後を追うようにブロンが尻尾を振りながらついて行く。
 呆気に取られたままの私の耳に、メイスの笑い声が聞こえた。

『ふ、くくっ。ヒデのヤツはしゃいでいるな』

 確かに、家が見つかってからというものヒデさんの表情は明るい。
 慣れない旅が続いて疲れていたのかもしれない。
 斯くいう私も、数か月に及ぶ旅で疲労が溜まっていた。
 落ち着ける場所があるというのは良いものだ。

「ふふ。移動ばっかりだったからね。落ち着ける場所があるのは気が楽だよ」

 私が答えると、テーブルに飛び乗ったメイスが琥珀色の瞳を窓の外に向けて呟いた。

『……落ち着ける場所か。根無し草の俺にはよく分からないが……そうか、落ち着ける場所か』

 長命のメイスは一つの場所に長く留まらないのだろうか。
 ポツリと零したメイスの言葉に小首を傾げながら、私は荷物の整理に取り掛かった。







 一階の片付けが済んだので二階に上がる。
 開け放った窓からは、心地良い風が吹いてくる。
 窓枠に手をつき風を浴びていると、ブロンの声が聞こえた。

『あっ、おねえちゃん。おにいちゃーん!おねえちゃんたち、こっちにいるよ―!』

 その声を聞きつけて、ヒデさんが室内に入って来た。

「ブロン、ここに居たのか。あちこち探し回ったじゃないか」

『おにいちゃん』

 勢いよく振り返ったブロンが、ヒデさんの胸に飛び込む。

「おっと」

 ブロンを抱きとめたヒデさんは、頭を優しく撫でて言い聞かせる。

「走り回りたければ裏庭に行こうな。家の中で走り回ったら皆に迷惑だろ」

『……ごめんなさい』

 しゅんと項垂れたブロンの頭を撫でながらヒデさんは柔らかく微笑んだ。

「分かってくれたのならいい。次から気をつけような」

『うん!』

 二人の関係は良好のようで安心した。
 安心したのも束の間、私はある事に気がついた。

「はっ!寝具が無い!」

 部屋に家具は揃っているのだが、肝心の寝具が無かったのだ。

「うっかりしてたぁ~……」

 頭を抱えた私にメイスが口を開いた。

『寝具なら俺が用意しておく。他に要る物はあるか?』

 その言葉に勢いよく顔を上げてメイスを見つめる。
 助かるけど、どうして猫のメイスが用意出来るの?
 色々と気になるものの、今から買い揃えるにしても店を探している時間が無い。
 とりあえず今は、メイスの厚意に甘えておこう。
 私は取り急ぎ必要な物をメイスに伝えた。

『わかった。少し待っておけ』

 メイスはそう告げると空間転移で姿を消した。
 どこに行ったのか、あてはあるのかなど考え出すとキリがないが、今はメイスに頼るしかない。
 とにかく、私が出来ることをしておこう。


 そう決意した私は、ある物を作るため裏庭へ向かった。
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