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第二章
第118話 メイスの正体
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夕食後、室内に足を踏み入れた私は言葉を失った。
部屋にそぐわない豪華な家具。
そこにデンと置かれたベッドは天蓋付きのダブルベッドだった。
「……部屋がベッドに占領されてる。豪華過ぎて落ち着かない……」
そう零した私に、メイスがあっけらかんとした口調で答える。
『そうか?これでも部屋の大きさを考えて地味目な物を選んだのだがな』
地味じゃないし!
目がチカチカして落ち着かないよ!
急なことだったとはいえ、メイスに任せるんじゃなかった。
……それにしても、これらの家具は一体どこから手に入れたのだろうか?
疑問を感じた私はメイスに質問を投げかけた。
「ねぇ、メイス。あの豪華な家具はどうしたの?……盗んだわけじゃないよね?」
琥珀色の瞳を見開いたメイスは、心外だと言わんばかりに鼻を鳴らすと事情を説明し始めた。
『盗む?俺がそんなせこい真似をするわけがないだろう。あれらは誰も使い手がないまま放置されていたのを運んできただけだ。俺の所有物だからお前は遠慮なく使え』
えぇっ!?
あの豪華な家具が全部メイスの所有物なの!?
猫があの大きなベッドとか家具とか使うの?
以前から不思議に思うことはあった。
だけど、あの時は生きることに必死で深く考えないようにしていた。
それに、孤独で辛かった時、偶然メイスに会えて心強く感じていた私は、余計な詮索をして捨てられるのではという気持ちの方が強くて何も聞けなかった。
あれから数か月を共にして、良好な関係を築けた気がする。
そろそろこのもやもやに終止符を打っても良いのではなかろうか。
そう覚悟を決めた私は、両手を握りしめてメイスに問いかけた。
「メイス。ずっと疑問に思っていたことがあるのだけど、聞いていいかな?」
問いかけられたメイスは、琥珀色の瞳を真っ直ぐ私に向けて答えた。
『何だ?俺に答えられることなら何でも聞け』
メイスの口調は相変わらず俺様だけど、こうして質問に答えてくれようとする姿勢はとても好感が持てる。
私は小さく深呼吸をした後、メイスに質問をした。
「……豪華な料理に豪華な家具。それらは全部メイスの持ち物で賄っていたんだよね?」
質問の意味が分からないのか、メイスは小首を傾げながら返事をする。
『?ああ、そうだ。決して盗んでなどいないぞ』
盗んだと言われたのが余程気に障ったのか、そこを強調するように答えるメイスに私は苦笑を漏らす。
数か月という短い期間だったけど、私もそれなりにメイスの性格を把握したつもりだ。
だから、メイスが言ったように盗んだとは思っていない。
だとしても、あの聞き方は最低だったと反省している。
「ああ、うん。盗んだとは本当に思っていないよ。不愉快な気持ちにさせてごめんね」
『……分かっているなら良い。で?お前は何が聞きたいのだ?』
さっさと本題に入れと言わんばかりのメイスに、私は生唾をゴクリと飲み込んだ。
私達の会話を聞いているヒデさんとブロンは、少し遠巻きにして静かに見守っている。
この場で尋ねても良いものかと悩みつつ、勇気を振り絞って小声でメイスに疑問をぶつけた。
「メイスはただの猫じゃないよね?だって魔法はすごいし料理だって豪華な物ばかりだし、何より長命だし。……メイスは何者なの?」
とうとう聞いてしまった。
私は早鐘を打つ鼓動をどうにか抑えながら、琥珀色の瞳をジッと見つめた。
『何やら深刻そうな顔をしていると思ったらそんなことか。……ん?そう言えば俺について説明していなかったか?』
まるで今思い出したかのような態度に、私はスンと表情を失くす。
これって聞けば教えてもらえてたってこと?
今まで聞いちゃいけないと思い悩んでいた自分が馬鹿らしい。
一気に緊張が解けた私は、ジトッとした眼差しを向けて答えた。
「……何も聞いてないよ。大体、出会ったばかりで踏み込んだ話しが出来る状況じゃなかったでしょ。それで?説明してくれるの?してくれないの?」
もう、こうなったら自棄だ。
開き直った私はメイスを問い詰めた。
しかし、そんな私に対してメイスは飄々としながら爆弾発言を落とした。
『そうか。それは悪かった。では、改めて自己紹介しよう。俺はメサイアス。一応魔族の国で王をしているが、単に魔力量が多いのと配下に勝手に王として据えられただけだ。俺自身、好き勝手に動いているがな』
メサイアス?
魔族の国の王?
……って、魔王――!?
予想の遥か斜め上をいく回答に、私はただ茫然と立ち尽くすしかなかった。
部屋にそぐわない豪華な家具。
そこにデンと置かれたベッドは天蓋付きのダブルベッドだった。
「……部屋がベッドに占領されてる。豪華過ぎて落ち着かない……」
そう零した私に、メイスがあっけらかんとした口調で答える。
『そうか?これでも部屋の大きさを考えて地味目な物を選んだのだがな』
地味じゃないし!
目がチカチカして落ち着かないよ!
急なことだったとはいえ、メイスに任せるんじゃなかった。
……それにしても、これらの家具は一体どこから手に入れたのだろうか?
疑問を感じた私はメイスに質問を投げかけた。
「ねぇ、メイス。あの豪華な家具はどうしたの?……盗んだわけじゃないよね?」
琥珀色の瞳を見開いたメイスは、心外だと言わんばかりに鼻を鳴らすと事情を説明し始めた。
『盗む?俺がそんなせこい真似をするわけがないだろう。あれらは誰も使い手がないまま放置されていたのを運んできただけだ。俺の所有物だからお前は遠慮なく使え』
えぇっ!?
あの豪華な家具が全部メイスの所有物なの!?
猫があの大きなベッドとか家具とか使うの?
以前から不思議に思うことはあった。
だけど、あの時は生きることに必死で深く考えないようにしていた。
それに、孤独で辛かった時、偶然メイスに会えて心強く感じていた私は、余計な詮索をして捨てられるのではという気持ちの方が強くて何も聞けなかった。
あれから数か月を共にして、良好な関係を築けた気がする。
そろそろこのもやもやに終止符を打っても良いのではなかろうか。
そう覚悟を決めた私は、両手を握りしめてメイスに問いかけた。
「メイス。ずっと疑問に思っていたことがあるのだけど、聞いていいかな?」
問いかけられたメイスは、琥珀色の瞳を真っ直ぐ私に向けて答えた。
『何だ?俺に答えられることなら何でも聞け』
メイスの口調は相変わらず俺様だけど、こうして質問に答えてくれようとする姿勢はとても好感が持てる。
私は小さく深呼吸をした後、メイスに質問をした。
「……豪華な料理に豪華な家具。それらは全部メイスの持ち物で賄っていたんだよね?」
質問の意味が分からないのか、メイスは小首を傾げながら返事をする。
『?ああ、そうだ。決して盗んでなどいないぞ』
盗んだと言われたのが余程気に障ったのか、そこを強調するように答えるメイスに私は苦笑を漏らす。
数か月という短い期間だったけど、私もそれなりにメイスの性格を把握したつもりだ。
だから、メイスが言ったように盗んだとは思っていない。
だとしても、あの聞き方は最低だったと反省している。
「ああ、うん。盗んだとは本当に思っていないよ。不愉快な気持ちにさせてごめんね」
『……分かっているなら良い。で?お前は何が聞きたいのだ?』
さっさと本題に入れと言わんばかりのメイスに、私は生唾をゴクリと飲み込んだ。
私達の会話を聞いているヒデさんとブロンは、少し遠巻きにして静かに見守っている。
この場で尋ねても良いものかと悩みつつ、勇気を振り絞って小声でメイスに疑問をぶつけた。
「メイスはただの猫じゃないよね?だって魔法はすごいし料理だって豪華な物ばかりだし、何より長命だし。……メイスは何者なの?」
とうとう聞いてしまった。
私は早鐘を打つ鼓動をどうにか抑えながら、琥珀色の瞳をジッと見つめた。
『何やら深刻そうな顔をしていると思ったらそんなことか。……ん?そう言えば俺について説明していなかったか?』
まるで今思い出したかのような態度に、私はスンと表情を失くす。
これって聞けば教えてもらえてたってこと?
今まで聞いちゃいけないと思い悩んでいた自分が馬鹿らしい。
一気に緊張が解けた私は、ジトッとした眼差しを向けて答えた。
「……何も聞いてないよ。大体、出会ったばかりで踏み込んだ話しが出来る状況じゃなかったでしょ。それで?説明してくれるの?してくれないの?」
もう、こうなったら自棄だ。
開き直った私はメイスを問い詰めた。
しかし、そんな私に対してメイスは飄々としながら爆弾発言を落とした。
『そうか。それは悪かった。では、改めて自己紹介しよう。俺はメサイアス。一応魔族の国で王をしているが、単に魔力量が多いのと配下に勝手に王として据えられただけだ。俺自身、好き勝手に動いているがな』
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