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第三章
第122話 市場
しおりを挟む「いってきま―す!」
『いってきま―す!』
朝食を終えて、ヒデさんとブロンが元気に出掛けて行ったのを見送った私は、テーブルで寝転がっているメイスに質問を投げかけた。
「ねぇ、メイス。ヒデさんのことなんだけど、元の世界に帰る方法はないの?」
質問を投げかけられたメイスは気怠そうに顔を上げると、深いため息を吐いて質問に答えた。
『……俺に聞かれても答えられない。この世界での転移なら出来るが別次元への転移など経験がないからな。……ヒデを元の世界に帰したいのか?』
長く生きてきたメイスでも知らない事があるのか。
魔王であるメイスならと期待したけど、あの様子だと本当に知らなさそうだ。
突き付けられた現実に胸が痛む。
それでも何とかならないかという思いで自分の意見をメイスに伝えた。
「……うん。帰せるのなら帰したい。だって、私と違って彼は偶然この世界に来ただけなんだもん」
『アイツが帰りたいと言ったのか?』
そう聞かれて、ヒデさんが一度も帰りたいと言っていなかったことを思い出す。
口を噤んだ私にメイスが諭すように語りかける。
『アイツが帰りたいと言ったのなら帰る方法を探せば良い。そうでないなら下手なことは言わない方がいい。帰れるかどうかも分からないのに期待を持たせるのはかえって残酷だ。……どうしたいかはアイツの判断に任せよう』
それはそうだけど、ヒデさんは口に出さないだけで本当は帰りたいと思っているのかもしれない。
でも、メイスの言う事にも一理ある。
いつかヒデさん自身の口から帰りたいと言われたら帰る方法を探そう。
そう決意した私は黙って頷いた。
その後、後片付けを終わらせて家を出ると、街の散策に出掛けた。
王都から離れた辺境の街といっても、それなりに人の往来はあるし店も充実している。
これなら生活に困ることはなさそうだ。
街の周囲に強い魔物が居るのなら、魔物を狩れば収入にも困らないだろう。
しかし、認識阻害の魔法を解除したせいで、すれ違う人から好奇にも似た視線が頭に集中しているような気がして落ち着かない。
それでも、誰一人として嫌悪の感情を向けてこないのは非常にありがたかった。
そのうち見慣れてくれれば良いなと思いながら足を進める。
ふと、人の流れが同じ方向に向かっていることに気がついて後を追う。
「わぁ……。もしかして市場?凄い賑わい」
まだ午前中だというのに、どこから現れたのか多くの人が集まっていた。
買い物客の多くは主に食材の買い出しに来ているようだ。
買い物籠を手に店先に並んだ商品を購入していた。
私も彼等に交じり商品を眺める。
キャベツやアスパラガスにビーツなど、この時期に採れたばかりの新鮮な野菜がずらりと並んでいる。
しかも、日本の半分ほどの値段なのだから買わなきゃ損だ。
「わぁ!新鮮な野菜が安く手に入るなんて信じられない!あっ!おじさ―ん!これとこれくださ―い!」
「あいよ!まいどあり!」
笑顔で振り返ったおじさんは一瞬目を大きく見開いたが、すぐに笑顔で話し始めた。
「坊主、この街は初めてか?」
「はい、しばらくこの街に滞在する予定です」
「そうか。うちの野菜はどれも新鮮で甘味が強い。朝市は毎日やっているからいつでも買いに来てくれな」
そう言っていくつか野菜をオマケしてくれた。
斜め掛けのバッグに野菜を収納してお礼を伝えると、再び人混みの中を歩き始めた。
市場といっても取り扱う商品は実に多岐にわたる。
食料品から薬草といった日常に欠かせないものから、衣類やアクセサリーなどの装飾品まで色々とあった。
見ているだけでも楽しい。
それに、市場で食料品が安く買えるなら食費を削らなくて済む。
大通り沿いの店を見て回るのも楽しかったけど、平民の私には市場で十分だ。
市場での散策を満喫した私は、メイスと共に市場を後にして大通りへと向かった。
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