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第三章
第125話 * ブラッディホーンベア討伐
しおりを挟む隠密のスキルを発動して魔物の背後に回り様子を窺う。
対象の魔物はブラッディホーンベア。
討伐したことはまだないが、隙を付けば倒せそう。
以前倒したブラッディホーンボアと比べても、その大きな体から漏れ出る禍々しい気配はかなりのものだ。
足音を忍ばせてそっと近寄る。
……こちらの気配に気づいた様子はなさそうだ。
亜空間から剣を取り出して、小さく深呼吸をして息を整える。
正面きって戦えるだけの技量はまだないが、相手が油断している今ならいけそうだ。
自然と剣を握る手に力が籠る。
一気に片を付けるなら、頭を上げた瞬間を狙おう。
その場に身を潜めて頭を上げる瞬間をひたすら待つ。
枝に留まっていた鳥が飛び立った瞬間、ブラッディホーンベアの頭が上を向いた。
今だ!
茂みから飛び出した私は、ブラッディホーンベアの首目掛けて渾身の力を込めて剣を振り下ろす。
一瞬ブラッディホーンベアと視線がぶつかり合うが、時すでに遅し。
振り降ろされた剣が一寸の狂いもなく首に刺さると、綺麗に切断されていく。
空中を切断された頭が飛んでいくと、後に続いて巨体がゆっくりと崩れ落ちていった。
「ふぅ……。一撃で仕留められた。良かった」
「ユーリさん!かっこいい―!」
『おねえちゃん!すご―い!』
そう呟いた途端、背後から歓声が聞こえて振り返る。
大きな木の陰から現れたヒデさんが、頬を上気させて興奮していた。
ブロンも尻尾を勢いよく振って全身で喜びを表している。
その背中に乗ったメイスは、表情までは分からないが満足そうだ。
一方、キリアンさんは目を大きく見開いて信じられないと言いたげに口をポカンと開けて突っ立っていた。
ブラッディホーンベアを収納して突っ立ったままのキリアンさんに声をかける。
「キリアンさん?魔物の討伐終わりました。これで僕がちゃんと戦えると分かってもらえましたよね?」
私の声が届いていないのか、キリアンさんは茫然としている。
私はキリアンさんの顔の前で大きく手を振ってもう一度声をかけた。
「キリアンさん?お―い。聞こえてますか―?」
ハッと顔を上げたキリアンさんが、まいったと言わんばかりに頭をガシガシと掻きながらブラッディホーンベアが倒れた場所を見て言った。
「……はっ。あ、ああ聞こえている。しかし、ブラッディホーンベアを一撃で仕留めるとはなぁ。これじゃあ俺の出番はなさそうだ」
これで一人前の冒険者として認めてもらえた……のかな?
キリアンさんの顔色を窺うように見つめていると、私の視線に気づいたキリアンさんがニッコリと微笑んだ。
「ユーリは凄いな。その年で自分の力量を把握した上でどうしたら効率よく倒せるか考えられるとは。あと、忍耐力もある。俺がユーリの年の頃はほんの少しもジッとしていられなかったが、ユーリは冷静に状況を把握する能力もあるのだな。驚かされてしまったよ」
中身は成人した大人なので、本人は特に凄いことをしたつもりはない。
それでも、キリアンさんのような高位ランクの冒険者に褒められるのは素直に嬉しいものだ。
「へへ。冒険者として生きていくなら慎重さは大事でしょ?僕はまだ子供だから力だけで押し通すのは無理だし、相手の隙を突く方法が無難かなって。その方が体力を温存出来るし無駄がなくて済むでしょう?」
はっきり言ってメイスのように魔法で魔物を倒すことも可能なのだけど、それだけに頼ってしまうと万が一の時に対応が遅れるのではという思いがあった。
今回は偶々剣で魔物を倒せたが、それより大物の魔物が現れた場合のことを考えると、もっと剣の腕を磨く必要があると改めて考えさせられた。
私が発した言葉に耳を傾けていたキリアンさんは目を大きく見開くと、感心したように顎に手を添えて頷いた。
「……なるほど。ユーリはそこまで考えていたのか。教える立場の俺が教えられるとはな。そうだな、闘い方は人それぞれだ。ただ正面きって闘うだけが全てではないということだな。今更ながら考えさせられたよ」
そう口にしたキリアンさんの表情は、どこか憑き物がとれたように晴れ晴れとしていた。
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