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第三章
第128話 黒髪黒目の少年たち(リュシアン視点)
しおりを挟む夜、早めに執務を終えて部屋を出ようと立ち上がったのと同時に扉を叩く音がして返事をする。
扉を開けて入って来たのは、長年私に仕える執事長だった。
「旦那様。キリアン様が訪ねて来られました。ご報告したいことがあるとのことですが、いかがなさいますか?」
こんな時間に珍しいな。
緊急の事案でも発生したのか?
「通してくれ」
執事長に飲み物を用意するように告げて椅子に腰を下ろして待っていると、執事長と共にキリアンが現れた。
どこか興奮した様子のキリアンを見て只事ではないと判断した私は、執事長に目配せをしてキリアンに声をかけた。
目配せだけで理解した執事長は、お茶の用意をすると執務室から退室した。
「お前が急に訪ねて来るのは珍しいな。まあ、温かい茶でも飲みなさい」
キリアンは椅子に腰を下ろすと出された茶に口をつけた。
人払いはしたしキリアンも少しは落ち着いただろう。
そう判断して問いかけた。
「それで話しとは何だい?何か大事な話しなのだろう?」
その問いかけに深呼吸をしたキリアンが静かに語り始めた。
「実は、依頼の帰りにある少年たちを見かけました。彼等はこの街に来たのは初めてとのことでしたので案内を買って出ました。しかし、何やら様子がおかしいと感じてカマをかけてみたところ、認識阻害の魔法で髪と瞳の色を変えていたのです」
少年?
この街の周囲は強力な魔物が居て危険なことを知らないのか?
もっと周知させておくべきだったか。
あと何と言った?
認識阻害魔法だと!?
魔道具ではなく魔法と言ったか?
そんな高度な魔法を使える者はそう多くはない。
どんな人物なのか興味が湧いて、話しの続きを待った。
一旦口を閉じたキリアンが、興奮気味に目を輝かせて話しを続けた。
「なんと!かの英雄と同じ黒髪黒目だったのです!あのような見事な黒髪を初めて見ました!書物で読んで知っていましたが、実際に間近で見たのは初めてで興奮が抑えられませんでした!」
……今、何と言った?
黒髪黒目だと!?
私も肖像画や書物でしか知らないが、それが本当なら一度この目で見てみる必要がある。
「……黒髪黒目だと?それは誠か?」
そう尋ねると、キリアンはコクリと頷く。
真面目な彼が噓を吐くとは思えないが、あまりにも荒唐無稽な話しにすぐには信用出来ずにいた。
とにかく、話しだけでも聞こうと判断してキリアンに続きを促した。
「キリアン。彼等についてもう少し話しを聞かせてくれ」
キリアンの話しによると、少年たちはエストロッジ国からこのカミール領を目指して来たそうだ。
一人は十代半ばの少年で、もう一人は十歳の子供だということだった。
子供の方は魔獣使いらしく、その魔獣の魔法で髪と瞳の色を変えていたという。
……魔獣がそんな高度な魔法を使えるのか?
そんな話し聞いたことがない。
しかも、その猫も黒色だと!?
キリアンは、少年たちが私の親族ではないかと尋ねてきたが、それは有り得ない話しだ。
カミール家初代当主を除き、純粋な黒髪を持つ子孫は一人として生まれていないのだから。
一つ、可能性として考えられるとしたら、初代当主の血を引く者が他に居た場合だ。
だが、初代当主は妻をとても一途に愛したという。
その話しが本当なのだとしたら、他に考えられることといえば妹ミシェルだ。
しかし、妹からは息子が生まれたという手紙をもらってからは、その後手紙は来ていない。
その息子の容姿は、侯爵譲りのアイスブルーの瞳に妹と同じ金色の髪とのことだった。
……息子以外にも子供が居る……?それなら知らせがあってもおかしくないはずだが……。
ミシェルがロージス家に嫁いで五年ほどは手紙が来ていた。
それが、ある日を境にパタリと途絶えてしまった。
その当時の私は執務に追われ、ミシェルに気を配る余裕がなかった。
あれから十年。
もし、ミシェルがその時に子供を産んでいたとしたら年齢的にはあう。
便りがなくても幸せに暮らしているだろうと深く考えていなかったが、今になって不安が押し寄せてきた。
一度こちらから手紙を出しておくべきか。
この十年、ミシェルから便りが途絶えていたことにようやく気がついた私は、急ぎ手紙をしたためてロージス家に送るよう手配した。
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