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第三章
第130話 キリアンさんからのお誘い
しおりを挟むそれから更に数日が過ぎた。
相変わらずヒデさんはブロンと、私はメイスとペアを組んで行動していた。
久しぶりに休みをとって皆とのんびり過ごしていたある日のこと、キリアンさんが家にやって来た。
「おっ。居た居た。いつ行っても留守だしギルドでもすれ違いで探し回ったぞ」
え?探し回っていたの?
イケメンに探されるのは悪い気がしないけど、あまりしつこいと気持ち悪がられちゃうよ。
最近覚えた転移魔法のおかげで楽に移動することを覚えた私は、すっかりキリアンさんのことを忘れていた。
キリアンさんの言葉を聞いた私は、小首を傾げて尋ねた。
「……キリアンさん。何かご用ですか?」
私としては銀級にランクが上がったし、迷惑をかけた覚えがなかったため、なぜキリアンさんが家に来たのか分からなかった。
すると、キリアンさんは頬をポリポリと掻いて言い淀んだあと口を開いた。
「あのな、領主様がユーリたちに会いたいそうだ。悪いんだが今から来てくれるか?」
は?今何て言った?
領主様って聞こえたけど、聞き間違いじゃないよね?
私は咄嗟に返答が出来ずに問い返していた。
「……え?今から?」
領主様ってカミール領の領主様ってことだよね?
てことは、お母様の身内になるのかぁ。
興味はあるけど、今からだなんて突然すぎない?
そんなことを考えていたら、キリアンさんが申し訳なさそうに眉尻を下げて語り始めた。
「……突然ですまない。君たちを探していたのだが中々見つけ出せずにいてね。こちらの都合を押しつけて申し訳ないのだが、領主様に会ってはもらえないだろうか」
四六時中キリアンさんに付きまとわれるのが嫌で避けていた私のせいってことか。
真摯な眼差しを向けられて、途端に居たたまれない気持ちになる。
返答に詰まっているとヒデさんが口を開いた。
「ユーリさん。これからこの街で暮らすなら一度領主様に会っておいた方がよくない?それに、こんな機会もう二度とないかもしれないし。僕はどんな人なのか見てみたいな」
ヒデさんが言ったように、領主様はこの街を治める一番偉い人だ。
そんな偉い人から会いたいと言われたら断れるはずもない。
それに、お母様の身内ともなれば会わないという選択肢はなかった。
「そうだね。でも、領主様に会うならそれなりの服装をしなきゃいけないんじゃない?……持ち合わせが無いんだけどどうしよう……困ったな」
突然のことで正装しようにも衣装が無い。
困ったと呟いた私にキリアンさんが笑顔で答えた。
「それなら心配ない。領主様は平民にもお優しい方だ。先触れを出しておくから準備してくれ」
あれ?
行くって返事してないんだけど、これってもう決定事項なの?
渇いた笑いを浮かべながら、一旦荷物を取りに二階へ上がる。
と言っても、持って行く荷物なんて無いし見せかけでしかないのだけど。
斜め掛けのバッグを取るとキリアンさんが待つ一階へと降りて行く。
「お待たせしました。ヒデさん、準備は出来た?」
私より一足早く一階に降りていたヒデさんは、ウエストポーチをポンポンと叩いて笑顔で応えた。
「うん。いつでも大丈夫だよ」
ヒデさんに続いてブロンも尻尾をパタパタと振って元気に言う。
『ぼくも大丈夫だよ―!』
うんうん、ブロンはいつも元気で私も嬉しいよ。
ブロンの愛らしい姿を満面の笑みで眺めていたら、キリアンさんが申し訳なさそうに話しを切り出した。
「あ~、こほん。急なことで馬車の用意が間に合わなくてすまない。領主様の屋敷まで歩くことになってしまうが構わないだろうか?」
「それは構いませんけど、その領主様のお屋敷は遠いのですか?」
私の問いにキリアンさんは暫し考える素振りを見せた後、微妙な面持ちで答えた。
「あ―……。ここからだと四半刻といったところだな」
四半刻か……ということは三十分ってことか。
徒歩での移動に慣れている私には大した距離ではないのだけど、ヒデさんは大丈夫だろうか?
私はきょとんとしているヒデさんの耳元に顔を近づけて囁いた。
「えっとね、三十分ほど歩くんだって。大丈夫?」
途端にゲッとした表情になったヒデさんだったが、すぐに返事をする。
「あ、ああ、うん。だ、大丈夫だよ……」
しかし、その表情はどこか引きつっているように見えた。
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