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第三章
第131話 領主邸へ
しおりを挟む街外れにある家から領主様の屋敷まできっちり三十分で到着した。
領主様が住まう屋敷ということもあって、屋敷を囲う塀は高く堅固だ。
立派な門の前には鎧姿の兵が二人立っている。
そのうちの一人がキリアンさんに気づいて声をかけてきた。
「あ、キリアン殿。本日はどのようなご用件で?」
「この二人を領主様に会わせようと思ってね。先触れを出しておいたのだが、まだ連絡が来ていないのか?」
その言葉にハッとした門番の男性が、キリアンさんの背中に隠れていた私達を見つけると、驚愕に目を見開いて動きを止めた。
「……く、黒い髪に黒い瞳……はっ!し、失礼いたしました!旦那様から伺っております。どうぞお入りください」
慌てて門を開けた門番に中に入るように促されて、私達はキリアンさんに続いて門を潜る。
長いアプローチを歩きながら、キリアンさんは伯爵について簡単に説明してくれた。
「さっきも言ったけど、領主様は貴族、平民問わずちゃんと話しを聞いてくださる素晴らしいお方だ。そう緊張しなくても大丈夫だ」
キリアンさんの説明を受けながら、あの家での暮らしを思い浮かべる。
一応、私も貴族の令嬢なんだけど貴族らしい教育を受けた訳ではないし、記憶にある限り身近な貴族と言えばお母様しか知らなかった。
お母様は優しくて愛情深い方だった。
もちろん、私が間違ったことをすれば𠮟られたが、それもきっと私を思ってのことだったのだろう。
お母様の身内ならあまり身構える必要はなさそうだ。
「キリアンさんがそう言うのなら信じます。領主様は懐が深い方なんですね。安心しました」
「ああ、安心してくれ。……しかし、君のその丁寧な言葉遣いや難しい言い回しを聞くととても十歳とは思えないよ。……まるで大人と話している気分だ」
微妙な表情を浮かべるキリアンさんに、私は笑みを浮かべて前方に視線を向けた。
その先には、シンプルながらも大きなお屋敷が視界に入る。
三階建ての大きなお屋敷は王都のような豪華さはないものの、どこか懐かしい気持ちにさせる。
例えるなら、日本風の建物に近いだろうか。
足を止めてお屋敷を眺めていたら、屋敷の扉が開いて中から濃い緑色の髪の男性が足早に近づいてきた。
「お出迎えが遅くなり大変申し訳ございません。もう少し早くご連絡いただければこちらからお迎えに参りましたのに」
白髪交じりの濃い緑色の髪を揺らして深々と頭を下げた男性に、キリアンさんが笑顔で声をかける。
「セバス殿。出迎えありがとう。急なことで申し訳ない。領主様はご在宅か?」
セバス殿?
何だか執事っぽい名前だな。
いや、私が勝手に思っただけで決めつけるのは良くないな。
「はい。皆さまお待ちでございます。ご案内いたします」
頭を上げたセバスさんがチラッとこちらに視線を向けて柔らかく微笑むと、ついて来るように促した。
あ、やっぱり執事さんだったのかな?
それにしても濃い緑色の髪に緑色の瞳かぁ……。
もう見慣れたといっても、間近で見ると違和感が拭えない。
それと、深く皺が刻み込まれた目元はとても柔和な印象を受ける。
優しそうな人で良かった。
若かりし頃は大層モテたのだろう。
「はぇ~……。ユーリさんといいメイスさんといい、僕の周りの人の顔面偏差値が高すぎて落ち込んじゃいそうだ……」
隣を歩いていたヒデさんの口から零れた言葉に首を傾げる。
メイスやキリアンさんの顔立ちが整っているのは理解している。
だけど、そこに私を加えるのはお門違いというものだろう。
ヒデさんだって十分整った容姿をしているのだから、気に病むことはないと思う。
そう考えて口を開きかけたが、すぐに口を噤んだ。
即座に否定の言葉を口にしても、きっと今のヒデさんには伝わらないと思ったから。
私は聞こえなかったふりをして、前を歩くキリアンさんの背中を見つめた。
広くて長い廊下を歩いていると、ある扉の前でセバスさんが足を止めて振り返る。
「こちらで旦那様方がお待ちでございます」
そう言うなり扉を控えめに叩いて声をかける。
「旦那様。お客様をお連れいたしました」
「お通ししなさい」
すぐに扉の向こうから返事が返ってきた。
その声は穏やかで優しそうな声音だった。
しかし、その声を聞いた途端、一気に緊張が高まって鼓動が早くなる。
隣からゴクリと喉を鳴らす音が聞こえて視線を向けると、ヒデさんの顔が緊張で強張っていた。
ゆっくりと扉が開くのを私とヒデさんは固唾を吞んで見守っていた。
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