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第三章
第132話 美形ばかり……
しおりを挟むゆっくりと扉が開き緊張は増していく。
セバスさんは扉を押さえて口を開いた。
「中へお入りください」
その声にキリアンさんを先頭にして室内に足を踏み入れる。
私は緊張のあまり、咄嗟にキリアンさんの背に隠れて後に続いた。
「ご苦労だったキリアン。……して、少年たちはどこだ?」
その問いかけにキリアンさんが後ろを振り返って柔らかく微笑むと、私の背中に手をあてて前へと促して言った。
「そう緊張しなくて大丈夫。さ、二人共、こちらのお方がカミール領のご領主様だ。領主様、彼等がユーリとヒデユキです」
キリアンさんに押し出されるようにして領主様の前に出された私は、自然とブロンを抱きしめる腕に力がこもっていた。
今世では貴族と関わりが無かったことに加えて、無意識に貴族に対して恐怖を感じていたみたい。
まあ、前世はただの庶民だったから尚更緊張しちゃうのだけど。
こういう時ってもふもふしても緊張が解れないものなのね。
目を伏せたまま挨拶の言葉を口にする。
「……初めまして。冒険者のユーリです。本日はお招きいただきありがとうございます」
緊張のあまり声が震えてしまったが、何とか挨拶出来たのは上出来と言って良いだろう。
内心、挨拶出来たことに安堵していると、ふと目の前に陰が差した。
「ほぉ……。其方がユーリ殿か。私はカミール家当主、リュシアン・カミール伯爵だ。丁寧な挨拶をありがとう」
その優し気な声音に思わず顔を上げて言葉を失う。
緩く波打つ金色の髪と柔らかく細められた青緑色の瞳はお母様と同じ色で、顔立ちもどことなくお母様と似ている。
線が細く儚げなお母様と違い全体的に筋肉質なはずなのに、纏う雰囲気はまるでお母様を思わせる。
言葉を失って茫然と立ち尽くす私に、領主様も目を大きく見開いて驚きを隠せない様子だ。
「……ミ、シェル?」
ミシェル?
誰だろうと首を傾げると、両膝を付いた領主様が両手を伸ばして顔を包み込んできた。
眼前に迫る麗しい顔に後退りしかけて動きを止める。
その青緑色の瞳が涙で潤んでいたからだ。
顔を包み込む両手も微かに震えている。
ミシェルという名前に覚えはないが、領主様の態度から大切な人だろうことは想像出来た。
でも、ミシェルって誰?
聞きたい……けど、こちらから質問しても良いのだろうか?
動くことも質問を投げかけることも出来ずに立ち尽くしていると、領主様の背後から女性の声が聞こえた。
「まあ、旦那様。その子が困っているではありませんか。お茶でも飲んで落ち着いてくださいませ」
淡い水色の髪の女性は領主様の肩にそっと手を置いて立ち上がらせると、私に向かって柔らかく微笑んだ。
「あなたを驚かせてしまったみたいね。ごめんなさい。さ、立ち話も何ですから席に着きましょう」
女性はセバスさんに指示を出すと、私達に席に着くように促した。
その言葉と態度から、彼女が領主様と親しい間柄なのは見てとれた。
彼等の他に、十代後半から二十代と思しき若い男性が二人こちらを凝視している。
一人は領主様と同じ色金色の髪をしており、瞳は水色をしている。
彼もかなりの美形だ。
もう一人は水色の髪を短く切り揃えており、瞳は青緑色だ。
外に出ることが多いのか、鍛えられた肉体は日に焼けていた。
どちらも美形であることに変わりないが、彼等は領主様とあの女性との子供なのは明白だった。
いや、もう眼福過ぎてお腹いっぱいです!
遠い目をしながら領主様が席に着くのを待つ。
後ろからヒデさんのため息と独り言が聞こえた。
「はぁ……。精神が削られる……。辛い」
確かに、この顔面偏差値の高さには私も精神がやられてしまう。
ご先祖様の銅像を見た時も思ったが、お母様の家族って美形が多くない!?
それともこの世界の顔面の基準が高いの?
美形ばかりで目が潰れてしまいそう。
色々と疑問が増えて収拾がつかないまま、私達は席に着き出されたお茶を飲んで気持ちを落ち着かせた。
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