転生少女と黒猫メイスのぶらり異世界旅

うみの渚

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第三章

第133話 領主様の家族

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 ソファに腰を下してお茶が用意されるまで、誰も言葉を発しない。
 その沈黙が耐えられずに、ただ俯いてやり過ごすことしか出来なかった。
 静寂に包まれた空間の中、テーブルにお茶を置く音だけがしていた。
 全員の前にお茶が置かれたのを確認した領主様が口を開く。

「セバス、人払いを頼む」

「畏まりました」

 目の端にはセバスさんが領主様に向かって恭しく頭を下げているのが見えた。
 テキパキとお茶を用意したメイドたちは、セバスさんと同じように一礼すると、ワゴンを押して静かに部屋から退室していった。
 淡々と仕事をこなすメイドたちに、私はあの離れでのメイドを思い出す。
 テーブルに乱暴に食事を置かれたこと、ノックもせずに部屋に入られたこと等々。
 どれを取っても彼女たちとは違い過ぎて、思わず渇いた笑いが出てしまいそうになる。
 セバスさんが最後に退室して扉が閉まると、領主様が再び口を開いた。

「先ほどは醜態を晒してしまって申し訳ない。改めて紹介をしよう。私がカミール家当主リュシアン・カミールだ。彼女は妻のヘレナ」

 領主様に紹介された淡い水色の髪の女性ヘレナさんは、柔らかく微笑んで声をかけてきた。

「初めまして。ヘレナ・カミールよ。そう緊張なさらないで、と言っても急には難しいわよね。エストロッジ国からいらしたのですって?大変でしたわね。それにしても、見事な黒髪ですわ」

 うっとりと目を細めるヘレナさんを見て、その言葉が噓じゃないと伝わってきた。
 面と向かって言われると何だか恥ずかしい。
 それも美女だと余計にどう返せば良いのか困ってしまう。
 困っている私に気がついた領主様が、咳払いをして話しを遮った。

「おほん。ヘレナ、今は紹介が先だ。妻の隣が長男のヘンリー。そして次男のリュークだ」

 少し長めの金色の髪を一つに束ねた青年の水色の綺麗な瞳が私に向けられる。
 柔らかく微笑んだその表情は、領主様よりヘレナさんに似ていた。

「カミール伯爵家長男、ヘンリー・カミールだ。初めましてユーリ殿」

 続いて青緑色の瞳を真っ直ぐに向けて、淡い水色の髪の青年が口を開く。

「次男のリューク・カミール。初めまして」

 どこか緊張した面持ちの彼は、それだけ言うとフイッと視線を逸らしてカップに手を伸ばした。
 そこへ満面の笑みでヘレナさんが再び会話に加わる。

「あら。リュークったら照れ屋さんなんだから「母さんっ!」あら、ふふふ。ユーリさん、リュークは緊張しているだけなの。許してちょうだい「母さん!」 」

 なんだ。緊張していただけなのか。
 耳まで真っ赤にさせてヘレナさんの話しを遮るリュークさんは、青年というより少年のように見えた。
 家族の仲は良好そうで羨ましい。
 
「こら、お前たち。ユーリ殿が困っているではないか。申し訳ないユーリ殿。皆君たちに興味津々でな。秘密裏に会おうとしたのだが、どこからか聞きつけてしまって……。大変申し訳ない」

 なるほど。本当は領主様だけが私達と会うつもりだったのね。
 領主様が申し訳なさそうに眉尻を下げて謝罪の言葉を口にすると、すかさずヘンリーさんが口を挟んだ。

「抜け駆けはいけませんよ父上。キリアン殿がユーリ殿たちを見つけるのに時間がかかりましたし、またいつ会えるかわかりません。それに何度も呼び出してはユーリ殿たちにご迷惑でしょう」

 ヘンリーさんに便乗して、ヘレナさんが少女のように頬を膨らませて文句を言う。

「そうですわ。わたくしたちに黙って会うなんてズルいですわ!」

「そうだ!ズルいよ父さん!」

 なぜかリュークさんまで加わって言い争いが始まってしまった。
 その様子を茫然と眺めていた私とヒデさん。
 ヒデさんの隣では、キリアンさんがやれやれと言わんばかりに肩を竦めて首を横に振っている。


 私の中の貴族像がポロポロと崩れていったのは言うまでもない。
 だけど、彼等の仲良さそうな関係を間近に見て、少しだけ羨ましいと思ったのは私だけの秘密だ。
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