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第三章
第134話 ブロンの暴言
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「見苦しいところを見せてしまった。本当に申し訳ない」
領主様は疲労の滲んだ顔で謝罪の言葉を口にした。
その言葉に続いて、ヘレナさんたちも恥ずかしそうにしながら口を開いた。
「お恥ずかしいところを見られてしまいましたわね。つい興奮してしまいましたの。どうか許してちょうだいね」
恥ずかしそうにはにかんだ顔がとても可愛らしい。
二人の子供の母親とは思えないほど若々しく、その淡い水色の瞳は澄んでいた。
顔立ちは全く似ていないというのに、纏う雰囲気がお母様と重なって見えて辛くなる。
「……いえ。ご家族の仲がよろしいようで羨ましい限りです。僕は気にしていませんので、どうか頭を上げてください」
前世では、家族に愛された記憶は朧気ながらあった……と思う。
だから余計に羨ましいという気持ちが強くて辛いのだろう。
いくら精神が大人でも、辛いものは辛い。
無理矢理笑顔を作ってみたが、果たして上手く笑えているだろうか。
何かを察した領主様が、明るい声で話しの流れを変える。
「さあ、茶が冷めてしまう前にいただこう。ユーリ殿、ヒデユキ殿。この茶は我が領で摂れた茶葉でな、ホージ茶と言う。香ばしい香りと味が特徴的なこの茶葉は、我が領の特産品の一つだ。口に合えば良いのだが」
色と匂いで何となくそうだろうなと分かっていた。
領主様に勧められるまま、カップを手に取り鼻を近づける。
ほうじ茶の芳醇な香りが鼻腔を擽り一口飲む。
その懐かしい味に目尻が下がり口元が緩んだ。
「美味しい……」
ポツリと零した言葉に領主様は安堵の表情を浮かべて頷いた。
「そうか。気に入ってもらえて良かった」
領主様が発した言葉を皮切りに、空気を読んだヘンリーさんが後に続いた。
「父上。ホージ茶をお気に召したのであればこちらのクッキーもお勧めしたらいかがでしょう」
「おぉ、そうであったな。ユーリ殿、こちらのクッキーはホージ茶を混ぜ合わせたものでな。領内で人気のクッキーなんだ」
領主様はそう言って、クッキーが乗った皿を目の前に差し出した。
クッキーに興味を示したメイスが肩から覗き込んで呟いた。
『ほぉ。ホージ茶入りのクッキーとは珍しいな』
『クッキー食べたい!』
メイスにつられてそれまで膝の上で大人しくしていたブロンが、クッキーと私に交互に顔を向けてそわそわと落ち着きを失くしていた。
あれ?なんか膝に生温かいものが……。
そう思って膝に視線を向けると、ブロンの口から落ちた涎が湖のようになっていた。
テーブルに前足を載せようとするのを必死に止めて頭を下げる。
「……あの、うちのブロンがすみません……」
「まあ。うふふ。あまりにも大人しいからすっかり忘れていたわ。躾が行き届いているのね。その子たちはユーリさんの従魔かしら?」
頭を下げた私に、ヘレナさんの楽し気な声が聞こえて顔を上げて答える。
「はい。メイスと、この子がブロンと言います」
ヘレナさんの質問にメイスとブロンの頭を撫でて伝えると、ヘレナさんは柔らかく目を細めて優しく語りかけてきた。
「メイスちゃんにブロンちゃんね。わたくしはヘレナよ。メイスちゃんの黒い毛並みは初めて見ましたけれど、とても美しいですわ。それに賢そうね。ブロンちゃんはもふもふで愛らしいですわ。お二人共、よろしくお願いいたしますわ」
ヘレナさんの挨拶にメイスは無言で見つめ返しただけだったが、ブロンはパタパタと尻尾を振って挨拶を返した。
『ぼく、ブロン!よろしく!おばちゃん!はやくクッキーちょうだい!』
その言葉に慌ててブロンの口を塞ぐ。
隣では、ヒデさんが真っ青な表情をしてブロンとヘレナさんを交互に見て動揺していた。
一方、ヘレナさんや領主様たちは何が起きたのか分からずに首を傾げていた。
良かった。ブロンの暴言は耳に届いていないようだ。
いくら心が広い人たちであったとしても、伯爵夫人に対して『おばちゃん』はさすがに不敬にあたる。
この時ばかりはブロンの言葉が理解出来なくて良かったと心底感謝した。
その日は領主様たちとの短い面会が永遠のように感じたのは言うまでもない。
結局、ミシェルという人物について聞けずじまいのまま、私達はお屋敷を後にすることとなった。
余談だが、ホージ茶入りのクッキーは甘さ控えめで美味しかったことを忘れずに付け加えておく。
領主様は疲労の滲んだ顔で謝罪の言葉を口にした。
その言葉に続いて、ヘレナさんたちも恥ずかしそうにしながら口を開いた。
「お恥ずかしいところを見られてしまいましたわね。つい興奮してしまいましたの。どうか許してちょうだいね」
恥ずかしそうにはにかんだ顔がとても可愛らしい。
二人の子供の母親とは思えないほど若々しく、その淡い水色の瞳は澄んでいた。
顔立ちは全く似ていないというのに、纏う雰囲気がお母様と重なって見えて辛くなる。
「……いえ。ご家族の仲がよろしいようで羨ましい限りです。僕は気にしていませんので、どうか頭を上げてください」
前世では、家族に愛された記憶は朧気ながらあった……と思う。
だから余計に羨ましいという気持ちが強くて辛いのだろう。
いくら精神が大人でも、辛いものは辛い。
無理矢理笑顔を作ってみたが、果たして上手く笑えているだろうか。
何かを察した領主様が、明るい声で話しの流れを変える。
「さあ、茶が冷めてしまう前にいただこう。ユーリ殿、ヒデユキ殿。この茶は我が領で摂れた茶葉でな、ホージ茶と言う。香ばしい香りと味が特徴的なこの茶葉は、我が領の特産品の一つだ。口に合えば良いのだが」
色と匂いで何となくそうだろうなと分かっていた。
領主様に勧められるまま、カップを手に取り鼻を近づける。
ほうじ茶の芳醇な香りが鼻腔を擽り一口飲む。
その懐かしい味に目尻が下がり口元が緩んだ。
「美味しい……」
ポツリと零した言葉に領主様は安堵の表情を浮かべて頷いた。
「そうか。気に入ってもらえて良かった」
領主様が発した言葉を皮切りに、空気を読んだヘンリーさんが後に続いた。
「父上。ホージ茶をお気に召したのであればこちらのクッキーもお勧めしたらいかがでしょう」
「おぉ、そうであったな。ユーリ殿、こちらのクッキーはホージ茶を混ぜ合わせたものでな。領内で人気のクッキーなんだ」
領主様はそう言って、クッキーが乗った皿を目の前に差し出した。
クッキーに興味を示したメイスが肩から覗き込んで呟いた。
『ほぉ。ホージ茶入りのクッキーとは珍しいな』
『クッキー食べたい!』
メイスにつられてそれまで膝の上で大人しくしていたブロンが、クッキーと私に交互に顔を向けてそわそわと落ち着きを失くしていた。
あれ?なんか膝に生温かいものが……。
そう思って膝に視線を向けると、ブロンの口から落ちた涎が湖のようになっていた。
テーブルに前足を載せようとするのを必死に止めて頭を下げる。
「……あの、うちのブロンがすみません……」
「まあ。うふふ。あまりにも大人しいからすっかり忘れていたわ。躾が行き届いているのね。その子たちはユーリさんの従魔かしら?」
頭を下げた私に、ヘレナさんの楽し気な声が聞こえて顔を上げて答える。
「はい。メイスと、この子がブロンと言います」
ヘレナさんの質問にメイスとブロンの頭を撫でて伝えると、ヘレナさんは柔らかく目を細めて優しく語りかけてきた。
「メイスちゃんにブロンちゃんね。わたくしはヘレナよ。メイスちゃんの黒い毛並みは初めて見ましたけれど、とても美しいですわ。それに賢そうね。ブロンちゃんはもふもふで愛らしいですわ。お二人共、よろしくお願いいたしますわ」
ヘレナさんの挨拶にメイスは無言で見つめ返しただけだったが、ブロンはパタパタと尻尾を振って挨拶を返した。
『ぼく、ブロン!よろしく!おばちゃん!はやくクッキーちょうだい!』
その言葉に慌ててブロンの口を塞ぐ。
隣では、ヒデさんが真っ青な表情をしてブロンとヘレナさんを交互に見て動揺していた。
一方、ヘレナさんや領主様たちは何が起きたのか分からずに首を傾げていた。
良かった。ブロンの暴言は耳に届いていないようだ。
いくら心が広い人たちであったとしても、伯爵夫人に対して『おばちゃん』はさすがに不敬にあたる。
この時ばかりはブロンの言葉が理解出来なくて良かったと心底感謝した。
その日は領主様たちとの短い面会が永遠のように感じたのは言うまでもない。
結局、ミシェルという人物について聞けずじまいのまま、私達はお屋敷を後にすることとなった。
余談だが、ホージ茶入りのクッキーは甘さ控えめで美味しかったことを忘れずに付け加えておく。
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