134 / 180
第三章
第134話 ブロンの暴言
しおりを挟む
「見苦しいところを見せてしまった。本当に申し訳ない」
領主様は疲労の滲んだ顔で謝罪の言葉を口にした。
その言葉に続いて、ヘレナさんたちも恥ずかしそうにしながら口を開いた。
「お恥ずかしいところを見られてしまいましたわね。つい興奮してしまいましたの。どうか許してちょうだいね」
恥ずかしそうにはにかんだ顔がとても可愛らしい。
二人の子供の母親とは思えないほど若々しく、その淡い水色の瞳は澄んでいた。
顔立ちは全く似ていないというのに、纏う雰囲気がお母様と重なって見えて辛くなる。
「……いえ。ご家族の仲がよろしいようで羨ましい限りです。僕は気にしていませんので、どうか頭を上げてください」
前世では、家族に愛された記憶は朧気ながらあった……と思う。
だから余計に羨ましいという気持ちが強くて辛いのだろう。
いくら精神が大人でも、辛いものは辛い。
無理矢理笑顔を作ってみたが、果たして上手く笑えているだろうか。
何かを察した領主様が、明るい声で話しの流れを変える。
「さあ、茶が冷めてしまう前にいただこう。ユーリ殿、ヒデユキ殿。この茶は我が領で摂れた茶葉でな、ホージ茶と言う。香ばしい香りと味が特徴的なこの茶葉は、我が領の特産品の一つだ。口に合えば良いのだが」
色と匂いで何となくそうだろうなと分かっていた。
領主様に勧められるまま、カップを手に取り鼻を近づける。
ほうじ茶の芳醇な香りが鼻腔を擽り一口飲む。
その懐かしい味に目尻が下がり口元が緩んだ。
「美味しい……」
ポツリと零した言葉に領主様は安堵の表情を浮かべて頷いた。
「そうか。気に入ってもらえて良かった」
領主様が発した言葉を皮切りに、空気を読んだヘンリーさんが後に続いた。
「父上。ホージ茶をお気に召したのであればこちらのクッキーもお勧めしたらいかがでしょう」
「おぉ、そうであったな。ユーリ殿、こちらのクッキーはホージ茶を混ぜ合わせたものでな。領内で人気のクッキーなんだ」
領主様はそう言って、クッキーが乗った皿を目の前に差し出した。
クッキーに興味を示したメイスが肩から覗き込んで呟いた。
『ほぉ。ホージ茶入りのクッキーとは珍しいな』
『クッキー食べたい!』
メイスにつられてそれまで膝の上で大人しくしていたブロンが、クッキーと私に交互に顔を向けてそわそわと落ち着きを失くしていた。
あれ?なんか膝に生温かいものが……。
そう思って膝に視線を向けると、ブロンの口から落ちた涎が湖のようになっていた。
テーブルに前足を載せようとするのを必死に止めて頭を下げる。
「……あの、うちのブロンがすみません……」
「まあ。うふふ。あまりにも大人しいからすっかり忘れていたわ。躾が行き届いているのね。その子たちはユーリさんの従魔かしら?」
頭を下げた私に、ヘレナさんの楽し気な声が聞こえて顔を上げて答える。
「はい。メイスと、この子がブロンと言います」
ヘレナさんの質問にメイスとブロンの頭を撫でて伝えると、ヘレナさんは柔らかく目を細めて優しく語りかけてきた。
「メイスちゃんにブロンちゃんね。わたくしはヘレナよ。メイスちゃんの黒い毛並みは初めて見ましたけれど、とても美しいですわ。それに賢そうね。ブロンちゃんはもふもふで愛らしいですわ。お二人共、よろしくお願いいたしますわ」
ヘレナさんの挨拶にメイスは無言で見つめ返しただけだったが、ブロンはパタパタと尻尾を振って挨拶を返した。
『ぼく、ブロン!よろしく!おばちゃん!はやくクッキーちょうだい!』
その言葉に慌ててブロンの口を塞ぐ。
隣では、ヒデさんが真っ青な表情をしてブロンとヘレナさんを交互に見て動揺していた。
一方、ヘレナさんや領主様たちは何が起きたのか分からずに首を傾げていた。
良かった。ブロンの暴言は耳に届いていないようだ。
いくら心が広い人たちであったとしても、伯爵夫人に対して『おばちゃん』はさすがに不敬にあたる。
この時ばかりはブロンの言葉が理解出来なくて良かったと心底感謝した。
その日は領主様たちとの短い面会が永遠のように感じたのは言うまでもない。
結局、ミシェルという人物について聞けずじまいのまま、私達はお屋敷を後にすることとなった。
余談だが、ホージ茶入りのクッキーは甘さ控えめで美味しかったことを忘れずに付け加えておく。
領主様は疲労の滲んだ顔で謝罪の言葉を口にした。
その言葉に続いて、ヘレナさんたちも恥ずかしそうにしながら口を開いた。
「お恥ずかしいところを見られてしまいましたわね。つい興奮してしまいましたの。どうか許してちょうだいね」
恥ずかしそうにはにかんだ顔がとても可愛らしい。
二人の子供の母親とは思えないほど若々しく、その淡い水色の瞳は澄んでいた。
顔立ちは全く似ていないというのに、纏う雰囲気がお母様と重なって見えて辛くなる。
「……いえ。ご家族の仲がよろしいようで羨ましい限りです。僕は気にしていませんので、どうか頭を上げてください」
前世では、家族に愛された記憶は朧気ながらあった……と思う。
だから余計に羨ましいという気持ちが強くて辛いのだろう。
いくら精神が大人でも、辛いものは辛い。
無理矢理笑顔を作ってみたが、果たして上手く笑えているだろうか。
何かを察した領主様が、明るい声で話しの流れを変える。
「さあ、茶が冷めてしまう前にいただこう。ユーリ殿、ヒデユキ殿。この茶は我が領で摂れた茶葉でな、ホージ茶と言う。香ばしい香りと味が特徴的なこの茶葉は、我が領の特産品の一つだ。口に合えば良いのだが」
色と匂いで何となくそうだろうなと分かっていた。
領主様に勧められるまま、カップを手に取り鼻を近づける。
ほうじ茶の芳醇な香りが鼻腔を擽り一口飲む。
その懐かしい味に目尻が下がり口元が緩んだ。
「美味しい……」
ポツリと零した言葉に領主様は安堵の表情を浮かべて頷いた。
「そうか。気に入ってもらえて良かった」
領主様が発した言葉を皮切りに、空気を読んだヘンリーさんが後に続いた。
「父上。ホージ茶をお気に召したのであればこちらのクッキーもお勧めしたらいかがでしょう」
「おぉ、そうであったな。ユーリ殿、こちらのクッキーはホージ茶を混ぜ合わせたものでな。領内で人気のクッキーなんだ」
領主様はそう言って、クッキーが乗った皿を目の前に差し出した。
クッキーに興味を示したメイスが肩から覗き込んで呟いた。
『ほぉ。ホージ茶入りのクッキーとは珍しいな』
『クッキー食べたい!』
メイスにつられてそれまで膝の上で大人しくしていたブロンが、クッキーと私に交互に顔を向けてそわそわと落ち着きを失くしていた。
あれ?なんか膝に生温かいものが……。
そう思って膝に視線を向けると、ブロンの口から落ちた涎が湖のようになっていた。
テーブルに前足を載せようとするのを必死に止めて頭を下げる。
「……あの、うちのブロンがすみません……」
「まあ。うふふ。あまりにも大人しいからすっかり忘れていたわ。躾が行き届いているのね。その子たちはユーリさんの従魔かしら?」
頭を下げた私に、ヘレナさんの楽し気な声が聞こえて顔を上げて答える。
「はい。メイスと、この子がブロンと言います」
ヘレナさんの質問にメイスとブロンの頭を撫でて伝えると、ヘレナさんは柔らかく目を細めて優しく語りかけてきた。
「メイスちゃんにブロンちゃんね。わたくしはヘレナよ。メイスちゃんの黒い毛並みは初めて見ましたけれど、とても美しいですわ。それに賢そうね。ブロンちゃんはもふもふで愛らしいですわ。お二人共、よろしくお願いいたしますわ」
ヘレナさんの挨拶にメイスは無言で見つめ返しただけだったが、ブロンはパタパタと尻尾を振って挨拶を返した。
『ぼく、ブロン!よろしく!おばちゃん!はやくクッキーちょうだい!』
その言葉に慌ててブロンの口を塞ぐ。
隣では、ヒデさんが真っ青な表情をしてブロンとヘレナさんを交互に見て動揺していた。
一方、ヘレナさんや領主様たちは何が起きたのか分からずに首を傾げていた。
良かった。ブロンの暴言は耳に届いていないようだ。
いくら心が広い人たちであったとしても、伯爵夫人に対して『おばちゃん』はさすがに不敬にあたる。
この時ばかりはブロンの言葉が理解出来なくて良かったと心底感謝した。
その日は領主様たちとの短い面会が永遠のように感じたのは言うまでもない。
結局、ミシェルという人物について聞けずじまいのまま、私達はお屋敷を後にすることとなった。
余談だが、ホージ茶入りのクッキーは甘さ控えめで美味しかったことを忘れずに付け加えておく。
65
あなたにおすすめの小説
異世界に来ちゃったよ!?
いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。
しかし、現在森の中。
「とにきゃく、こころこぉ?」
から始まる異世界ストーリー 。
主人公は可愛いです!
もふもふだってあります!!
語彙力は………………無いかもしれない…。
とにかく、異世界ファンタジー開幕です!
※不定期投稿です…本当に。
※誤字・脱字があればお知らせ下さい
(※印は鬱表現ありです)
底無しポーターは端倪すべからざる
さいわ りゅう
ファンタジー
運び屋(ポーター)のルカ・ブライオンは、冒険者パーティーを追放された。ーーが、正直痛くも痒くもなかった。何故なら仕方なく同行していただけだから。
ルカの魔法適正は、運び屋(ポーター)に適した収納系魔法のみ。
攻撃系魔法の適正は皆無だけれど、なんなら独りで魔窟(ダンジョン)にだって潜れる、ちょっと底無しで少し底知れない運び屋(ポーター)。
そんなルカの日常と、ときどき魔窟(ダンジョン)と周囲の人達のお話。
※タグの「恋愛要素あり」は年の差恋愛です。
※ごくまれに残酷描写を含みます。
※【小説家になろう】様にも掲載しています。
私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~
Ss侍
ファンタジー
"私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。
動けない、何もできない、そもそも身体がない。
自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。
ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。
それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!
元チート大賢者の転生幼女物語
こずえ
ファンタジー
(※不定期更新なので、毎回忘れた頃に更新すると思います。)
とある孤児院で私は暮らしていた。
ある日、いつものように孤児院の畑に水を撒き、孤児院の中で掃除をしていた。
そして、そんないつも通りの日々を過ごすはずだった私は目が覚めると前世の記憶を思い出していた。
「あれ?私って…」
そんな前世で最強だった小さな少女の気ままな冒険のお話である。
転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう! 公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ
幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
アルファポリス様より書籍化!
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。
どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。
- カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました!
- アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました!
- この話はフィクションです。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
まったく知らない世界に転生したようです
吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし?
まったく知らない世界に転生したようです。
何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?!
頼れるのは己のみ、みたいです……?
※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。
私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。
111話までは毎日更新。
それ以降は毎週金曜日20時に更新します。
カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。
魔王と噂されていますが、ただ好きなものに囲まれて生活しているだけです。
ソラリアル
ファンタジー
※本作は改題・改稿をして場所を移動しました。
現在は
『従魔と異世界スローライフのはずが、魔王と噂されていく日々』
として連載中です。2026.1.31
どうして、魔獣と呼ばれる存在は悪者扱いされてしまうんだろう。
あんなに癒しをくれる、優しい子たちなのに。
そんな思いを抱いていた俺は、ある日突然、命を落とした――はずだった。
だけど、目を開けるとそこには女神さまがいて、俺は転生を勧められる。
そして与えられた力は、【嫌われ者とされる子たちを助けられる力】。
異世界で目覚めた俺は、頼りになる魔獣たちに囲まれて穏やかな暮らしを始めた。
畑を耕し、一緒にごはんを食べて、笑い合う日々。
……なのに、人々の噂はこうだ。
「森に魔王がいる」
「強大な魔物を従えている」
「街を襲う準備をしている」
――なんでそうなるの?
俺はただ、みんなと平和に暮らしたいだけなのに。
これは、嫌われ者と呼ばれるもふもふな魔獣たちと過ごす、
のんびり?ドタバタ?異世界スローライフの物語。
■小説家になろう、カクヨムでも同時連載中です■
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる