転生少女と黒猫メイスのぶらり異世界旅

うみの渚

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第三章

第140話 愛情溢れる父親とその息子

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 平穏に暮らしたいと告げた私に、領主様はポカンと開けていた口を閉じたかと思うと、突然笑い声を上げた。

「ははははっ!なんとも欲のない方だユーリ殿は。確かに、ユーリ殿の話しには一理ある。ルイスの病の原因を突き止めたのがまだ年端もいかない子供だと知られれば、業突く張りな貴族が黙ってはいないだろう。幸いにも我が家は伯爵家とはいえ英雄を祖先に持つ由緒ある家柄だ。そうそう横槍を入れるような馬鹿な貴族は現れないだろう。ユーリ殿の平穏な暮らしを守るためとあらば矢面に立つことも吝かではない。困ったことがあればいつでも相談に乗ろう」

 領主様は私の心意を正しく読み取ってくれたようだ。
 これで面倒事に巻き込まれることはなくなった。
 内心ガッツポーズをして喜んでいると、ベッドから遠慮がちに問いかけられた。

「……あの、父上?もしかして、彼がポーションを作った方ですか?」

 おっと。すっかり彼のことを忘れていた。
 口外しないようにとお願いしてはいるが、彼にきちんと説明しておくべきだろうか。
 どうしたものかと領主様に視線を送る。
 こちらに視線を向けた領主様は笑みを浮かべて頷いたあと、息子さんの方へと近づいた。
 そして、目線を合わせるように腰を屈めると、彼の肩に手を置いて優しく諭すように語りかけた。
 その姿は愛情溢れる父親そのものだ。

「ルイス。先ほどの会話を聞いたなら、ある程度のことは理解したのではないか?ユーリ殿は希少な薬草を使ったポーションを、お前を救うために惜しげもなく提供してくれた。きっと、一本や二本ではないであろう。お前もホーリー草がどれほど希少か知っているな?」

「はい」

 その言葉に素直に返事をすると、領主様は再び話しを続けた。

「我々は貴族で彼は何の後ろ盾もない平民だ。そんな彼が稀少な薬草を持っているだけでなく、万能薬とも言えるポーションを作れるとしたら彼の身が危ないことも分かるな?」

 領主様が言わんとする言葉の意味を理解したルイスさんが、ハッと息を吞んだのが聞こえた。
 せっかく赤みがさしていた顔色は、どこか青ざめて見えた。

「……はい」

 消え入りそうな声で返事をしたルイスさんに、領主様は優しく微笑んで頭を撫でた。

「このことはこの場に居る私たちだけの秘密だ。家族であっても決して口外してはならぬ。分かったね?」

 何度も優しく頭を撫でられていたルイスさんだったが、不意に領主様を見上げた。
 先ほどまでの青ざめた表情は消え、しっかりと領主様を見据えたルイスさんは、はっきりとした口調で自分の意思を口にした。

「はい、父上。ですが、今、この場でお礼を伝えることをお許しいただけないでしょうか?……長い闘病生活で生きることに喜びを見出せなかった私に、ユーリ殿が光を与えてくださったのです。せめてお礼だけでもお伝えしたいのです」

 ルイスさんの言葉に一瞬辛そうな表情を見せた領主様は、すぐに柔らかく微笑んで口を開いた。

「……そうか。お前の言うことはもっともだな。ユーリ殿、息子は長年に渡る闘病生活で全てを諦めるしかなかった。段々感情を失くしていく息子が不憫で、何もしてやれない自分が不甲斐なく情けなかった……。こうして感情を取り戻した息子を再び見られて、こんなに嬉しいことはない。心から感謝する」

 ルイスさんを愛おしげに見つめたあと領主様が私の方に体を向けると、深々と頭を下げる。
 その姿を見たルイスさんも、領主様に続いて感謝の言葉を口にした。

「……父上。父上が私のために奔走してくれていたことは兄上たちから聞いて存じています。どうかもうお気に病まないでください。ユーリ殿、私に再び生きる機会を与えてくださったこと、感謝申し上げます」

 長年ベッドの上で過ごしていたせいで、やせ細った体は上半身を起こすだけで精一杯なようだ。
 それでも彼は上半身を起こして背筋を伸ばすと、枯れ枝のような腕で体を支えながら深々と頭を下げてきた。
 慌てた私はまくし立てるように声をかける。

「あっ!どうか頭を上げてください!いくらポーションを飲んで完治したといっても、落ちた体力はすぐには戻りません。そのお言葉だけで十分です。今はしっかりと療養して体力をつけることに専念してください。領主様も頭を上げてください!」

 鑑定で完治の文字が表示されてはいたが、それは病が完治しただけのことだ。
 今のルイスさんは上半身を起こすことすら辛いだろう。
 私が発した言葉に気づいた領主様がルイスさんの体を支えてベッドに寝かせると、こちらに振り返って告げた。

「ユーリ殿、一旦応接室に戻ろう。話しの続きはそこで」

 無言で頷き返した私を見た領主様は、呼び鈴を鳴らしてメイドにルイスさんの面倒をみるように指示を出したあと、部屋を後にした。

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