140 / 180
第三章
第140話 愛情溢れる父親とその息子
しおりを挟む平穏に暮らしたいと告げた私に、領主様はポカンと開けていた口を閉じたかと思うと、突然笑い声を上げた。
「ははははっ!なんとも欲のない方だユーリ殿は。確かに、ユーリ殿の話しには一理ある。ルイスの病の原因を突き止めたのがまだ年端もいかない子供だと知られれば、業突く張りな貴族が黙ってはいないだろう。幸いにも我が家は伯爵家とはいえ英雄を祖先に持つ由緒ある家柄だ。そうそう横槍を入れるような馬鹿な貴族は現れないだろう。ユーリ殿の平穏な暮らしを守るためとあらば矢面に立つことも吝かではない。困ったことがあればいつでも相談に乗ろう」
領主様は私の心意を正しく読み取ってくれたようだ。
これで面倒事に巻き込まれることはなくなった。
内心ガッツポーズをして喜んでいると、ベッドから遠慮がちに問いかけられた。
「……あの、父上?もしかして、彼がポーションを作った方ですか?」
おっと。すっかり彼のことを忘れていた。
口外しないようにとお願いしてはいるが、彼にきちんと説明しておくべきだろうか。
どうしたものかと領主様に視線を送る。
こちらに視線を向けた領主様は笑みを浮かべて頷いたあと、息子さんの方へと近づいた。
そして、目線を合わせるように腰を屈めると、彼の肩に手を置いて優しく諭すように語りかけた。
その姿は愛情溢れる父親そのものだ。
「ルイス。先ほどの会話を聞いたなら、ある程度のことは理解したのではないか?ユーリ殿は希少な薬草を使ったポーションを、お前を救うために惜しげもなく提供してくれた。きっと、一本や二本ではないであろう。お前もホーリー草がどれほど希少か知っているな?」
「はい」
その言葉に素直に返事をすると、領主様は再び話しを続けた。
「我々は貴族で彼は何の後ろ盾もない平民だ。そんな彼が稀少な薬草を持っているだけでなく、万能薬とも言えるポーションを作れるとしたら彼の身が危ないことも分かるな?」
領主様が言わんとする言葉の意味を理解したルイスさんが、ハッと息を吞んだのが聞こえた。
せっかく赤みがさしていた顔色は、どこか青ざめて見えた。
「……はい」
消え入りそうな声で返事をしたルイスさんに、領主様は優しく微笑んで頭を撫でた。
「このことはこの場に居る私たちだけの秘密だ。家族であっても決して口外してはならぬ。分かったね?」
何度も優しく頭を撫でられていたルイスさんだったが、不意に領主様を見上げた。
先ほどまでの青ざめた表情は消え、しっかりと領主様を見据えたルイスさんは、はっきりとした口調で自分の意思を口にした。
「はい、父上。ですが、今、この場でお礼を伝えることをお許しいただけないでしょうか?……長い闘病生活で生きることに喜びを見出せなかった私に、ユーリ殿が光を与えてくださったのです。せめてお礼だけでもお伝えしたいのです」
ルイスさんの言葉に一瞬辛そうな表情を見せた領主様は、すぐに柔らかく微笑んで口を開いた。
「……そうか。お前の言うことはもっともだな。ユーリ殿、息子は長年に渡る闘病生活で全てを諦めるしかなかった。段々感情を失くしていく息子が不憫で、何もしてやれない自分が不甲斐なく情けなかった……。こうして感情を取り戻した息子を再び見られて、こんなに嬉しいことはない。心から感謝する」
ルイスさんを愛おしげに見つめたあと領主様が私の方に体を向けると、深々と頭を下げる。
その姿を見たルイスさんも、領主様に続いて感謝の言葉を口にした。
「……父上。父上が私のために奔走してくれていたことは兄上たちから聞いて存じています。どうかもうお気に病まないでください。ユーリ殿、私に再び生きる機会を与えてくださったこと、感謝申し上げます」
長年ベッドの上で過ごしていたせいで、やせ細った体は上半身を起こすだけで精一杯なようだ。
それでも彼は上半身を起こして背筋を伸ばすと、枯れ枝のような腕で体を支えながら深々と頭を下げてきた。
慌てた私はまくし立てるように声をかける。
「あっ!どうか頭を上げてください!いくらポーションを飲んで完治したといっても、落ちた体力はすぐには戻りません。そのお言葉だけで十分です。今はしっかりと療養して体力をつけることに専念してください。領主様も頭を上げてください!」
鑑定で完治の文字が表示されてはいたが、それは病が完治しただけのことだ。
今のルイスさんは上半身を起こすことすら辛いだろう。
私が発した言葉に気づいた領主様がルイスさんの体を支えてベッドに寝かせると、こちらに振り返って告げた。
「ユーリ殿、一旦応接室に戻ろう。話しの続きはそこで」
無言で頷き返した私を見た領主様は、呼び鈴を鳴らしてメイドにルイスさんの面倒をみるように指示を出したあと、部屋を後にした。
45
あなたにおすすめの小説
異世界に来ちゃったよ!?
いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。
しかし、現在森の中。
「とにきゃく、こころこぉ?」
から始まる異世界ストーリー 。
主人公は可愛いです!
もふもふだってあります!!
語彙力は………………無いかもしれない…。
とにかく、異世界ファンタジー開幕です!
※不定期投稿です…本当に。
※誤字・脱字があればお知らせ下さい
(※印は鬱表現ありです)
底無しポーターは端倪すべからざる
さいわ りゅう
ファンタジー
運び屋(ポーター)のルカ・ブライオンは、冒険者パーティーを追放された。ーーが、正直痛くも痒くもなかった。何故なら仕方なく同行していただけだから。
ルカの魔法適正は、運び屋(ポーター)に適した収納系魔法のみ。
攻撃系魔法の適正は皆無だけれど、なんなら独りで魔窟(ダンジョン)にだって潜れる、ちょっと底無しで少し底知れない運び屋(ポーター)。
そんなルカの日常と、ときどき魔窟(ダンジョン)と周囲の人達のお話。
※タグの「恋愛要素あり」は年の差恋愛です。
※ごくまれに残酷描写を含みます。
※【小説家になろう】様にも掲載しています。
私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~
Ss侍
ファンタジー
"私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。
動けない、何もできない、そもそも身体がない。
自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。
ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。
それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!
元チート大賢者の転生幼女物語
こずえ
ファンタジー
(※不定期更新なので、毎回忘れた頃に更新すると思います。)
とある孤児院で私は暮らしていた。
ある日、いつものように孤児院の畑に水を撒き、孤児院の中で掃除をしていた。
そして、そんないつも通りの日々を過ごすはずだった私は目が覚めると前世の記憶を思い出していた。
「あれ?私って…」
そんな前世で最強だった小さな少女の気ままな冒険のお話である。
転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう! 公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ
幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
アルファポリス様より書籍化!
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。
どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。
- カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました!
- アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました!
- この話はフィクションです。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
まったく知らない世界に転生したようです
吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし?
まったく知らない世界に転生したようです。
何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?!
頼れるのは己のみ、みたいです……?
※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。
私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。
111話までは毎日更新。
それ以降は毎週金曜日20時に更新します。
カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。
魔王と噂されていますが、ただ好きなものに囲まれて生活しているだけです。
ソラリアル
ファンタジー
※本作は改題・改稿をして場所を移動しました。
現在は
『従魔と異世界スローライフのはずが、魔王と噂されていく日々』
として連載中です。2026.1.31
どうして、魔獣と呼ばれる存在は悪者扱いされてしまうんだろう。
あんなに癒しをくれる、優しい子たちなのに。
そんな思いを抱いていた俺は、ある日突然、命を落とした――はずだった。
だけど、目を開けるとそこには女神さまがいて、俺は転生を勧められる。
そして与えられた力は、【嫌われ者とされる子たちを助けられる力】。
異世界で目覚めた俺は、頼りになる魔獣たちに囲まれて穏やかな暮らしを始めた。
畑を耕し、一緒にごはんを食べて、笑い合う日々。
……なのに、人々の噂はこうだ。
「森に魔王がいる」
「強大な魔物を従えている」
「街を襲う準備をしている」
――なんでそうなるの?
俺はただ、みんなと平和に暮らしたいだけなのに。
これは、嫌われ者と呼ばれるもふもふな魔獣たちと過ごす、
のんびり?ドタバタ?異世界スローライフの物語。
■小説家になろう、カクヨムでも同時連載中です■
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる