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第三章
第150話 夢の中のお母様
しおりを挟む「ユリーシュカ。わたくしの愛おしいユリーシュカ。わたくしの愛した街を救ってくれてありがとう」
不意に頭上から声が聞こえて目を開ける。
目の前には、穏やかな笑みを浮かべたお母様の綺麗な顔が私を覗き込んでいた。
私の記憶にあるお母様より健康的で若いけど、お母様だよね?
「ええ、そうよ。わたくしはあなたの母ミシェルよ。ずっとあなたのことが気がかりだったの」
ん?
私、口に出して会話してない気がするんだけど、会話が成り立っている?
どうして?
「ふふ。ここは夢の中よ。あなたが口に出さなくてもちゃんと聞こえているわ」
お母様は柔らかく微笑むと、そっと頬を撫でてくれた。
どうやら私はお母様に膝枕をしてもらっているようだ。
温かくてふわふわとした感覚に、つい童心に帰って抱きついていた。
「お母様!お母様!お母様!」
夢の中でもいい。
またこうしてお母様に会えたのだから。
「まあまあ、甘えん坊さんね」
そう言って背中を叩く手は温かくて優しい。
ぽんぽんとリズミカルに背中を叩かれているうちに、瞼が重くなってきた。
そんな私に、お母様は独り言のように語り始めた。
「実はね、今回だけ特別に神様からお許しをいただいたの。ユリーシュカ、いいえ、今はユーリと名乗っているのよね。あなたが屋敷を出る前からずっと見守ってきたわ。まだ幼いあなたが生きていけるのかとても不安だった。でも、あなたには強い味方がついていると知って安心したわ。あなたの成長を見られて嬉しかった」
お母様はそこで一旦話しを止めて頬や頭を撫でる。
私は重い瞼のせいで目を開けることも出来ずに、耳を傾けて続きを待つ。
一頻り頭と頬を撫でていたお母様は、それからしばらくの後口を開いた。
「……これが今生での別れとなるでしょう。ユーリ、どうか自由にあなたらしく生きて。それが母の願いです。もう会えないけれど、わたくしはあなたを見守っています。幸せに。さようなら、ユリーシュカ。愛しているわ」
重くて開けられない瞼を必死に開けようとするも、なぜかその意思に反してますます瞼が重くなる。
私もお母様を愛していると伝えたいのに、思うように口を動かせない。
ずっと見守ってくれてありがとう。
心配かけてごめんなさい。
今は家族が出来て毎日が楽しいよ。
そう伝えたいのに、体が言うことを聞いてくれずにもどかしい。
そんな私の気持ちを察したのか、お母様は頬や頭を撫でて答えてくれた。
「あなたの気持ちは十分に伝わってきたわ。今は毎日が楽しいのね。それならわたくしも安心だわ。それと、魔力器官が未発達で苦しんでいる子供たちを助けてくれてありがとう。原因が判らずに悔しい想いを抱えていたのだけど、ようやく肩の荷が下りたわ。本当にありがとう」
そうか。
お母様もその事が気がかりだったのか。
大丈夫。
もう子供たちにもその親御さんにも悲しい想いはさせないよ。
私の手が届く範囲で助けられるなら、手助けしていきたいと思っているから安心してね。
「ふふ。それで十分よ。でも、何もかもを一人で背負わないでちょうだい。あなたには頼もしい家族が居るでしょう?あと、お兄様はとても柔軟な考えをお持ちだから、きっと良い相談相手になると思うわ。だから、遠慮せずにお兄様に相談するのよ。決して一人で抱え込まないでちょうだい」
わかったわ、お母様。
「……名残惜しいけれど、もう行かなくちゃ。幸せにおなりなさい、ユーリ。愛しているわ」
お母様の優しい声と共に、額に温かいものがそっと触れる。
お母様……。
私も愛しています。
絶対幸せになってみせます。
そう決意を胸にした途端、急激に意識が浮上していく。
もふもふのブロンの毛並みに包まれるようにして目を覚ました私は、先ほどまでの出来事が夢だったのだと気づいた。
しかし、ただの夢にしては妙にリアルに感じられて額に手を触れる。
お母様が言っていたように、あれは夢だったのだろう。
しかも、今回だけ特別に神様からお許しをいただいたと言っていた。
会話の内容からも見守っていたというのは事実だろう。
きっと、元の世界だったら都合の良い夢で終わらせていたに違いない。
だけど、ここは魔法が存在する世界だ。
ちょっとくらい不思議な事があってもおかしくはない。
私は額から手を離すと、笑みを浮かべてもふもふの毛並みに体を預けて空を見上げた。
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