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第三章
第155話 報告書(リュシアン視点)
しおりを挟む一方、カミール家の執務室では、ロージス家に遣いを出した者から報告書を受け取ったリュシアンが、渋い顔をして報告書に目を通していた。
報告書を読み進めていくうちに、その眉間にはますます皺が深く刻まれていく。
怒りからなのか、報告書を持つ手に力が籠り小刻みに震えている。
クシャリと握り潰された報告書を机に叩きつけるようにして置いたリュシアンは、苦々しい表情で吐き捨てた。
「……あれから二か月が経つというのに全く返事が来ないと思って探りを入れてみれば……あやつは一体何をしているのだ!」
あやつとは、現ロージス家当主であるウィルフレッド・ロージスでありミシェルの夫だった者だ。
なぜ過去形なのかと言うと、リュシアン自身寝耳に水だったのだが、ミシェルはすでにこの世を去っており数年前に後妻を迎えていると報告書に書かれていたためだ。
「あやつがミシェルを娶りたいと申し込んできたというのに、この仕打ちはあまりにも酷いではないか!ミシェルだけでなく我がカミール家を愚弄しておる!……抗議したいところではあるが、送ったところでどうせ読まずに捨てられるであろう……」
カミール家に対する誠意のない態度よりも、愛しい妹を蔑ろにしたことが許せずに唇を噛む。
ミシェルは誰に対しても優しく慈愛に満ちていた。
ミシェルが行使する治癒魔法は非常に優れており、その効果も絶大だった。
そんなミシェルを手に入れるべく神殿や高位貴族から勧誘や求婚の手紙が届いていたが、我がカミール家は妹の気持ちを優先して断り続けていた。
そんなある日、瘴気を浄化するためにロージス領に赴いたミシェルに一目惚れしたウィルフレッドが、求婚を申し込んできたのである。
ミシェルと恋仲になっていたとしらなかったリュシアンは、ロージス家からの婚約の申し入れを一度断った過去があった。
その後、ウィルフレッドが父の侯爵と共に婚約の申し入れにカミール家に訪れたのだが、あの時の彼は心からミシェルを愛しているように見えた。
「あの真摯な姿勢は偽りだったのか……?いや、とてもそのようには見えなかった。一体何があったというのだ?」
カミール領は農業が盛んな街だが、それと同時に強力な魔物が多いことで有名だ。
そのため、世界各国から選りすぐりの冒険者たちが集まり人材の宝庫となっている。
これはと思う人材を見つけてカミール家に引き抜いてきたおかげで、今では多くの部隊を抱えるまでになっていた。
静かに控えていた側近に告げる。
「ハイドを呼べ」
「かしこまりました」
側近は短く応えると、足早に執務室から出て行った。
それから程なくハイドを連れて側近が戻って来ると、ハイドを残して退室した。
二人きりになったのを確認したリュシアンが口を開く。
「ロージス家の調査を頼みたい。この報告書だけでは真偽のほどがわからないのでな。費用は惜しまぬ。準備が整い次第向かってくれ」
報告書をハイドに手渡すと、報告書に目を通して頷き返される。
彼は、元々エストロッジ国で奴隷として売られていた。
偶然にも暴行されていた彼を助ける形で買い取ったわけなのだが、以外にも彼の能力は諜報活動に向いていたということで今に至る。
当時まだ少年だった彼に名前を与え文字の読み書きや戦闘技術を教えたのだが、その優秀さにリュシアンは驚かされてしまった。
数年前に奴隷から解放した時はリュシアンの元を去るだろうと思っていた。
しかし、彼の忠誠は厚くここに残ると言ってくれた。
寡黙だが与えられた任務を着実にこなしてくれる。
まだ若いが、彼以上に任せられる人物はいない。
無言で頷いた彼に、リュシアンは一言告げた。
「任せた」
胸に手をあてて頷いた彼は、足音も立てずに執務室から出て行った。
彼の背中を見送ったリュシアンは、苦々しい想いで窓の外を眺める。
「いくら忙しかったとはいえ、もっとミシェルに気を配っていれば……いや、今更だな。今は確かな情報を集めるのが先だ」
色々な感情が押し寄せる中、リュシアンは深く深呼吸をして椅子に腰を下ろすと、山積みになった書類に手を伸ばした。
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