159 / 180
第三章
第159話 豊穣祭 その四
しおりを挟む「わっ!これ、コルクガンだ!思っていたより本格的で驚いたぁ」
この世界に銃があるとは思ってもいなかったヒデさんは、コルクガンをまじまじと凝視している。
私も同様に驚きを隠せずに、コルクガンをジッと眺めていた。
店主がコルクガンを私に手渡しながら笑顔で尋ねてきた。
「ほら、坊主。使い方はわかるか?」
使い方は理解している。
だけど、的に当てるのが意外と難しいんだよね。
ここは店主からレクチャーを受けた方が良いかもしれない。
私は首を横に振って答える。
「わかりません」
すると、店主がカウンターから身を乗り出してコルクガンの使い方を説明し始めた。
「先ず、カチッと音がするまで手前に引き金を引く。その次にここにコルクを詰めるんだ」
店主は指を差して丁寧に使い方を説明していく。
やはり工程は元の世界と同じみたいだ。
ふむふむと頷く私を見て、店主は更に説明を続ける。
「で、ここからが重要なんだが、的に当てるには脇を締めて構えること。打った時ぶれてしまうからな。いきなり大物を狙わずに軽い物から狙うといいだろう」
店主は人が良いのか、銃の構え方や狙いやすい物を教えてくれた。
そこまで教えて大丈夫なの?楽勝じゃん!
……なんて思っていたけど、実際は全然楽勝じゃなかった。
「えいっ!あ~、掠ったぁ~……。次は当てるんだから!」
一回の料金で打てる回数は五回まで。
すでに三回打っているが、一回目は当たりもせずに明後日の方向へ飛んでいき、二回目はギリギリのところを飛び、三回目にしてようやく景品に掠ったのである。
打てる回数は残り二回。
どうしても景品を倒したい。
その景品が欲しいというよりも、もはや当てたいという気持ちの方が勝っていた。
景品に意識を集中させて焦点を絞る。
少しずつ軌道修正して三回目で掠ることが出来たのなら、次は確実に当てにいきたい。
もちろん、ズルは無しで。
小さく息を整えてコルクガンを構え直す。
パンッ!
乾いた音と共にコルクが勢いよく飛び出した。
コルクが景品に命中してポトリと台から落ちたのを見た私は、嬉しさのあまりガッツポーズをして喜ぶ。
「やった!取ったど――!」
周囲で温かく見守っていたキリアンさんとヒデさんが、手を叩いて自分のことのように喜んでくれた。
「ユーリさん、景品が取れて良かったね!」
そう言って喜ぶヒデさんの手には、すでにお目当ての景品があった。
いつの間に……。
景品を倒すことに夢中になっていた私は、あまりにも大人げなかったと恥ずかしさで俯いた。
俯いた私に、キリアンさんが感心した様子で声をかけてきた。
「ユーリは吞み込みが早いな。俺はあの道具を使いこなせるようになるまで結構な金額を使ったぞ」
苦笑いを浮かべたキリアンさんに、店主は満面の笑みを浮かべて感謝の言葉を述べる。
「その節は大変ありがとうございました」
なるほど。その時もこの店主の店で射的をしたのか。
店主のその態度を見て、キリアンさんがどれだけお金を遣ったのか容易に想像出来た私は、失礼だと思いながらも笑いが零れてしまった。
「ふ、あはは!キリアンさんって案外子供みたいなところがあったんですね。驚きました」
私に子供みたいと言われたキリアンさんは、口を尖らせて答える。
「あのな、ユーリは軽々とやってのけたから分からないだろうけど、的に当てるのって意外と難しいんだぞ。魔法を使えば簡単に取れるのに、使い慣れていない道具を使うんだ。大変だったんだぞ」
言われてみればそうかもしれない。
私やヒデさんはお祭りやゲームで扱い方を知っているが、キリアンさんにとってコルクガンは未知の物だ。
私達と同等に考えるのはあまりにも失礼だろう。
「それで、景品は取れたんですか?」
さりげなく話題を逸らして尋ねた私に、キリアンさんは「よくぞ聞いてくれた」と言わんばかりに胸を張って答えた。
「ああ。記念として飾ってある」
「本当にその節はありがとうございました」
キリアンさんに続いて店主が揉み手をしながらニッコリと微笑んだのを見た私は、想像以上にお金を遣ったのだろうと察して景品の木彫りの動物に視線を落とした。
17
あなたにおすすめの小説
異世界に来ちゃったよ!?
いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。
しかし、現在森の中。
「とにきゃく、こころこぉ?」
から始まる異世界ストーリー 。
主人公は可愛いです!
もふもふだってあります!!
語彙力は………………無いかもしれない…。
とにかく、異世界ファンタジー開幕です!
※不定期投稿です…本当に。
※誤字・脱字があればお知らせ下さい
(※印は鬱表現ありです)
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。
異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅
散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー
2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。
人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。
主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~
志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。
けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。
そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。
‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。
「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる