転生少女と黒猫メイスのぶらり異世界旅

うみの渚

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第三章

第160話 豊穣祭 その五

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 豊穣祭最終日。

 その日は最終日ということもあり、今まで以上に多くの人が集まっていた。

「今日はまた一段と人が多いなぁ……」

 人の多さにポツリと呟いた私に、キリアンさんが笑みを浮かべて答える。

「そりゃあそうだろう。豊穣祭最終日には一番の催しがあるからな」

「一番の催し……?」

 一体何だろうと首を傾げて誰に尋ねるわけでもなくポツリと零した呟きに、キリアンさんが目を輝かせて興奮気味に語り始めた。

「年に四回開かれる祭りの中で、俺は豊穣祭が一番好きなんだ。もちろん、他の祭りも素晴らしいぞ。だけどな、今夜開かれる催しはそれらとは比べものにならないくらい荘厳で美しいんだ」

 荘厳で美しい……?
 キリアンさんの表情から本当に素晴らしいのだろうと察した。
 
 だけど、荘厳で美しい……とはどういうこと?
 全く想像が出来ない以上、ここで悶々と頭を悩ませても仕方ない。
 とにかく、キリアンさんが絶賛するほどの催しなら、その催しが始まるまでお祭りを楽しもう。
 そう考えを切り替えた私は、催しが始まるまで屋台を見て回ることにした。







 日が暮れて屋台で軽く夕食を摂った私達は、キリアンさんに案内されて広場に来ていた。
 広場には昼間はなかったステージが用意されており、そのステージを囲むように人々が場所取りをして思い思いに過ごしながら催しが始まるのを待っているようだ。

「あ~……良い場所は取られてしまったか。仕方ない。あっちに行こう」

 どうやら先客が居たようで、キリアンさんはすぐに周囲に視線を向けたあと私達に振り返り移動するように促した。
 私もヒデさんも初めてのお祭りということもあり、キリアンさんの言葉に従って頷き返す。
 メイスとブロンは興味が無いのか退屈そうに欠伸をしている。
 二人が興味を示すのはあくまでも食べ物だけのようだ。

 それにしても随分と広いステージだ。
 ここで何の催しが始まるのか今からワクワクが止まらない。

 そうこうしているうちに続々と人が集まってきた。
 隣に腰を下していたキリアンさんが、興奮を隠し切れない様子で口を開く。

「そろそろ催しが始まるぞ。楽しみだな」

 それから間もなくしてシャランという鈴の音が辺りに響き渡ると、それまでざわざわとしていた会場が一瞬にして静まり返る。
 それまで誰も居なかったステージ上には、巫女のような衣装を纏った見目麗しい女性たちが鈴を手に立っていた。

「巫女?あれってどう見ても巫女だよね?」

 反対隣からヒデさんが声を潜めて問いかけてきた。
 私はステージに立つ彼女たちの衣装を眺めて頷き返す。

「……うん。衣装はちょっと違うけど、彼女たちが持っている鈴は神楽鈴に似ているような気がする」

 遠目には巫女服に似ていなくもないが、じっくりと観察したら若干の違いがあった。
 でも、きっと巫女という認識で良いのだろうと思う。
 鈴を手に持ち立っていた彼女たちは、一度力強く鈴を鳴らすと静かに踊り始めた。

 シャン、シャンと鳴らしながら舞うその姿は、前世で観た奉納舞に似ていた。
 キリアンさんが言ったように、確かに荘厳で美しい。
 懐かしさも相まって見入っていると、ヒデさんがポツリと呟いた。

「しょうちゃん、巫女が主人公のアニメが大のお気に入りだったんだよね……。それにしても再現度が高いな」

 あ~……そういうこと。
 私はてっきり日本文化に造詣が深いのかと感心していたのに……。
 複雑な気持ちで奉納舞を眺めながら、それでもあれだけの踊りを途絶えさせずにずっと継承させてきたことに感心するばかりだった。

「……何であれ、こうして再び舞を観られたのは嬉しいわ。ご先祖様には感謝しなきゃ」

 異世界に転生して、不遇な環境に置かれたことに恨み言を言いたいこともあった。
 だけど、今の私には大切な仲間が居る。
 もし、本当に神様が存在するのなら、今こそ感謝の気持ちを伝えたい。
 私は無意識に両手を組んで祈っていた。

「皆と出会えて幸せです。合わせていただき感謝します」

 小さな声で感謝の言葉を口にした途端、会場中に淡い光の粒子が上空から降り注いできた。
 キラキラと降り注ぐ光の粒子を目にした人々が、口々に声をあげる。

「おぉ!豊穣の神の祝福か!?」

「なんと!このような現象は初めてだ!」

「神よ!感謝します!」

「ありがたや~」

 地面に跪いて祈る者、歓喜の声をあげて全身で喜びを表す者とそれぞれ反応は様々だが、私には何が起こったのか分からずにキラキラと降り注ぐ光の粒子を眺めていた。

『あいつも粋なことをしてくれる』

 メイスのその呟きは、誰の耳に届くことなく歓声に飲まれて消えた。

 その夜の出来事は人々の記憶にずっと残り続け、何世代にも渡り語り継がれていくことになる。
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