161 / 180
第三章
第161話 カミール伯爵家へ
しおりを挟む豊穣祭が終わり、いつもの日常が戻ってきた。
「奉納舞、綺麗だったなぁ……」
猫の額ほどの畑で水やりをしながら昨夜の余韻に浸っていると、ヒデさんが慌てた様子で私を呼びに来た。
「ユーリさん!カミール伯爵家から呼び出しだって!」
こうして呼び出されるのは三度目だが、急な呼び出しはやめてほしい。
確か、以前も似たようなことがあったような……。
あの時はホーリー草の件で呼び出されたんだっけ。
もしかして、領主様の家族に何かあったのかもしれない。
私は水やりする手を止めて立ち上がると、ヒデさんに尋ねた。
「呼び出し?今すぐってこと?」
私の問いかけに答えたのはキリアンさんだった。
申し訳なさそうに眉尻を下げたキリアンさんは、頭をガシガシと掻きながら質問に答えてくれた。
「そう。急で悪いね。詳しい内容は知らないが、ご領主様に屋敷に連れて来るように頼まれたんだ」
キリアンさんの表情から切羽詰まった様子は感じない。
だとしたら、怪我や病気に関することではないのだろう。
気になるが、内容を知らされていないキリアンさんに尋ねても、きっと答えは得られないと判断した私は頷いた。
「わかりました。すぐに身支度を整えてきますので少しだけお待ちください」
急いで身支度を整えた私は、カミール家が用意してくれた馬車に乗り込み屋敷へと向かった。
馬車には、キリアンさんと私とメイスの三人だけが乗っている。
メイスは一応私の従魔としてついて来ることを許可してもらったが、今回は私だけと内密の話しがあるのかもしれない。
別に何かされると警戒しているわけでもないのだが、精神は大人とはいえこの世界の常識に疎い私一人では上手く対応出来るか不安だった。
だって、相手がお母様のお兄様であっても貴族だからね。
粗相があってはならない。
緊張のせいか、窓の外の景色すら目に入ってこない。
『体が強張っているぞ。深呼吸をしろ』
メイスの穏やかな低い声に、私は呼吸すらまともに出来ていないことに気がついて深呼吸を繰り返す。
優しく尻尾で背中を叩かれているうちに、だいぶ気持ちが落ち着いてきた。
「ありがとう。メイス」
『……何のことだ。お前はまだ子供だ。多少粗相があったとしても、あいつらなら目を瞑ってくれるさ。お前はもう少し気楽に構えておけ』
メイスは、まるで私の胸のうちを読んだかのように欲しい言葉をかけてくれた。
その優しい気遣いが嬉しくて、さっきまでぐるぐると思い悩んでいたことが馬鹿らしくなって笑いが零れる。
「ふ、ふふふ。それもそうか。まだ子供だもんね。……そうだよね」
精神が大人なせいで自分がまだ十歳の子供だということを忘れてしまいがちだが、本来ならまだ大人の庇護下に居てもおかしくはないのだ。
子供でいられる時間が少ないのなら、その時間を大切にしたい。
そう思うものの、前世の自分が邪魔をしてしまう。
眉尻を下げて困ったように呟いた私に、メイスは肉球を額にあてて言った。
『そうだ。お前は子供だ。人間の子供などあっという間に成長する。ほんの少し目を離した隙に年をとって俺を置いて逝ってしまう。……人間とは儚い生き物だ』
誰を想っての発言か知らないが、その声音には複雑な心情が滲んでいた。
メイスの言葉を聞いて苦い想いになる。
私もいずれ、メイスを置いて旅立つことになる。
置いて逝くより、置いて逝かれる方が辛いだろう。
私は無言でメイスの背中を撫でた。
屋敷が近くなってきたのか、馬車の速度が落ちてきた。
カミール家に来るのは三度目になるが、何度見ても立派な門構えに怯んでしまう。
それまで腕を組んで目を閉じていたキリアンさんが、大きな欠伸をして目を開ける。
「ふあぁ~。お、着いたか」
どうやら本気で寝入っていたキリアンさんは、眠い目を擦りながら強張った体を解し始めた。
メイスとの会話を聞かれていなかったことに安堵しながら、静かに開かれた門を横目に馬車は屋敷へと進んだ。
16
あなたにおすすめの小説
異世界に来ちゃったよ!?
いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。
しかし、現在森の中。
「とにきゃく、こころこぉ?」
から始まる異世界ストーリー 。
主人公は可愛いです!
もふもふだってあります!!
語彙力は………………無いかもしれない…。
とにかく、異世界ファンタジー開幕です!
※不定期投稿です…本当に。
※誤字・脱字があればお知らせ下さい
(※印は鬱表現ありです)
私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~
Ss侍
ファンタジー
"私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。
動けない、何もできない、そもそも身体がない。
自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。
ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。
それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!
まったく知らない世界に転生したようです
吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし?
まったく知らない世界に転生したようです。
何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?!
頼れるのは己のみ、みたいです……?
※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。
私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。
111話までは毎日更新。
それ以降は毎週金曜日20時に更新します。
カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。
転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう! 公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ
幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
アルファポリス様より書籍化!
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。
どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。
- カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました!
- アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました!
- この話はフィクションです。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
元チート大賢者の転生幼女物語
こずえ
ファンタジー
(※不定期更新なので、毎回忘れた頃に更新すると思います。)
とある孤児院で私は暮らしていた。
ある日、いつものように孤児院の畑に水を撒き、孤児院の中で掃除をしていた。
そして、そんないつも通りの日々を過ごすはずだった私は目が覚めると前世の記憶を思い出していた。
「あれ?私って…」
そんな前世で最強だった小さな少女の気ままな冒険のお話である。
魔王と噂されていますが、ただ好きなものに囲まれて生活しているだけです。
ソラリアル
ファンタジー
※本作は改題・改稿をして場所を移動しました。
現在は
『従魔と異世界スローライフのはずが、魔王と噂されていく日々』
として連載中です。2026.1.31
どうして、魔獣と呼ばれる存在は悪者扱いされてしまうんだろう。
あんなに癒しをくれる、優しい子たちなのに。
そんな思いを抱いていた俺は、ある日突然、命を落とした――はずだった。
だけど、目を開けるとそこには女神さまがいて、俺は転生を勧められる。
そして与えられた力は、【嫌われ者とされる子たちを助けられる力】。
異世界で目覚めた俺は、頼りになる魔獣たちに囲まれて穏やかな暮らしを始めた。
畑を耕し、一緒にごはんを食べて、笑い合う日々。
……なのに、人々の噂はこうだ。
「森に魔王がいる」
「強大な魔物を従えている」
「街を襲う準備をしている」
――なんでそうなるの?
俺はただ、みんなと平和に暮らしたいだけなのに。
これは、嫌われ者と呼ばれるもふもふな魔獣たちと過ごす、
のんびり?ドタバタ?異世界スローライフの物語。
■小説家になろう、カクヨムでも同時連載中です■
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる