転生少女と黒猫メイスのぶらり異世界旅

うみの渚

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第三章

第165話 初代ご当主様からの手紙

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「一つ、尋ねても良いだろうか」

 その問いかけは確信を得ているのか、疑問形ではなく確認のための問いかけのように聞こえた。
 私は無言で頷き返す。
 頷いた私を見た領主様は、ポチに目を向けて静かに語り始めた。

「あの文字は初代ご当主様しか読めないそうだ。だが、ユーリ殿には読めたのだな?」

 何と答えればいい?
 正直に読めると返事をすればいいの?
 でも、読めると返事をしたら私が転生者だってことも説明しないといけないのでは?
 答えあぐねていると、それを肯定と捉えた領主様が柔らかく目を細めて微笑んだ。

「安心しなさい。もし、ユーリ殿が文字を読めたとしても問い詰めたりはしない」

 そう言って頭を優しくポンポンと撫でた領主様は、ガラスケースを開けてポチの横に布で包んであった手紙を取り出して手渡してきた。

「この手紙は初代ご当主様がいずれ訪れるかもしれない者にあてて書かれたものだ。それはきっとユーリ殿のことだったのだろう」

 手渡された手紙は、三百年経っているとは思えないほど状態が良い。
 確かに、宛名には『名も知らぬ日本人の君へ』と日本語で書かれてあった。
 だけど、そんな大事な手紙を私が読んでいいの?
 読みたい好奇心と申し訳ない気持ちが交錯して躊躇っていると、メイスが顔を覗かせて言った。

『アイツが残した手紙か。さっさと開けろ』

 興味津々といった様子のメイスは、手紙を開けて読むように急かしてきた。
 私は、戸惑いながらも封をされた手紙を慎重に開けた。
 手紙には、お世辞にも綺麗だと言えない見慣れた日本語がびっしりと書き綴られていた。
 文面の出だしはこうだった。

『親愛なる同志へ

 今、この手紙を読んでいるということは、君は転生者か転移した者かな?
 向こうとは何もかもが異なることに最初は驚いただろう。
 だけどね、この世界には魔法があり色んな種族が存在するファンタジーな世界なんだ。
 便利なコンビニもスマホも無いけれど、俺は毎日が刺激的で楽しい日々を送っている。
 そりゃあ、楽しいことばかりじゃないけど、向こうには向こうの、こっちにはこっちの良さがあって比べるのはどうかと思うんだ。
 だから、この世界を存分に楽しんでほしい。

(中略)

 長々と書いてしまったけど、要は人生一回こっきりなんだから楽しまなきゃ損だってことさ。
 ああ、それと、もしメイスに会ったら伝えておいてほしい。
 メイスは普段黒猫の姿をしているんだけど、とっても気のいい奴なんだ。
 俺はこの国で生きていくことに決めた。
 メイスに出会えて本当に良かったと伝えておいてくれ。

 おっと、忘れていた。
 ポチ、剣のことだけど、あいつはこの世界を管理する神から貰ったんだが、もし、あいつが君を気に入れば傍に置いてやってほしい。
 ……あいつは少々好き嫌いが激しくてな。
 懐けば犬のように従順になるし言うこともきちんと聞く。
 ということで、あとはよろしく。

 普通の高校生だった俺が異世界で人並みの幸せを手にいれたんだ。
 きっと、君も幸せになれると祈っているよ』






 文面はそう締めくくられていた。
 現れるかどうかも分からない相手に向けての手紙は、堅苦しさを感じさせないものだった。
 あとは、メイスに対して感謝の言葉とポチについて書かれてあったが、その文面だけでしょうたさんがどんな人だったのか想像がつく。
 世界を救った英雄だというのにそれを鼻にかけることもなく、人並みの幸せを手に入れたことを真っ先に書くあたり、しょうたさんは謙虚で思いやりのある人だったのだろう。

 手紙を読み終えて顔を上げると、メイスが尋ねてきた。

『何が書いてあった?』

「メイスはいい奴だって。それと、俺はこの国で生きていくことを決めた。メイスに出会えて本当に良かったって」

『……そうか』

 メイスの声は、どこか嬉しそうに聞こえた。
 私達のやり取りを見ていた領主様が、やはりというように頷いて口を開いた。

「やはりユーリ殿にはその文字が読めるのだな?」

 あっ!
 領主様の存在をすっかり忘れていたわ!
 慌てて口を噤んだ私に領主様は柔らかな笑みを浮かべると、静かに語り始めた。
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