転生少女と黒猫メイスのぶらり異世界旅

うみの渚

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第三章

第166話 お母様の肖像画

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「……もしかしてユーリ殿は、ミシェルの身内ではないか?」

 ミシェル?
 その名前を領主様が口にしたのは二度目だ。
 だけど、私には心当たりがなかったため首を傾げることしか出来なかった。
 その様子を見た領主様が何かに気がついて声を出す。

「おぉ、そうだった。確か、ここら辺に肖像画が置いてあったはずだが……」

 そう独り言を漏らして辺りを探し始めた。
 一体何を探しているのだろうと見守っていたら、ある場所で足を止めた領主様が大きな白い布を捲って覗き込んだあと、こちらに振り返って手招きした。

「あったぞ。こちらに来てくれ」

 領主様に誘われるまま、大きな白い布が掛けられてある肖像画の前に進む。
 領主様が慎重に白い布を捲ると、そこには微笑みを浮かべるあどけない少女の姿が描かれてあった。

 金色の髪を靡かせて、腕に色とりどりの花を抱えて柔らかく微笑む少女。
 どこかお母様に似ている気がしないでもないのだが、この少女がミシェルさんなのかしら?
 肖像画の少女と私に何の関係があるのか分からずに首を傾げていると、領主様が静かに語り始めた。

「この肖像画はミシェルが十歳の誕生日に絵師に描かせたものだ。髪と瞳の色は違うが面差しはユーリ殿と似ているだろう?」

 言われてみれば目元が似ているような気がする。
 美少女と似ていると言われて頬が緩む。
 しかし、領主様の次の言葉に私は驚愕した。

「彼女は私の妹のミシェルだ。ロージス家に嫁いでかれこれ十六年ほどになる。十年ほど前から連絡が途絶えていたのだが……領主の執務に追われていたとはいえ私にも責任がある。もっとミシェルを気にかけていればと後悔している……」

 え?
 この肖像画の少女が私のお母様なの!?
 あと、領主様の口ぶりだとお母様が亡くなったことも知っているみたいだけど……。
 目を大きく見開いたままの私に、領主様は眉尻を下げて微笑んだ。

「……その様子だと妹の名前を知らなかったのだな。よく無事にここまで来てくれた。ユリーシュカ」

「っ!」

 どうしてその名前を!?
 私の目が更に大きく見開かれる。
 領主様は柔らかく微笑んで事情を説明してくれた。

「実はな、あれからロージス家を調べたのだ。其方が生まれてからミシェルと離れに追いやられていたことも知った。……黒髪黒目だという理由だけでミシェルが不貞を働いたと決めつけて蔑ろにするとは!あやつは我がカミール家の初代ご当主様が黒髪黒目だったということを忘れてしまったのか!あんな薄情な男だったとは思わなかった!」

 どんどんヒートアップしていく領主様を止めようとして慌てて口を挟む。

「り、領主様!どうか落ち着いてください!確かに、髪と瞳の色が違うからと不貞したと決めつけたことは許せません。ですが、人並みに生きていける術をお母様から教わりました。それに、今更父親だと名乗られても迷惑です。私は今のこの暮らしが気に入っているのですから」

 そう、生まれてこのかた顔を見せなかった人を今更父親だと思えるはずがない。
 お母様を蔑ろにしたことも絶対に許さない。
 もう二度と関わらないと決めたのだ。

「……そうか。今の暮らしが気に入っているのか。だが、本当にそれで良いのか?」

 どこか納得しきれていない領主様に、私は笑顔で返した。

「はい。お母様は私らしく自由に生きることを願っていました。私も同じ考えです」

「そうか。ミシェルが……」

 領主様はそう呟くと、吹っ切れたような表情を浮かべた。

「それが妹と其方の願いなら意思を尊重しなくてはな。……よく、無事に生きていてくれた」

 そう言うと、領主様はそっと抱きしめてくれた。
 お母様以外に私を抱きしめてくれた人は誰もいなかったため、領主様に抱きしめられた瞬間、体が強張ってしまった。
 しかし、その腕の中は温かくて、まるでお母様に抱きしめられているような感覚を覚えた。
 領主様は背中を優しく撫でながら言った。

「よく、戻ってきた。其方の望むままに暮らせるように、我がカミール家が其方を守ると誓おう。ユリーシュカ、いや、ユーリ」

 大きくて温かい手が背中を撫でる。
 ようやく私は家族として認識してもらえたことに感動して、静かに嗚咽を漏らした。

『……おい。アイツの手紙には何と書いてあったのだ?』

 空気を読まないメイスの声が耳に届いたが、今は感動の場面なんだから邪魔しないでほしい。
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