165 / 180
第三章
第165話 初代ご当主様からの手紙
しおりを挟む
「一つ、尋ねても良いだろうか」
その問いかけは確信を得ているのか、疑問形ではなく確認のための問いかけのように聞こえた。
私は無言で頷き返す。
頷いた私を見た領主様は、ポチに目を向けて静かに語り始めた。
「あの文字は初代ご当主様しか読めないそうだ。だが、ユーリ殿には読めたのだな?」
何と答えればいい?
正直に読めると返事をすればいいの?
でも、読めると返事をしたら私が転生者だってことも説明しないといけないのでは?
答えあぐねていると、それを肯定と捉えた領主様が柔らかく目を細めて微笑んだ。
「安心しなさい。もし、ユーリ殿が文字を読めたとしても問い詰めたりはしない」
そう言って頭を優しくポンポンと撫でた領主様は、ガラスケースを開けてポチの横に布で包んであった手紙を取り出して手渡してきた。
「この手紙は初代ご当主様がいずれ訪れるかもしれない者にあてて書かれたものだ。それはきっとユーリ殿のことだったのだろう」
手渡された手紙は、三百年経っているとは思えないほど状態が良い。
確かに、宛名には『名も知らぬ日本人の君へ』と日本語で書かれてあった。
だけど、そんな大事な手紙を私が読んでいいの?
読みたい好奇心と申し訳ない気持ちが交錯して躊躇っていると、メイスが顔を覗かせて言った。
『アイツが残した手紙か。さっさと開けろ』
興味津々といった様子のメイスは、手紙を開けて読むように急かしてきた。
私は、戸惑いながらも封をされた手紙を慎重に開けた。
手紙には、お世辞にも綺麗だと言えない見慣れた日本語がびっしりと書き綴られていた。
文面の出だしはこうだった。
『親愛なる同志へ
今、この手紙を読んでいるということは、君は転生者か転移した者かな?
向こうとは何もかもが異なることに最初は驚いただろう。
だけどね、この世界には魔法があり色んな種族が存在するファンタジーな世界なんだ。
便利なコンビニもスマホも無いけれど、俺は毎日が刺激的で楽しい日々を送っている。
そりゃあ、楽しいことばかりじゃないけど、向こうには向こうの、こっちにはこっちの良さがあって比べるのはどうかと思うんだ。
だから、この世界を存分に楽しんでほしい。
(中略)
長々と書いてしまったけど、要は人生一回こっきりなんだから楽しまなきゃ損だってことさ。
ああ、それと、もしメイスに会ったら伝えておいてほしい。
メイスは普段黒猫の姿をしているんだけど、とっても気のいい奴なんだ。
俺はこの国で生きていくことに決めた。
メイスに出会えて本当に良かったと伝えておいてくれ。
おっと、忘れていた。
ポチ、剣のことだけど、あいつはこの世界を管理する神から貰ったんだが、もし、あいつが君を気に入れば傍に置いてやってほしい。
……あいつは少々好き嫌いが激しくてな。
懐けば犬のように従順になるし言うこともきちんと聞く。
ということで、あとはよろしく。
普通の高校生だった俺が異世界で人並みの幸せを手にいれたんだ。
きっと、君も幸せになれると祈っているよ』
文面はそう締めくくられていた。
現れるかどうかも分からない相手に向けての手紙は、堅苦しさを感じさせないものだった。
あとは、メイスに対して感謝の言葉とポチについて書かれてあったが、その文面だけでしょうたさんがどんな人だったのか想像がつく。
世界を救った英雄だというのにそれを鼻にかけることもなく、人並みの幸せを手に入れたことを真っ先に書くあたり、しょうたさんは謙虚で思いやりのある人だったのだろう。
手紙を読み終えて顔を上げると、メイスが尋ねてきた。
『何が書いてあった?』
「メイスはいい奴だって。それと、俺はこの国で生きていくことを決めた。メイスに出会えて本当に良かったって」
『……そうか』
メイスの声は、どこか嬉しそうに聞こえた。
私達のやり取りを見ていた領主様が、やはりというように頷いて口を開いた。
「やはりユーリ殿にはその文字が読めるのだな?」
あっ!
領主様の存在をすっかり忘れていたわ!
慌てて口を噤んだ私に領主様は柔らかな笑みを浮かべると、静かに語り始めた。
その問いかけは確信を得ているのか、疑問形ではなく確認のための問いかけのように聞こえた。
私は無言で頷き返す。
頷いた私を見た領主様は、ポチに目を向けて静かに語り始めた。
「あの文字は初代ご当主様しか読めないそうだ。だが、ユーリ殿には読めたのだな?」
何と答えればいい?
正直に読めると返事をすればいいの?
でも、読めると返事をしたら私が転生者だってことも説明しないといけないのでは?
答えあぐねていると、それを肯定と捉えた領主様が柔らかく目を細めて微笑んだ。
「安心しなさい。もし、ユーリ殿が文字を読めたとしても問い詰めたりはしない」
そう言って頭を優しくポンポンと撫でた領主様は、ガラスケースを開けてポチの横に布で包んであった手紙を取り出して手渡してきた。
「この手紙は初代ご当主様がいずれ訪れるかもしれない者にあてて書かれたものだ。それはきっとユーリ殿のことだったのだろう」
手渡された手紙は、三百年経っているとは思えないほど状態が良い。
確かに、宛名には『名も知らぬ日本人の君へ』と日本語で書かれてあった。
だけど、そんな大事な手紙を私が読んでいいの?
読みたい好奇心と申し訳ない気持ちが交錯して躊躇っていると、メイスが顔を覗かせて言った。
『アイツが残した手紙か。さっさと開けろ』
興味津々といった様子のメイスは、手紙を開けて読むように急かしてきた。
私は、戸惑いながらも封をされた手紙を慎重に開けた。
手紙には、お世辞にも綺麗だと言えない見慣れた日本語がびっしりと書き綴られていた。
文面の出だしはこうだった。
『親愛なる同志へ
今、この手紙を読んでいるということは、君は転生者か転移した者かな?
向こうとは何もかもが異なることに最初は驚いただろう。
だけどね、この世界には魔法があり色んな種族が存在するファンタジーな世界なんだ。
便利なコンビニもスマホも無いけれど、俺は毎日が刺激的で楽しい日々を送っている。
そりゃあ、楽しいことばかりじゃないけど、向こうには向こうの、こっちにはこっちの良さがあって比べるのはどうかと思うんだ。
だから、この世界を存分に楽しんでほしい。
(中略)
長々と書いてしまったけど、要は人生一回こっきりなんだから楽しまなきゃ損だってことさ。
ああ、それと、もしメイスに会ったら伝えておいてほしい。
メイスは普段黒猫の姿をしているんだけど、とっても気のいい奴なんだ。
俺はこの国で生きていくことに決めた。
メイスに出会えて本当に良かったと伝えておいてくれ。
おっと、忘れていた。
ポチ、剣のことだけど、あいつはこの世界を管理する神から貰ったんだが、もし、あいつが君を気に入れば傍に置いてやってほしい。
……あいつは少々好き嫌いが激しくてな。
懐けば犬のように従順になるし言うこともきちんと聞く。
ということで、あとはよろしく。
普通の高校生だった俺が異世界で人並みの幸せを手にいれたんだ。
きっと、君も幸せになれると祈っているよ』
文面はそう締めくくられていた。
現れるかどうかも分からない相手に向けての手紙は、堅苦しさを感じさせないものだった。
あとは、メイスに対して感謝の言葉とポチについて書かれてあったが、その文面だけでしょうたさんがどんな人だったのか想像がつく。
世界を救った英雄だというのにそれを鼻にかけることもなく、人並みの幸せを手に入れたことを真っ先に書くあたり、しょうたさんは謙虚で思いやりのある人だったのだろう。
手紙を読み終えて顔を上げると、メイスが尋ねてきた。
『何が書いてあった?』
「メイスはいい奴だって。それと、俺はこの国で生きていくことを決めた。メイスに出会えて本当に良かったって」
『……そうか』
メイスの声は、どこか嬉しそうに聞こえた。
私達のやり取りを見ていた領主様が、やはりというように頷いて口を開いた。
「やはりユーリ殿にはその文字が読めるのだな?」
あっ!
領主様の存在をすっかり忘れていたわ!
慌てて口を噤んだ私に領主様は柔らかな笑みを浮かべると、静かに語り始めた。
35
あなたにおすすめの小説
異世界に来ちゃったよ!?
いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。
しかし、現在森の中。
「とにきゃく、こころこぉ?」
から始まる異世界ストーリー 。
主人公は可愛いです!
もふもふだってあります!!
語彙力は………………無いかもしれない…。
とにかく、異世界ファンタジー開幕です!
※不定期投稿です…本当に。
※誤字・脱字があればお知らせ下さい
(※印は鬱表現ありです)
私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~
Ss侍
ファンタジー
"私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。
動けない、何もできない、そもそも身体がない。
自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。
ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。
それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!
まったく知らない世界に転生したようです
吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし?
まったく知らない世界に転生したようです。
何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?!
頼れるのは己のみ、みたいです……?
※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。
私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。
111話までは毎日更新。
それ以降は毎週金曜日20時に更新します。
カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう! 公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ
幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
アルファポリス様より書籍化!
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。
どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。
- カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました!
- アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました!
- この話はフィクションです。
ペット(老猫)と異世界転生
童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。
元チート大賢者の転生幼女物語
こずえ
ファンタジー
(※不定期更新なので、毎回忘れた頃に更新すると思います。)
とある孤児院で私は暮らしていた。
ある日、いつものように孤児院の畑に水を撒き、孤児院の中で掃除をしていた。
そして、そんないつも通りの日々を過ごすはずだった私は目が覚めると前世の記憶を思い出していた。
「あれ?私って…」
そんな前世で最強だった小さな少女の気ままな冒険のお話である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる