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第50話 カルラの過去(8)
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夕食後、私達は部屋で魔法について話しを交わしていた。
「そっか。イメージか。魔法ってすごいな」
「ふふ、私もそう思った。考えること同じね」
魔法を使うコツが掴めたことで、私達は周りが目を瞠るほどにメキメキ上達していった。
それ以来どこで聞きつけたのか、時々神殿長や第二王子が様子を見に来るようになった。
その視線は相変わらず気味が悪い。
二人は遠くで何か会話しているが、碌な話しではないだろう。
あの時もっと気をつけていればと後悔することになるとは、その時の私達は知る由もなかった。
異世界に召喚されて早半年が過ぎた。
その間も鍛練は続いた。
魔獣討伐にも参加したが、命を奪うことに抵抗はあったが、私も夫も割り切るようにした。
いつものように鍛練をしていたある日、神殿長に応接室に来るようにと神官が迎えに来た。
神殿長は私達の姿を見るなり告げた。
「一週間後、魔王討伐に向かって頂きます」
当然のようなその態度に怒りがこみ上げる。
怒りを抑えて冷静に話そうと深呼吸した。
「鍛練してまだ半年しか経ってないのですが、もう魔王討伐に行くのですか?一緒に行くメンバーは決まっているのでしょうか?」
「この半年、勇者様と聖女様が鍛練を頑張っておられたことは存じております。実力も技術も申し分ないと、ミュラーとギルバートから報告を受けています。ですので、魔王討伐に行っても問題はないと判断いたしました。メンバーは既に決まっています。お二人には明日お会いして頂く予定です」
「 「……」 」
最初から私達の意思はどうでもいいのだろう。
今更どうこう言っても始まらない。
「もう決定事項なのですよね。分かりました。お話しはそれだけですか?ないようでしたら下がっても構いませんか?」
イラッとした私は我慢出来ず強い口調になった。
神殿長の片方の眉がピクリと上がったが、すぐにいつもの表情に戻る。
「ええ、今日も鍛練でお疲れでしょうから、ゆっくり体を休めてください。ご足労いただきありがとうございました」
「はい。失礼します」
応接室の扉が完全に閉まるまで、神殿長は私達から目を離さなかった。
その瞳には苛立ちが垣間見えた。
部屋に入ると夫が私の手を引いて寝室へと急いだ。
寝室の扉を後ろ手で閉めると、肩に手を置いて顔を近づけてきた。
「英子。お前気をつけろ。確かにアイツの物言いは気に入らないが、今は我慢だ。アイツを刺激するな。分かったな?」
周囲を気にして小声でそう忠告した。
夫の言葉にハッとして己の気の短さに反省する。
ここは異世界だから日本の常識は通用しない。
平民が貴族しかも高位貴族に盾突くなんて有り得ないのだ。
そのことを騎士団長から聞いた時は、信じられない思いだった。
「……そうね。ごめんなさい。気をつける」
「分かってくれたならそれでいい。アイツは信用出来ない。この半年、剣と魔法と魔王討伐の話ししかしないし、関わる人間も限られている。何か企んでいるはずだ。英子。気をつけよう」
「うん」
私達の不安は募るばかりだったが、明日に備えて早目に休むことにした。
「そっか。イメージか。魔法ってすごいな」
「ふふ、私もそう思った。考えること同じね」
魔法を使うコツが掴めたことで、私達は周りが目を瞠るほどにメキメキ上達していった。
それ以来どこで聞きつけたのか、時々神殿長や第二王子が様子を見に来るようになった。
その視線は相変わらず気味が悪い。
二人は遠くで何か会話しているが、碌な話しではないだろう。
あの時もっと気をつけていればと後悔することになるとは、その時の私達は知る由もなかった。
異世界に召喚されて早半年が過ぎた。
その間も鍛練は続いた。
魔獣討伐にも参加したが、命を奪うことに抵抗はあったが、私も夫も割り切るようにした。
いつものように鍛練をしていたある日、神殿長に応接室に来るようにと神官が迎えに来た。
神殿長は私達の姿を見るなり告げた。
「一週間後、魔王討伐に向かって頂きます」
当然のようなその態度に怒りがこみ上げる。
怒りを抑えて冷静に話そうと深呼吸した。
「鍛練してまだ半年しか経ってないのですが、もう魔王討伐に行くのですか?一緒に行くメンバーは決まっているのでしょうか?」
「この半年、勇者様と聖女様が鍛練を頑張っておられたことは存じております。実力も技術も申し分ないと、ミュラーとギルバートから報告を受けています。ですので、魔王討伐に行っても問題はないと判断いたしました。メンバーは既に決まっています。お二人には明日お会いして頂く予定です」
「 「……」 」
最初から私達の意思はどうでもいいのだろう。
今更どうこう言っても始まらない。
「もう決定事項なのですよね。分かりました。お話しはそれだけですか?ないようでしたら下がっても構いませんか?」
イラッとした私は我慢出来ず強い口調になった。
神殿長の片方の眉がピクリと上がったが、すぐにいつもの表情に戻る。
「ええ、今日も鍛練でお疲れでしょうから、ゆっくり体を休めてください。ご足労いただきありがとうございました」
「はい。失礼します」
応接室の扉が完全に閉まるまで、神殿長は私達から目を離さなかった。
その瞳には苛立ちが垣間見えた。
部屋に入ると夫が私の手を引いて寝室へと急いだ。
寝室の扉を後ろ手で閉めると、肩に手を置いて顔を近づけてきた。
「英子。お前気をつけろ。確かにアイツの物言いは気に入らないが、今は我慢だ。アイツを刺激するな。分かったな?」
周囲を気にして小声でそう忠告した。
夫の言葉にハッとして己の気の短さに反省する。
ここは異世界だから日本の常識は通用しない。
平民が貴族しかも高位貴族に盾突くなんて有り得ないのだ。
そのことを騎士団長から聞いた時は、信じられない思いだった。
「……そうね。ごめんなさい。気をつける」
「分かってくれたならそれでいい。アイツは信用出来ない。この半年、剣と魔法と魔王討伐の話ししかしないし、関わる人間も限られている。何か企んでいるはずだ。英子。気をつけよう」
「うん」
私達の不安は募るばかりだったが、明日に備えて早目に休むことにした。
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