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第51話 カルラの過去(9)
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魔王討伐メンバーは全員で七人。
決して多いとはいえない人数に不安が募る。
何故か第二王子がメンバーの一人に加わっていたことも気がかりだ。
あまり関わらないようにしながら、魔王討伐に向けて着々と準備を進め出立の日を迎えた。
私達の旅立ちはとても静かだった。
というのも、見送りの人間がほとんどいなかったからだ。
娘が話していた小説の内容と違う気がするが、小説と現実は必ずしも同じ訳ではないと自分に言い聞かせることで 気持ちを落ち着かせた。
魔獣を倒しながらの旅は、慣れていない私達にはきつく辛い旅だった。
お互いに助け合い支えあって、三年に渡る旅が終わろうとしていた。
「長かったな。俺達も随分と逞しくなった。ようやくここまで辿り着いた。あと少しだ。頑張ろう」
日に焼けてすっかり逞しくなった夫が励ます。
魔王城が眼前に迫り体が震えだした私を気遣っての言葉だった。
「ええ、そうね。早く倒してしまいましょう」
気丈に返したが、禍々しい気配は強くなる。
後方に控えていた騎士団長が駆け寄って来た。
「勇者様。聖女様。我々がついています。魔王討伐は必ず成し遂げられます。参りましょう!」
騎士団長は誠実な人物で、私も夫も彼だけは信用していた。
彼の力強い言葉に、萎みかけていた気持ちが奮い立つ。
実際、騎士団長は強かった。
魔術師団長の補助をほとんど必要としなかった。
魔王は鹿のような角に光りのない暗い瞳で首から下は人間と似ていたが、知能はそこまで高くなかった。
だが、圧倒的な魔力量と体力に私はくじけそうになる。
夫と騎士団長の連携で隙をつくり、じわじわと相手を追い詰める。
最後は、夫と二人で神聖魔法を使い浄化することで魔王は倒された。
もっと長丁場になると思っていたが、意外とあっけなかった。
魔王を倒したことで周囲の瘴気も消えて、空気が澄んだのが分かる。
ようやく皆に安堵の表情が戻った。
帰りの道中はこれまでにないほど盛り上がり、今まで殆ど話しに混じって来なかった第二王子まで会話に加わっていた。
「さすが勇者殿。素晴らしい!やはり我々とは次元が違う。そうは思わないか、ギルバート」
「はい。魔法と剣術は既に私を超えてもう教えることはありません。立派に成長されました」
この旅に出て珍しく騎士団長は笑みを浮かべた。
皆、珍しい物でも見たという顔をして騎士団長に声を掛けた。
「アイツが笑ったのはいつぶりだ?明日は嵐になるんじゃないか?」
そう呟いたのは魔術師団長のミュラーだ。
その言葉に皆が一斉に笑った。
私達もつられて笑っていた。
ずっと旅を続けていたせいで、気の休まる日はなかった。
緊張の糸がプツリと切れた瞬間だった。
私達はすっかり油断していた。
信用出来る人間が少なすぎることと、情報の足りなさに自分達の置かれている状況を把握出来ていなかった。
そのことをすぐ後悔することになるとは思ってもみなかった。
決して多いとはいえない人数に不安が募る。
何故か第二王子がメンバーの一人に加わっていたことも気がかりだ。
あまり関わらないようにしながら、魔王討伐に向けて着々と準備を進め出立の日を迎えた。
私達の旅立ちはとても静かだった。
というのも、見送りの人間がほとんどいなかったからだ。
娘が話していた小説の内容と違う気がするが、小説と現実は必ずしも同じ訳ではないと自分に言い聞かせることで 気持ちを落ち着かせた。
魔獣を倒しながらの旅は、慣れていない私達にはきつく辛い旅だった。
お互いに助け合い支えあって、三年に渡る旅が終わろうとしていた。
「長かったな。俺達も随分と逞しくなった。ようやくここまで辿り着いた。あと少しだ。頑張ろう」
日に焼けてすっかり逞しくなった夫が励ます。
魔王城が眼前に迫り体が震えだした私を気遣っての言葉だった。
「ええ、そうね。早く倒してしまいましょう」
気丈に返したが、禍々しい気配は強くなる。
後方に控えていた騎士団長が駆け寄って来た。
「勇者様。聖女様。我々がついています。魔王討伐は必ず成し遂げられます。参りましょう!」
騎士団長は誠実な人物で、私も夫も彼だけは信用していた。
彼の力強い言葉に、萎みかけていた気持ちが奮い立つ。
実際、騎士団長は強かった。
魔術師団長の補助をほとんど必要としなかった。
魔王は鹿のような角に光りのない暗い瞳で首から下は人間と似ていたが、知能はそこまで高くなかった。
だが、圧倒的な魔力量と体力に私はくじけそうになる。
夫と騎士団長の連携で隙をつくり、じわじわと相手を追い詰める。
最後は、夫と二人で神聖魔法を使い浄化することで魔王は倒された。
もっと長丁場になると思っていたが、意外とあっけなかった。
魔王を倒したことで周囲の瘴気も消えて、空気が澄んだのが分かる。
ようやく皆に安堵の表情が戻った。
帰りの道中はこれまでにないほど盛り上がり、今まで殆ど話しに混じって来なかった第二王子まで会話に加わっていた。
「さすが勇者殿。素晴らしい!やはり我々とは次元が違う。そうは思わないか、ギルバート」
「はい。魔法と剣術は既に私を超えてもう教えることはありません。立派に成長されました」
この旅に出て珍しく騎士団長は笑みを浮かべた。
皆、珍しい物でも見たという顔をして騎士団長に声を掛けた。
「アイツが笑ったのはいつぶりだ?明日は嵐になるんじゃないか?」
そう呟いたのは魔術師団長のミュラーだ。
その言葉に皆が一斉に笑った。
私達もつられて笑っていた。
ずっと旅を続けていたせいで、気の休まる日はなかった。
緊張の糸がプツリと切れた瞬間だった。
私達はすっかり油断していた。
信用出来る人間が少なすぎることと、情報の足りなさに自分達の置かれている状況を把握出来ていなかった。
そのことをすぐ後悔することになるとは思ってもみなかった。
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