171 / 256
吸血鬼殲滅戦・序
第158話 吸血鬼殲滅戦・序『手取川の戦い』
しおりを挟む荒れる川の流れの中を、かき分けるようにオオムカデ爺やが進む。
ようやくケルラウグ川の川岸が見え、岸へ上がった。
オオムカデ爺やは魔力を使い果たした様子で、岸に上がるなりすぐさま倒れて動かなくなってしまった。
やはり相克のフィールドエリアを進んだことで相当の消耗をしたようだ。
「よくやった! 爺や! ちょっと休んでいろっ!」
「は……、はいですぅ……。」
ムカデ爺やから降りたオレたちは、川を振り返るが、ゴウゴウと流れるその勢いに、引き返すことはもうできないと改めて認識させられた。
中洲にそびえ建つ『人ごろし城』をいったんやり過ごし、このまま、川沿いに北に進むのだ。
だが、『人ごろし城』から追っ手がかかったりすることを警戒し、ちょっと森の中に入り、姿が見られないようにして北上する。
それにしても天候がこんなに悪くなってくるとは予想外だった。
そういえば、天候を操る魔法というのもあるらしい……。
まさか、この悪天候も魔法でおこした現象なのか?
いや……。オレたちは闇に紛れ、川を渡った。
敵に気づかれているわけはない。
「このまま、80ラケシスマイル(100km)ほど北に行けば、『ジュラシック・シティ』です。」
「そこまで歩いていくか……。」
「うむ。移動術を使おう。」
「移動術……ですか?」
「ああ。ミナ! 頼む。」
「はい。ヘルシングさん。」
ミナさんが呪文を唱える。
「レベル3強化魔法『きたえる足』よ!」
『大空晴れて深みどり、心はひとつ、日はうらら、足並みそろえ、ぐんぐん歩け、みんな元気できたえる足だ!!』
すると、オレたちの足が軽くなって、勢いよく速く走れるようになった!
なるほど、身体強化の魔法っていうわけだ。
足だけでなく、それに合わせた全身の筋肉なども強化されているから、バランスが取れなくなるってこともなかった。
森林の中を走るオレたち。
森林の奥はなにか不気味な雰囲気だ。
この森の名は『メメント森』という。
『メメントモリ』は、ラテン語で「自分が(いつか)必ず死ぬことを忘れるな」、「死を忘るなかれ」という意味の警句だったっけ……。
その意味の通り、『死』と隣合わせなんだろうか、恐ろしい魔獣の鳴き声が時折聞こえてくる。
なるべく、魔物と出会いたくない。
今は、一刻も早く『ジュラシック・シティ』に到着することが先決なのだ。
(マスター! 少し様子がおかしいです。)
(どうした? アイ!?)
(はい。この周囲20ラケシスマイル(周囲32km)の魔物たちの姿が見えません。)
(それって……、いいことじゃあないの?)
(いえ。まったく見当たらないのです。これは違和感しかありません。)
(なるほど。そう言われるとそうだな。じゃあ、索敵範囲を広げてくれ。)
(イエス! マスター!)
「ヘルシングさん! ジンさん! もうすぐ『ジュラシック・シティ』が見えてくるはずです!」
ジョナサンさんがそう言って前方に向かって指を差した。
「マスター!! 背後60ラケシスマイル(約100km)に敵の影を発見致しました!」
「なにっ!? 数はどのくらいだ?」
「およそ……、8千です! 牛のような角を持った集団です。いかが致しますか?」
「ジン殿! 前に『ジュラシック・シティ』が見えたぞ! ん……!? あれはなんだ!?」
一気に情報が多い!
しょうがないんだけど……。
前が開けた場所に巨大な街が見えた。
「おおっ! すごい!」
「ああ……。ジン殿は『ジュラシック・シティ』は初めてか? あの高層居住地に緑の樹木と共存する生活スタイルなのが、ディノエルフ種だ。」
ヘルシングさんが説明してくれた通り、高層ビルに樹木がいっぱい生えてる不思議な風景のような街だ。
元のオレの世界で、建築家のステファノ・ボエリ氏のデザインマンションのようだ。
ミラノの「垂直の森」とかそんな感じなんだ。
「あっ! そうだ! ヘルシングさん。後方から追手がやってきてます!」
「なに……!? そうか!」
「やはり、気づかれてたか!?」
「そうね。おそらく『人ごろし城』からの敵でしょうね。」
「あ! あれ見てください! 街の門が開きます!」
「なにものか出てきます!」
街の門が開き、トカゲの大きくなったような種族が軍勢で出てきた。
その軍勢はみな一様に、鎧姿で盾と剣を持った竜人、リザードマンたちだった。
「あれはっ! 恐竜騎兵隊『ディノ・ドラグーン』っっ!?」
「え!? 『ディノ・ドラグーン』って!?」
「ああ。『ジュラシック・シティ』の防衛軍だよ。別名『狂竜隊(マッド・ドラグーン)』とも言われている。」
「じゃあ、『ジュラシック・シティ』からの援軍ですか!?」
「いや……。援軍とは限らない……。」
「どうして……?」
「マスター! それは……。彼らが援軍であれば、誰を敵と認識しているのでしょう?」
「アイ? そりゃあ、青ひげ男爵に決まってるじゃあないか?」
「ええ。そうであれば、なぜ青ひげ男爵の存在をすでに知っているのか? それと、我々が青ひげ男爵と敵対していることをなぜわかっているのか? ……という疑問が湧きます。」
たしかにそうだ……。
オレたちは『人ごろし城』に気づかれずにここにやってきたと思っていたが、追っ手がかかっているというところを考えると川を渡ったことがバレていたと考えるべきだ。
そして、オレたちが北上し、『ジュラシック・シティ』にやってきたまさにこのタイミングで、その『ジュラシック・シティ』から軍隊が出されて、こちらに迫ってきている……。
……となると?
(ええ。マスター。『ジュラシック・シティ』は敵と通じております。あるいは、すでに敵の手に落とされたか……?)
(そ……そんな……!? もしそうなら非常にやばくないか?)
(イエス! マスター。かなり危険な状況です。前方と背後を敵に挟まれている状況。つまり挟み撃ち……でございます。)
それって、絶体絶命じゃあないか?
あぁ……! なんだか戦国時代の戦でこういうの読んだことがあったぞ……。
たしか……。
上杉謙信と織田信長の戦いだったっけ……。
『手取川(てどりがわ)の戦い』だ。加賀国の手取川において上杉謙信軍が織田信長軍を撃破したとされる合戦のことだ。
織田軍の柴田勝家は、全軍が手取川を越えたところで、助けに行くはずの七尾城の落城と、上杉謙信の松任城入場を知り、即座に退却を指示したのだけど、そこを、上杉謙信が自ら2万の兵を率いて、松任城から討って出て、柴田勝家がボロボロになって敗走したという有名な合戦だ。
川を渡ろうとすれば流されて溺死し、川を渡るのを拒めば上杉勢に討たれると言う状況で、織田勢は敗戦したのだ。
ヤバい!
オレたちもまさに今その状況じゃあないか!?
しかも前後を挟撃されている!
「ヘルシングさん! 挟撃を受けています! 前方と背後! おそらく『ジュラシック・シティ』は吸血鬼の手に落ちています!」
「やはり……。そうか! ジン殿もそう思うか!?」
「ええ! タイミングが良すぎる!」
「あの前方の『恐竜騎兵隊』の先頭の者……。あの者は間違いなく吸血鬼でも手練れだろうなぁ……。」
ヘルシングさんが指差したその先頭の者は荒くれたパンクロッカーのような格好をした恐竜というのがふさわしいヤツだった。
そいつが叫び声をあげたのだ。
「我こそは恐竜騎兵隊『ディノ・ドラグーン』、凶暴種『十の災い』が壱の竜シアッツである! 貴様らのことは聞いている! いざ尋常に勝負!」
すると、『ディノ・ドラグーン』達が、雄叫びをあげて勢いを増して、オレたちの方へ迫ってくる!
間違いない。
『ジュラシック・シティ』はすでに吸血鬼どもの手に落ちていた。
そして、オレたちはとてつもないピンチに陥ったということだったー。
~続く~
©「きたえる足」(作詞:片桐 顕智/作曲:成田 為三)
※『手取川の戦い』について
記録が少なく実像が不明確なことから、その帰趨(上杉軍大勝)や規模については議論があるとのことです。
『信長公記』には「柴田勝家等の出陣の記述及び羽柴秀吉の戦線離脱」の記述はあるものの合戦の記述はなく、『長家家譜』(長家)では「七尾城への援軍として織田勢4万が出陣したが、落城の報に接し、秀吉は戦わずして帰陣した」ことが記述されているのみに過ぎないとのこと。
本作では、フィクションですので上杉謙信が鬼神の如き強さを示した今までのイメージの『手取川の戦い』を採用しております。
以下は、参考までに、中公新書の『織田信長合戦全録』(谷口克弘著)からの引用です。
〈『信長公記』は、天正三年にあたる巻八以降は、完璧に近いほど正確な記事を載せており、大きな事件を漏らすこともない。たとえ地方で起こった事件にしろ、きちんと記録するのが作者太田牛一の真骨頂といえる。その『信長公記』に載せられていないばかりでなく、北陸を舞台にした軍記物にもほとんど記載がないのだから、この手取川の戦いは、それほど目立った戦いではなかったと判断したほうがよいだろう。
〈上杉軍の追撃の前に、織田軍が敗走したことだけは確かであろう。そして上杉謙信の勝因は、その戦闘力よりも加賀の一向一揆を味方にしたというところにあるだろう。そのため織田軍は、最後まで上杉軍の動きが見えなかったのである。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。
この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。
ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。
少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。
更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。
そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。
少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。
どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。
少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。
冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。
すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く…
果たして、その可能性とは⁉
HOTランキングは、最高は2位でした。
皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.
でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる

