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吸血鬼殲滅戦・序

第157話 吸血鬼殲滅戦・序『激流の渡河』

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 スケルトンの軍が絶え間なく川から上がってくる。

 『人ごろし城』を仰ぎ見ると、城の窓から何者かがこちらを見ている。


 「アイ! あれは!?」

 「おそらく青ひげ男爵……でしょう。推定確率98.7%です。」

 「目がいいな。ジン殿。たしかにあそこの窓に人影が見えるな。」





 「とにかく、いったん、下がるぞ! アイ殿の提案された作戦を取るにしても、この昼間では身動きができん!」

 「あちら側からも丸見えですから、夜まで待ちましょう!」

 「ジョナサン! 下がって!」



 ミナさんが、空中に飛び、その剣を大きく螺旋状に回転させ、周囲のコウモリやスケルトンどもを吹き飛ばした!


 「剣の型・ホーリートゥリー!!」



 そして、地面に着地し、オレたちのほうへ走ってくる。

 オレたちもそれと合わせ、森の中に逃げ込む。



 「聖なる結界の剣・『サン・マリノ』っ!!」

 ヘルシングさんが逃げるオレたちの背後に周囲一帯にぐるりと弧を描く剣閃を飛ばした。



 斬撃がまるで光の壁を生み出したかのように、地面を切り裂き、そこから上空へ向かって光が差している。

 追ってきたスケルトンや吸血コウモリたちはその光の壁に触れた瞬間、蒸発するように切り刻まれ、消え去った。


 「っぎゃ!」

 「ゴォオオ……!」

 「ぴぎゃっ!」



 短い断末魔を叫びながら、無数のコウモリとスケルトンがやられ、さすがにこの光の結界が危ないと理解したのか、コウモリたちは引き下がっていった。

 オレたちはその間にも距離を取り、森の中で警戒をしながら様子を見る。


 「なんとか、しのげたってところですね。」

 「だが、このままでは『人ごろし城』を攻めるどころか、逆に動けないな。」

 「敵は数に物を言わせてきてますからね……。」

 「やはり、アイさんの提案のあった通り、いったん引くか、それとも向こう岸に渡って『ジュラシック・シティ』とチカラを合わせるか……じゃないかしら?」



 「ところで、その『ジュラシック・シティ』は戦力的に頼れる存在なのですか?」

 ここで、アイが当然の疑問を呈した。


 「そうだな。オレの知ってるところで言うと、『ジュラシック・シティ』の統治者タイラント・ティラノってお人は、君主的には暴君の噂が絶えないが、軍事力では頼りになるのはな違いないだろうな。」

 「あ! 僕も聞いたことありますね。暴君って言うより、その配下の軍隊の将軍たちが、ディノサウロイド凶暴種『十の災い』って呼ばれるほど凶暴で強大らしいですね。」

 「まあ、そういう噂は聞くわね。だけど、今回はさすがに『不死国』の吸血鬼どもが相手ですからね。協力は得られると思うわ。」

 「もちろん、『ジュラシック・シティ』もこんなケルラウグ川の真ん中に敵の城が築かれたのだ。背後から『不死国』に攻め込まれでもしたら、挟み撃ちになる。さすがにそれは避けたいだろうしな……。」

 「ちょっと城主にひとクセありそうですけど、逆に『ジュラシック・シティ』が陥落させられたら、『エルフ国』も危機になりますよね……。」



 やはり、『ジュラシック・シティ』がヤツラに攻め落とされる前に、ディノエルフ種族と共闘して『人ごろし城』の青ひげ男爵を討つしかないな。

 「爺や! すまないが、オレたちをあの川の向こう岸に運んでくれるか!?」



 「ジン様はそう言うと思っておったわい。もちろん、任せろじゃ!」

 「爺や……。頼んだぞ!」

 「爺や。よく言いました。マスターのお役に立ちなさい!」

 「じゃあ、夜になったら、闇に乗じて川を渡るぞ!」

 「はい! ヘルシングさん!」




 夜がやってきたー。


 オレたちは少し北方から回り込むようにそっと、ケルラウグ川の川岸に出た。

 月の光に『人ごろし城』がそびえ立つように輝いて見える。



 気付かれないようにアイの超ナノテクマシンで、隠形モードで、可視光線を歪めてカモフラージュしているためか、敵は襲ってこない。

 このまま、オオムカデ爺やに乗って、川を一気に渡ってしまう。

 そして、すかさず北上し、『ジュラシック・シティ』に救援を求めに行くんだ。



 「さぁ! わしの背に乗ってくれぃ!」

 「ああ! じゃあ、頼んだぞ!」


 オオムカデ爺やに乗ったオレたちは、アイの超ナノテクマシンの防御により、激流の中でもまったく問題なく呼吸ができ、進むことができた。

 水分子を水素と酸素に分解して呼吸可能にする水分解呼吸補助だ。

 「なんだ!? 息ができる!」

 「これもジン殿の『技』か……?」

 「この超魔技術……、もはや英雄智を越えているな。」



 激流が渦巻くように流れるケルラウグ川を、オオムカデ爺やは魔力推進で進んでいく。

 元来、砂漠に棲んでいるオオムカデは、こういう水中を進むのは多大に魔力を消費する。

 エリア外というやつだ。

 火炎系の魔物が氷山地帯でチカラが弱まったり、氷系の魔物が火山地帯でチカラが出なかったり、また、森林に棲む魔物が砂漠地帯でチカラを奪われるように、砂漠地帯の魔物であるオオムカデにとって、水の中は相克関係にあると言っていい。



 しかし、爺やはそれをわかっていながら、進んで申し出てくれたのだ。

 爺やに感謝しながら、川の半分を越えたところで、周囲に初めて目を配ることができたのだけど、オレたちがここに来たときには川底から、骸骨戦士どもがうじゃうじゃと這い上がってきたが、あれは城の南側だけに配置していたのだろうか?

 城の北側のこちら側の川底にはあの骸骨どもの姿は見えなかった。

 まあ、もし途中で襲いかかってこようとしても、この急流の中、川底の地面から浮いた瞬間に下流に流されるのがオチだとは思うけどね。



 水上に何度か上がった瞬間に、『人ごろし城』のほうを注意深く見てみたが、窓にはなんの人影も見えなかった。

 高く尖った塔の先に鳥が止まっているのが見えただけだ。

 このまま、見つからずに進めるといいけど……。

 川の向こう岸が見えてきた!



 ****




 『人ごろし城』の中ではー。

 玉座の間に悠然と座しているのはこの城の主、青ひげ男爵である。

 その傍らに控えているのは、魔術師の老婆シルヴィア・ガーナッシュだ。

 青ひげ男爵の前に平伏しているのは、強盗団の頭ラバー・ブライドグルームだ。

 この『人ごろし城』に婿養子に来たのだ。



 「ふむ……。で、貴様はこの男爵に永遠に仕えたい……というわけだな?」

 「へい。あなた様に忠誠を誓う! 俺の部下はすべて差し出した! 命だけは助けてくれ!」


 青ひげ男爵は老婆と目を合わせ、老婆が頷いた。



 「良かろう……。近くへ寄るがいい……。」

 「は! ありがたき幸せ!」


 青ひげ男爵はその牙を男の首に突き立て、血をすすった。

 男の眼が赤く色が変わっていく……。



 「下がっていいぞ。ラバーよ。」

 「イエッサー!」


 ラバーが立ち去っていく。

 青ひげ男爵はその口に血を垂らしながら、老婆に問いかける。



 「して、ヤツラは渡ったのか……? 川を……。」

 「ええ。今、鳥の花嫁フィッチャーから伝令の『鳩』が飛んでまいりましたのじゃ。」

 「そうか……。怪牛ストーンカはすでに解き放ってあろうな?」

 「もちろんですじゃ。」



 「ふふふ……。この男爵の策にまんまと嵌まったとは思うまい。」

 「ええ。我が『ラグナグ王国』の第五軍・空軍がすでに動いておりますわい。わしらも我が第三軍・軍隊長エリザベート様とつなぎをつけておりますのじゃ。もはや、このメメント森だけでなく、『エルフ国』の都市も着々と落ちていくでしょうな。」

 「ふははは……。面白い! そうなると、もっとこの男爵にふさわしい嫁を堂々と探せるわ!」

 「ですじゃ。」




 こんな怪しい会話が行われているとは、その時はまったく知らず、オレたちはケルラウグ川を渡りきろうとしていたのだったー。



~続く~

©「鳩」(曲/文部省 詞/文部省)



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