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第5章 交わり始める思惑
第56話 ヒーロー・イズ・ヘルシー
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俺はガルペラ侯爵邸を出た後、センビレッジの街中をブラついていた。
これまで貴族がらみでの嫌な思い出ばかりだったのであまり街中を歩かないようにしていたが、この街の発展具合は相当なものだ。
「おう! そこの旦那! 一つ買って行かねえかい?」
露店の店主が声をかける。売っているのはこの国にはない異国の食べ物だ。"タコヤキ"と言うらしい。
「うまそうだな。一つくれ」
「あいよ! タコヤキ八個入、一丁!」
俺は買ったタコヤキを食べてみた。
こんがりと焼きあがった生地から熱いとろみのある中身が口の中であふれだす。さらにその奥には弾力のある噛み応えがある何かが入っている。
「これは……タコか」
他のタコヤキの中身を覗いてみると中から刻んだタコの足が出てきた。
タコをこの生地で包んで焼いた食べ物。だから"タコヤキ"か。
「うむ、うまい。ソースとマヨネーズもよく合う」
俺がタコヤキに舌鼓を打ちながら再び街を歩いていると……
「キャー! 誰か助けてー!」
近くから女の悲鳴が聞こえた。
俺もガルペラの元で働いている以上、見て見ぬふりをするわけにはいくまい。
俺はタコヤキを頬張りながら悲鳴の元へと向かって行った。
■
「ぐへへへ~! この女にこの脂身たっぷのステーキを無理矢理食わせてやるぜ~!」
「やめろー! 妻はダイエット中なんだ! そんなものを食べたらまた太ってしまうー!」
「いやー! あなた助けてー! また太るのやだー!」
……なんだこの光景?
嫌がる女に変な仮装をした男が無理矢理ステーキを食べさせようとしている。
何を言っているのか分からねえが、俺にも何が起こってるのかよく分からねえ。
ただ、ものすごくバカバカしいものの片鱗を見た。
「あー! このままでは妻がまた太ってしまう! 誰かー!」
嫌がる女の夫と思われる男が助けを呼ぶ。
周囲の人々は助けるのを躊躇している。
そりゃそうだろうよ。そもそも襲われてるのか、これ?
でも一応は嫌がってるみたいだし、助けたほうがいいのか?
「そこまでだ! そのご婦人にムリヤリステーキするのはやめたまえ!」
俺が助けようか考えていると、どこからともなく声がした。
てか、『ムリヤリステーキする』ってなんだ? 動詞か?
「とぉう!」
突如空から人の影が降りてきた。空中でクルリと回転しながら鮮やかに着地。
そこには緑色の全身タイツに風になびくマフラー。そして口以外の顔を覆いつくす緑色のヘルメットを装着した男が立っていた。
「ヘンショッカー! 今日こそお前の悪事は終わりだ! ビー・ヘルシー!」
「来たな! キャプテン・サラダバー! こっちこそ貴様との因縁を終わりにしてやる!」
そう言って突如現れた全身タイツの男……もとい、キャプテン・サラダバーと女にムリヤリステーキしようとしていた仮装の男……もとい、ヘンショッカーが戦い始めた。
「必殺! ベジタブルパーンチ! ベジタブルキーック!」
「ぐ、ぐはー! おのれ、キャプテン・サラダバーめ! やりおるわ!」
どうやらヘンショッカーの方が押されているようだ。
キャプテン・サラダバーは逐一変な技名と変なポージングが入るが、実力自体は確かなようだ。
「おおお! なんだかよく分からないけどカッケー!」
「いいぞー! キャプテン・サラダバー!」
いつの間にやらギャラリーは大盛り上がりだ。特に子供たちからの声援がすごい。
このままキャプテン・サラダバーが押し切るかと思ったが――
「ぐぅ!? 野菜が足りなくて、力が出ない……! ノット・ヘルシー!」
「ぐへへへ~! 残念だったな~、キャプテン・サラダバー!」
急にキャ……もう長いからサラダバーでいいや。
サラダバーが体から力が抜けたように膝をついた。
「くそ! せめて野菜があれば……! そうだ! そこの白髪でタコヤキを頬張ってる御仁!」
「え? 俺のことか?」
サラダバーからの急な俺へのご指名である。
「そこの屋台にある野菜をなんでもいいからこちらに投げてくれ!」
「いや、これって商品だから急に投げろって言われても……」
「大丈夫です! ささ、これをどうぞ!」
そう言って屋台の店員が俺にニンジンを手渡した。準備いいな。
「と、とりあえず受け取れ!」
ポイッ ガシッ!
「ありがとう! タコヤキの御仁!」
せめて"白髪の御仁"と呼んでくれ。
俺から受け取ったニンジンにサラダバーが噛り付く。
「ん~~~……! グッド・ヘルシー!!」
ボウン!
サラダバーの雄たけびと共にサラダバーの背後から緑の爆炎が巻き起こる。
え? 何が起こってるんだ?
「サラダチャージ完了……! こうなった私はもぎたてトマトのように甘くはないぞ!」
妙な例えだな。
「お、おのれ~! 調子に乗るな~!」
「超必殺! <キャロット・サマーソルト>!!」
サラダバーのサマーソルトキックが見事に決まり、ヘンショッカーは倒れた。
「くそ~! 覚えてろよ、キャプテン・サラダバー!」
負け台詞を吐きながらヘンショッカーは逃げていった。
「正義は勝つ! ワーハハハハハ!」
「スゲー! 俺もキャプテン・サラダバーみたいに強くなりてー!」
「ならば野菜を食べることだ! 好き嫌いをしないことこそが強さの秘訣さ!」
「うん! 僕たち頑張って野菜を食べるよ!」
ヘンショッカーを倒したサラダバーは大人気だ。主に子供たちに。
「では、諸君! また会おう! サラバダー!」
そう言ってサラバダー……間違えた、サラダバーは颯爽と走り抜けていった。
結局何だったんだ? いや、何事もなかったのならそれでいいんだが。
……でもちょっと気になるな。俺はサラダバーの後を追うことにした。
これまで貴族がらみでの嫌な思い出ばかりだったのであまり街中を歩かないようにしていたが、この街の発展具合は相当なものだ。
「おう! そこの旦那! 一つ買って行かねえかい?」
露店の店主が声をかける。売っているのはこの国にはない異国の食べ物だ。"タコヤキ"と言うらしい。
「うまそうだな。一つくれ」
「あいよ! タコヤキ八個入、一丁!」
俺は買ったタコヤキを食べてみた。
こんがりと焼きあがった生地から熱いとろみのある中身が口の中であふれだす。さらにその奥には弾力のある噛み応えがある何かが入っている。
「これは……タコか」
他のタコヤキの中身を覗いてみると中から刻んだタコの足が出てきた。
タコをこの生地で包んで焼いた食べ物。だから"タコヤキ"か。
「うむ、うまい。ソースとマヨネーズもよく合う」
俺がタコヤキに舌鼓を打ちながら再び街を歩いていると……
「キャー! 誰か助けてー!」
近くから女の悲鳴が聞こえた。
俺もガルペラの元で働いている以上、見て見ぬふりをするわけにはいくまい。
俺はタコヤキを頬張りながら悲鳴の元へと向かって行った。
■
「ぐへへへ~! この女にこの脂身たっぷのステーキを無理矢理食わせてやるぜ~!」
「やめろー! 妻はダイエット中なんだ! そんなものを食べたらまた太ってしまうー!」
「いやー! あなた助けてー! また太るのやだー!」
……なんだこの光景?
嫌がる女に変な仮装をした男が無理矢理ステーキを食べさせようとしている。
何を言っているのか分からねえが、俺にも何が起こってるのかよく分からねえ。
ただ、ものすごくバカバカしいものの片鱗を見た。
「あー! このままでは妻がまた太ってしまう! 誰かー!」
嫌がる女の夫と思われる男が助けを呼ぶ。
周囲の人々は助けるのを躊躇している。
そりゃそうだろうよ。そもそも襲われてるのか、これ?
でも一応は嫌がってるみたいだし、助けたほうがいいのか?
「そこまでだ! そのご婦人にムリヤリステーキするのはやめたまえ!」
俺が助けようか考えていると、どこからともなく声がした。
てか、『ムリヤリステーキする』ってなんだ? 動詞か?
「とぉう!」
突如空から人の影が降りてきた。空中でクルリと回転しながら鮮やかに着地。
そこには緑色の全身タイツに風になびくマフラー。そして口以外の顔を覆いつくす緑色のヘルメットを装着した男が立っていた。
「ヘンショッカー! 今日こそお前の悪事は終わりだ! ビー・ヘルシー!」
「来たな! キャプテン・サラダバー! こっちこそ貴様との因縁を終わりにしてやる!」
そう言って突如現れた全身タイツの男……もとい、キャプテン・サラダバーと女にムリヤリステーキしようとしていた仮装の男……もとい、ヘンショッカーが戦い始めた。
「必殺! ベジタブルパーンチ! ベジタブルキーック!」
「ぐ、ぐはー! おのれ、キャプテン・サラダバーめ! やりおるわ!」
どうやらヘンショッカーの方が押されているようだ。
キャプテン・サラダバーは逐一変な技名と変なポージングが入るが、実力自体は確かなようだ。
「おおお! なんだかよく分からないけどカッケー!」
「いいぞー! キャプテン・サラダバー!」
いつの間にやらギャラリーは大盛り上がりだ。特に子供たちからの声援がすごい。
このままキャプテン・サラダバーが押し切るかと思ったが――
「ぐぅ!? 野菜が足りなくて、力が出ない……! ノット・ヘルシー!」
「ぐへへへ~! 残念だったな~、キャプテン・サラダバー!」
急にキャ……もう長いからサラダバーでいいや。
サラダバーが体から力が抜けたように膝をついた。
「くそ! せめて野菜があれば……! そうだ! そこの白髪でタコヤキを頬張ってる御仁!」
「え? 俺のことか?」
サラダバーからの急な俺へのご指名である。
「そこの屋台にある野菜をなんでもいいからこちらに投げてくれ!」
「いや、これって商品だから急に投げろって言われても……」
「大丈夫です! ささ、これをどうぞ!」
そう言って屋台の店員が俺にニンジンを手渡した。準備いいな。
「と、とりあえず受け取れ!」
ポイッ ガシッ!
「ありがとう! タコヤキの御仁!」
せめて"白髪の御仁"と呼んでくれ。
俺から受け取ったニンジンにサラダバーが噛り付く。
「ん~~~……! グッド・ヘルシー!!」
ボウン!
サラダバーの雄たけびと共にサラダバーの背後から緑の爆炎が巻き起こる。
え? 何が起こってるんだ?
「サラダチャージ完了……! こうなった私はもぎたてトマトのように甘くはないぞ!」
妙な例えだな。
「お、おのれ~! 調子に乗るな~!」
「超必殺! <キャロット・サマーソルト>!!」
サラダバーのサマーソルトキックが見事に決まり、ヘンショッカーは倒れた。
「くそ~! 覚えてろよ、キャプテン・サラダバー!」
負け台詞を吐きながらヘンショッカーは逃げていった。
「正義は勝つ! ワーハハハハハ!」
「スゲー! 俺もキャプテン・サラダバーみたいに強くなりてー!」
「ならば野菜を食べることだ! 好き嫌いをしないことこそが強さの秘訣さ!」
「うん! 僕たち頑張って野菜を食べるよ!」
ヘンショッカーを倒したサラダバーは大人気だ。主に子供たちに。
「では、諸君! また会おう! サラバダー!」
そう言ってサラバダー……間違えた、サラダバーは颯爽と走り抜けていった。
結局何だったんだ? いや、何事もなかったのならそれでいいんだが。
……でもちょっと気になるな。俺はサラダバーの後を追うことにした。
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