記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派

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第5章 交わり始める思惑

第57話 ヒーロー・オブ・ベジタブル

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「サラダバーさん、本日もお疲れ様です。これ、本日の出演料です」
「すいません。こっちの都合まで通してもらってるのに……」
「……やっぱりそういうことだったのか」

 サラダバーの後を追って俺が見たものは、サラダバーにお金を渡すヘンショッカーの姿であった。

「あ、あなたは先程のタコヤキの御仁!?」
「タコヤキのイメージから離れろ。俺の名前はゼロラだ。お前らグルだったんだな。それでさっきのはただの芝居だったと」
「な、なぜそこまで知って……!?」
「露骨すぎる」

 そう、こいつらのやり取りはあまりにも露骨に芝居がかっていた。サラダバーは無駄に見栄えがいいだけの派手な技ばかり使っていたし、ヘンショッカーにも攻撃は直撃していなかった。

「なんでこんなことしてるんだ?」
「実は私はこの辺りの商会長でして……」

 ヘンショッカーがつけていたマスクを外す。中身は普通のおじさんだった。

「僕はパサラダ村の者でして、商会長に商品の宣伝を手伝ってもらったんです……」

 サラダバーもヘルメットを外す。中身は普通の若者だった。

 聞くところによれば、若者が田舎にあるパサラダ村から持ってきた野菜を宣伝するために今回のショーを行ったらしい。ムリヤリステーキされそうになっていた女とその夫、俺に野菜を手渡した屋台の店員も、緑の爆炎も。全部仕込みだったらしい。

「元々はもっと簡素な感じで宣伝を計画していたのですが……」
「私が思い切って派手なショーにして宣伝しようとした結果、思いのほか大反響でして……」

 ショーを計画したのは商会長のようだ。若者も最初は乗り気ではなかったが、何度も繰り返しているうちに役にはまってしまい、パサラダ村の野菜もそこそこ売れるようになったわ、子供たちからの人気も出てきたわで引っ込みがつかなくなったらしい。

「売れるようになったとはいっても、まだまだなんですけどね……」
「パサラダ村の野菜は絶品です。味も栄養も抜群なのでこのまま売れ残るのは惜しいので、商会としてももっと売れるように努力したいのですが……」

 パサラダ野菜販売計画は前途多難のようだ。

「ショーに便乗して商会全体でグッズ販売してるので、出演料はお渡しできるのですが……」
「肝心の野菜の売れ行きが伸びなくて……」

 金になることには敏感だな、商会長。
 いっそショー路線に切り替えるというのは本末転倒なんだろうな。

「でもパサラダ村の野菜は本当にすごいんです!」
「そうですよ! パサラダ村の野菜と畑仕事があったからこそ、僕もあんな動きができるようになったんですから!」

 サラダバーのあの動きが野菜のおかげならすごいな。畑仕事で鍛えられた方が割合大きそうだけど。

「あ~……やっぱりこんな無名な僕が宣伝するんじゃ駄目なのかな~……」
「ガルペラ侯爵のようなお偉いさんが宣伝してくれたら効果てきめんなんだろうけど……」
「だったら本人に直接頼めばいいじゃねえか」

 むしろ何故そうしなかった。

「い、いや。簡単に言いますけど、ガルペラ侯爵って簡単にお会いできる人じゃないですからね?」
「商会長の私でさえお会いしたこともないようなお方ですよ?」
「いや、会えるだろ。俺もさっき会って来たばっかりだし」

 俺の話を聞いて若者と商会長の目が丸くなった。

「ガルペラ侯爵とお会いした!? ゼロラさん! あなた何者ですか!?」
「い、一応今日ガルペラに雇われたもんだが」
「ガルペラ侯爵を呼び捨て!? 雇われてるのになんで!?」

 あー。確かに普通は侯爵様を呼び捨てになんてしないよな。
 でもガルペラには会ってそうなもんだけどな。あいつ行動力あるし。

「まあ、俺も乗り掛かった舟だ。お前らのことをガルペラに紹介してやるよ」

 俺はガルペラ侯爵邸にこいつらを案内することにした。



「あの~、ゼロラさん? ガルペラ侯爵はどちらに?」
「目の前にいるのです!」
「いや、小さな女の子しかいないのですが?」
「私がガルペラ侯爵なのです!」

 ……この光景、デジャブだな。
 そういえば俺もガルペラに最初に会ったときはこんな反応だったな。
 ガルペラは見た目のせいで、絶望的なまでに威厳がない。

「そもそも私、この二人にはちゃんと仕事で会いに行ってるのですよ」
「そうなのか?」

 ガルペラ曰く、それは一ヶ月程前の話で――

〇 〇 〇

「お嬢ちゃんここに来るのは初めてだね。ほら、蒸したジャカイモあげるよ」
「わーい! ホクホクジャガイモおいしいのです! お兄さん、ありがとうなのです!」

「これは野菜のスムージーだよ。開発中の新商品だけど、特別にサービスしてあげるよ」
「スムージーもおいしいのです! 商会長さん、ありがとうなのです!」

〇 〇 〇

「――てな感じで、私も視察に訪れたことがあるのです」
「飲み食いしてるだけじゃねえか!」

 これじゃ侯爵様の視察だと思われなくても仕方ない。

「ど、どうか今までのご無礼をお許しください! ガルペラ侯爵様ー!」
「そうだ! 靴を舐めましょうか!? よし! 靴を舐めましょう!」
「大袈裟なのです……」

 ようやく目の前の少女がガルペラ侯爵だと認識した二人は土下座しながら謝罪した。
 ……この件についてはガルペラにも非がありそうな気がするのは俺だけか?

「ともかくパサラダ村の野菜を私に宣伝してほしいのですね。おいしいのは承知の上なのです。喜んで宣伝するのです」

 かくして"侯爵公認の野菜"という看板を掲げることを許されたパサラダ野菜販売計画は一歩前進するのであった。
 ガルペラも「こういった草の根活動が支持を集めるのです」と言って得るものはあったようだ。

 事態が落ち着いたので、俺も宿場村に帰ることにした。
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