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第17章 追憶の番人『公』
第239話 恨んでなんかいない
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「ミ、ミリア……? なぜここに……?」
「ラルフルに連れてきてもらったの……」
バクト公爵は普段見せたことがない驚きの表情でアタシを見つめてきた。
アタシがゼロラさんにバクト公爵のことをお願いした後、ラルフルが戻ってきた。
ラルフルに事情を説明すると、『自分が付いていますから、バクトさんに会いに行きましょう!』と言われ、アタシもここにやってきた。
アタシは知りたかった。
本当にこの人がアタシの父親なのかを――
「申し訳ございません、バクトさん。ですが、自分はお二人のためにもちゃんと話すべきだと思います……」
「よ、余計な真似を……!」
バクト公爵はラルフルを睨みつけるが、その体はゼロラさんと戦ったことによりボロボロだ。
「すまないな、ミリア。こいつを止めるために少々手荒な手段をとった」
「いえ、気にしないでください。こうでもしないとこの人は話なんて聞いてくれなかったでしょうから……」
ゼロラさんはアタシに謝ってくるが、バクト公爵が秘密を隠すためにゼロラさんに襲い掛かったのは想像に難くない。
近くで見ているシシバもそもそもアタシに事実を伝えようとしていた身だ。
バクト公爵の命令に背いてでも手を出さなかったため、バクト公爵自身が戦わざるを得なかったのだろう。
「ぐぅ……! おい、貴様ら……!」
「「はっ」」
バクト公爵は護衛二人に両肩から体を支えてもらい、この場を急いで去ろうとした。
「ま、待って――」
「黙れ! スタアラの小娘に、語る言葉などない! さっさとこの俺の前から……き、消え……」
『この俺の前から消えろ』。バクト公爵はアタシに対してそう言おうとした。
――でも、その言葉がバクト公爵自身の口から出てくることはなかった。
この人はアタシから離れることに戸惑っている――
「バクト公爵。少しだけお待ちください」
「お、おい!? 俺に何を――」
パァアア――
アタシの得意な回復魔法。バクト公爵の傷がどんどん塞がっていく。
この人がボロボロになったのは自業自得のようなものだけど、傷ついてるこの人を見てアタシは治さずにはいられなかった。
「……おい。……お前はこの俺に情けをかけるつもりか? それで俺が口を割ると――」
「『お前』……ですか。アンタはアタシのことは他の人のように『貴様』って呼ばないのね」
「…………」
アタシの指摘を聞いて、バクト公爵は黙り込んでしまった。
「お願い……教えて! アンタは……アンタはアタシの父親なの!?」
「…………」
アタシの質問にもバクト公爵は答えなかった。
ただ黙って俯くだけ。
アタシにはその答えが欲しいのに――
「――おい、ミリア。お前は今幸せか?」
「え……?」
黙り続けていたバクト公爵の口から出てきたのは、アタシに対する質問だった。
「……幸せよ」
アタシは正直な気持ちを答える。
スタアラ魔法聖堂の聖女という立場であり、政治の道具として貴族達に利用され続けてきた身だが、今のアタシは幸せだ。
ラルフルがいる。マカロンさんがいる。ゼロラさんがいる。リョウ大神官がいる。皆がいる。
孤独だった立場のアタシはいつの間にか孤独ではなくなっていた。
――だから寂しくないし、幸せだ。
「……そうか。ならよかった」
バクト公爵はアタシ達から目を逸らしながら顔を上げる。
おそらくこの人は今、自らの顔を見られたくないのだろう。
「ラルフル。これからもミリアと仲良くしてやってくれ」
「は、はい! もちろんです!」
アタシ達に顔を見せずに、バクト公爵はラルフルに『アタシをよろしく頼む』と言ってきた。
「ゼロラ。貴様に手を出したことを俺は謝罪する気など毛頭ない。だが……ミリア達のことを頼めるか?」
「ああ……分かってるさ。安心しろ」
さらにバクト公爵はゼロラさんにも『アタシ達のことを守ってやってくれ』と言ってきた。
この人って、本当に不器用だ。自らの気持ちを押し殺そうとばかりする。
――なんだかアタシによく似てる気がする。
「ミリア。お前の父親のことはいったん忘れろ。全てが終わって落ち着いたら――」
「アタシは父のことを恨んだりはしてない。捨てられたとも思ってない」
「そうか……。お前は俺の誇りだな……」
顔は見えないが、バクト公爵はきっと泣いているのだろう。
アタシにはそんな気がした。
「ミリア……お前は……俺のようにだけはなるな。全てをかなぐり捨てて、野望を果たそうとする人間にだけは――」
「アタシはアンタを立派な人間だと思ってる。回復魔法では治せない、医学の力で人々の命を救う力を持っている」
「……つくづく……泣かせてくれる……小娘だ……」
バクト公爵はそれだけ言うと、『自らがアタシの父である』とは断言せず、護衛二人と一緒に振り返らずにアタシ達の元から離れていった。
「ハァ~。なんぼほど強情やねん、あん人は……」
「結局、断言まではしなかったな……」
「ミリアさん、これでよろしかったのですか?」
傍でやり取りを見ていたシシバ、ゼロラさん、ラルフルがアタシの様子を伺ってきた。
「ええ、今はこれでいいわ。いつの日か……またちゃんとあの人とは話をする」
断言こそされなかったが、バクト公爵はアタシの本当の父親だ。
でも、今はそのことを言及する気はない。
全てが落ち着いてあの人がゆっくり話せるようになった時、アタシは再びあの人と話をしよう。
アタシの"父さん"や"母さん"がどんな人なのか、もっと知りたいから――
「ラルフルに連れてきてもらったの……」
バクト公爵は普段見せたことがない驚きの表情でアタシを見つめてきた。
アタシがゼロラさんにバクト公爵のことをお願いした後、ラルフルが戻ってきた。
ラルフルに事情を説明すると、『自分が付いていますから、バクトさんに会いに行きましょう!』と言われ、アタシもここにやってきた。
アタシは知りたかった。
本当にこの人がアタシの父親なのかを――
「申し訳ございません、バクトさん。ですが、自分はお二人のためにもちゃんと話すべきだと思います……」
「よ、余計な真似を……!」
バクト公爵はラルフルを睨みつけるが、その体はゼロラさんと戦ったことによりボロボロだ。
「すまないな、ミリア。こいつを止めるために少々手荒な手段をとった」
「いえ、気にしないでください。こうでもしないとこの人は話なんて聞いてくれなかったでしょうから……」
ゼロラさんはアタシに謝ってくるが、バクト公爵が秘密を隠すためにゼロラさんに襲い掛かったのは想像に難くない。
近くで見ているシシバもそもそもアタシに事実を伝えようとしていた身だ。
バクト公爵の命令に背いてでも手を出さなかったため、バクト公爵自身が戦わざるを得なかったのだろう。
「ぐぅ……! おい、貴様ら……!」
「「はっ」」
バクト公爵は護衛二人に両肩から体を支えてもらい、この場を急いで去ろうとした。
「ま、待って――」
「黙れ! スタアラの小娘に、語る言葉などない! さっさとこの俺の前から……き、消え……」
『この俺の前から消えろ』。バクト公爵はアタシに対してそう言おうとした。
――でも、その言葉がバクト公爵自身の口から出てくることはなかった。
この人はアタシから離れることに戸惑っている――
「バクト公爵。少しだけお待ちください」
「お、おい!? 俺に何を――」
パァアア――
アタシの得意な回復魔法。バクト公爵の傷がどんどん塞がっていく。
この人がボロボロになったのは自業自得のようなものだけど、傷ついてるこの人を見てアタシは治さずにはいられなかった。
「……おい。……お前はこの俺に情けをかけるつもりか? それで俺が口を割ると――」
「『お前』……ですか。アンタはアタシのことは他の人のように『貴様』って呼ばないのね」
「…………」
アタシの指摘を聞いて、バクト公爵は黙り込んでしまった。
「お願い……教えて! アンタは……アンタはアタシの父親なの!?」
「…………」
アタシの質問にもバクト公爵は答えなかった。
ただ黙って俯くだけ。
アタシにはその答えが欲しいのに――
「――おい、ミリア。お前は今幸せか?」
「え……?」
黙り続けていたバクト公爵の口から出てきたのは、アタシに対する質問だった。
「……幸せよ」
アタシは正直な気持ちを答える。
スタアラ魔法聖堂の聖女という立場であり、政治の道具として貴族達に利用され続けてきた身だが、今のアタシは幸せだ。
ラルフルがいる。マカロンさんがいる。ゼロラさんがいる。リョウ大神官がいる。皆がいる。
孤独だった立場のアタシはいつの間にか孤独ではなくなっていた。
――だから寂しくないし、幸せだ。
「……そうか。ならよかった」
バクト公爵はアタシ達から目を逸らしながら顔を上げる。
おそらくこの人は今、自らの顔を見られたくないのだろう。
「ラルフル。これからもミリアと仲良くしてやってくれ」
「は、はい! もちろんです!」
アタシ達に顔を見せずに、バクト公爵はラルフルに『アタシをよろしく頼む』と言ってきた。
「ゼロラ。貴様に手を出したことを俺は謝罪する気など毛頭ない。だが……ミリア達のことを頼めるか?」
「ああ……分かってるさ。安心しろ」
さらにバクト公爵はゼロラさんにも『アタシ達のことを守ってやってくれ』と言ってきた。
この人って、本当に不器用だ。自らの気持ちを押し殺そうとばかりする。
――なんだかアタシによく似てる気がする。
「ミリア。お前の父親のことはいったん忘れろ。全てが終わって落ち着いたら――」
「アタシは父のことを恨んだりはしてない。捨てられたとも思ってない」
「そうか……。お前は俺の誇りだな……」
顔は見えないが、バクト公爵はきっと泣いているのだろう。
アタシにはそんな気がした。
「ミリア……お前は……俺のようにだけはなるな。全てをかなぐり捨てて、野望を果たそうとする人間にだけは――」
「アタシはアンタを立派な人間だと思ってる。回復魔法では治せない、医学の力で人々の命を救う力を持っている」
「……つくづく……泣かせてくれる……小娘だ……」
バクト公爵はそれだけ言うと、『自らがアタシの父である』とは断言せず、護衛二人と一緒に振り返らずにアタシ達の元から離れていった。
「ハァ~。なんぼほど強情やねん、あん人は……」
「結局、断言まではしなかったな……」
「ミリアさん、これでよろしかったのですか?」
傍でやり取りを見ていたシシバ、ゼロラさん、ラルフルがアタシの様子を伺ってきた。
「ええ、今はこれでいいわ。いつの日か……またちゃんとあの人とは話をする」
断言こそされなかったが、バクト公爵はアタシの本当の父親だ。
でも、今はそのことを言及する気はない。
全てが落ち着いてあの人がゆっくり話せるようになった時、アタシは再びあの人と話をしよう。
アタシの"父さん"や"母さん"がどんな人なのか、もっと知りたいから――
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