記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派

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第21章 開戦前日

第289話 虎に首輪は付けられない

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 ギャングレオ盗賊団の暴走。ガルペラ侯爵邸への襲撃。
 その翌日、王都にある王宮・ルクガイア城の玉座の間で、漆黒のローブを身に纏った一人の男が膝をついて報告を行っていた。

「――よって、ギャングレオ盗賊団はガルペラ侯爵やゼロラを始末したようです。ただ、それらの陰謀が王国騎士団によるものだと思い込み、頭領シシバを含むギャングレオ盗賊団の残党は明日、この王都への侵攻を企んでいます」

 玉座の間で報告を行っていた男は普段と違い、フードを被っていなかった。

 ルクガイア暗部構成員、二つ名を【虎殺しの暴虎】と呼ばれる男――サイバラ。
 ギャングレオ盗賊団に密偵として忍び込んでいたその男は、正体を明かして玉座の間で王国の上層部へと報告を行っていた。

「陛下。ギャングレオ盗賊団の侵攻を許すわけにはいきませぬじゃ。バルカウス団長が不在の今、この軍師ジャコウが指揮を執って迎え撃ちますが……よろしいですな?」
「……うむ」

 王国騎士団軍師のジャコウはサイバラの報告を聞き、国王ルクベール三世に自らが王国騎士団を率いて迎撃することを提言する。

 国王の心境は重かった。
 このルクガイア王国に改革をもたらしてくれるガルペラ侯爵一派が勢力として瓦解し、その残党であるギャングレオ盗賊団が王都へと攻め入ろうとしてくる――
 これらの状況がジャコウやボーネス公爵によって画策されたものであることは、国王にも理解できた。

 王国騎士団団長のバルカウスは、勇者レイキースと共に<ナイトメアハザード>の調査に向かっていて不在だ。
 それでも、王国騎士団とギャングレオ盗賊団の残党では戦力の差が大きすぎる。
 国王自身が悪役を演じてまで託した改革の灯が、このまま消えてしまうことを嘆いていた――

「……王国騎士団の指揮権を軍師ジャコウに託す。明日王都へ襲撃してくるギャングレオ盗賊団を迎撃せよ」
「かしこまりましたですじゃ。ヒヒヒ……!」

 自らの企み通りに事が進んでいるジャコウは下卑た笑いを口にした。
 国王もこうなってしまった以上、ジャコウを始めとするこの国の膿といえる貴族達の画策を止めることはできなかった。

「それではオレはこれで失礼します。ギャングレオ盗賊団がこちらの思惑通りに動いてくれるよう、最後の準備がありますので」

 玉座で嘆く国王を眺めながら、サイバラは立ち上がって部屋の外へと出て行った――





「まさかお前が【虎殺しの暴虎】――ジャコウの手下だったとはな……サイバラ」

 玉座の間を後にしたサイバラを呼び止めたのは黒蛇部隊隊長のジフウだった。

「あぁ……シシバのカシラの兄さんッスか。オレに恨み言でも吐きに来たんスか?」
「てめぇみたいなジャコウの飼い犬にそんなことする気はねえよ。ただ……てめぇがシシバを――ギャングレオ盗賊団を裏切るとは思ってなかったぜ……」

 サイバラを呼び止めたジフウは睨みながらも感情を押し殺す。

 自身が忠誠を誓う国王の身を切る思惑を、台無しにしたこの男を――
 ジャコウの手下でしかないとはいえ、弟のシシバを陥れたこの男を――

 恨む気持ちを抑えながら、ジフウはサイバラの心境を問おうとした。

「ダハハハ……! おっしゃる通り、オレはジャコウの"飼い犬"でしかないッスからね。……シシバのカシラやギャングレオ盗賊団には、悪いことをしたと思ってるッスよ……」
「……それは本心なのか?」

 話の中でサイバラの表情が曇っていることが、サングラス越しでもジフウに分かった。

 ジフウもサイバラのことはある程度理解しているつもりだった。
 だからこそ、サイバラの今回の行動に違和感も感じていた。



「あぁ……そうでした。さっきジャコウに渡し忘れたものがあるんスよ。代わりに確認しといてもらえないスかね? ジフウの兄さん」
「渡し忘れたもの? 代わりに確認?」

 そう言ってサイバラは一冊の封筒をジフウに手渡した。

「それじゃ、オレはこれで失礼するッスよ。王宮ってのは息苦しくて仕方ないッスねぇ。……やっぱ、オレはこんなもの欲しくないッスわ」

 サイバラがジフウに漏らしたわずかな本心。
 それを最後にサイバラは王宮を後にした――



「ジャコウに何を渡し忘れて―― !? これは……!?」

 サイバラがジフウに手渡した封筒――
 それが何なのかが分かったジフウは全てを理解した。





「よもや、ゼロラ殿やガルペラ侯爵が罠に嵌められてしまうとは……」

 サイバラ達の謁見を終えて、国王は自室で椅子に座りながら頭を抱えていた。
 このまま改革が実現することなく、このルクガイア王国は再び貴族の傲慢によって支配されるのか――
 そんな懸念が頭をよぎった。

「陛下……。本当にゼロラ殿達はもういないの……? ボクには……信じられないよ」

 そんな国王の傍には、リョウの姿があった。

 魔幻塔での一件以来、全快とはいかないがある程度回復したリョウは、国王の私室への入室を許可されていた。
 リョウも国王と志を同じくする者。
 そして、彼女にはこの事態が信じられなかった。

「ジャコウはおそらくボクの時と同じく、<ナイトメアハザード>の力を使ったに違いない。……でも、それでシシ兄やゼロラ殿達が完全に嵌められたとは、ボクには考えられない……」

 リョウは兄シシバや想い人ゼロラのことを信じていた。
 だからこそ、こんなに簡単にジャコウの思惑通りに事が進んでいることが信じられなかった。



「陛下、リョウ。この事態はジャコウの思惑通りに進んでませんよ」

 重苦しい空気に包まれた国王の私室に、ジフウが入ってきた。
 その表情には何か決心めいたものがあった。

「どういうことだ、ジフウ?」
「玉座の間での謁見の後、サイバラが俺にこんなものを手渡してきましてね」

 そう言ってジフウはサイバラから受け取った封筒を二人に見せた。

「ジフ兄。それには何が書かれているんだい?」
「まあ……なんだ。読めば意味は分かる」

 ジフウは封筒の中に入っていた紙を取り出し、内容を読み上げた――





「『辞表。このオレ、サイバラはルクガイア暗部を辞めます。くたばれ、ウジ虫ジャコウのバーカ』――って書いてます」
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