記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派

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第23章 追憶の番人『ドク』

第329話 もう元には戻らない

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 フロストとフレイムが王国騎士団を追放され、数年の年月が経った。
 フロストはルクガイア王国領内のはずれ、テコロン鉱山を根城としてなおも研究を続けていた。

「まだこの人は復讐を諦めないんですね……」
「こいつの復讐心……。もう、この馬鹿が元に戻ることはないのかもな……」

 そんなフロストの元に、ある日二人の男がやってきた。

 一人は元部下であるジフウ。
 先代勇者パーティーとしての役目を終え、フロストのことが気になりやってきた。
 ジフウが共に戦っていた先代勇者――【慈愛の勇者】ユメの死。
 最近そのことを知ったジフウはショックを受けていたが、フロストの元にやってきて更なるショックを受けた。

「おーおー、久しぶりだな~、ジフウ。見ろよ~、このフレイムの新しい姿をよ~」
「こ……これがあのフレイムですか……? い、生きてるんですよね……?」

 フロストに言われてジフウが目にしたもの――
 それは全身を金属化されたフレイムの姿だった。
 二番隊にいたころの面影はなく、数年前の大火傷で失った左腕には新しく機械の腕が取り付けられようとしていた。

「今はまだ寝てるがな~。こいつが起きればそれこそ、間違いなく【王国最強】の戦士の誕生だ~! クーカカカ!」

 フロストはフレイムを機械化させることで、延命させることに成功していた。
 フレイムが持つ天性の肉体――
 それがこの大改造を成功させていた。
 そしてもう一つ、フロストがこれほどまでの大改造を延命のためとはいえ、自らの弟に施すことに踏み切ったことも成功の要因だった。

 数年ぶりに会ったかつての上司とその弟の姿に、ジフウは"あの時助けられなかった"苦しみで胸が張り裂けそうだった。

「おい、バカフロスト。こいつをフレイムに使ってやれ」
「お~? 軟膏か~? 気が利くじゃねーか、アホバクト~」

 そんなジフウと共にやって来たのはバクトだった。
 バクトは持ってきた大量の軟膏をフロストに手渡した。

 バクトとて心痛な思いだった。
 普段からいがみ合いつつも、自らが豹変してしまった後も気にかけてくれたフロストの現在の姿――
 それは見るに堪えないものであった。

「お~、そーだ。実はよ~、こんなのも作ったんだよな~」

 そう言ってフロストは部屋の奥から一体の人形を持ち出した。
 それは人形というにはあまりにも人間の女性に近い姿をした存在を――

「こ、これって、人じゃないんですよね?」
「あー、そーだ。これは"ヒューマノイド"ってーやつだ~。中々の出来だろ~?」
「おい……フロスト。こいつの姿はまさか――」

 フロストが"ヒューマノイド"と呼んだ女性の人形――
 それはバクトにも見覚えのある姿だった。

 赤い髪に、緑色の瞳――
 細部の容姿に至るまで、在りし日のルナーナを再現させた姿だった。

「フロスト……。やはりルナーナのことを忘れられずに――」
「あー、そーだよ。俺は今でもルナーナのことを忘れられない。だからこうやってルナーナに似た人形を作ってる。……でもな、やっぱりこいつはルナーナじゃないんだ……」

 バクトに尋ねられ、フロストは寂しそうに答える

「どれだけ精巧にルナーナに似せて作っても、結局こいつはルナーナじゃない。この間、試しに動かしてみたんだが……正直、絶望したな~……」

 フロストの内に残った僅かな正気。
 それが自らの行いの愚かさを理解させていた。

「今度、髪と目の色は変えることにするぜ~。名前もそーだな~……"ルナーナ"じゃなくて、"ニナーナ"にしよう。"似てるだけ"だし、"二号"だし。中々シャレが利いてるだろ~? クーカカカ~……」
「フロスト元隊長……」

 そんな自らを蔑むフロストの姿を、ジフウもバクトも黙って見ていることしかできなかった。



「ジフウ、席を外してくれ。……それと、今後も少しでいいからフロストの面倒を頼む」
「……分かりました。俺も他の四人も、こんなフロスト元隊長を放っておくわけには行きませんからね……」

 バクトに言われたジフウは、その日はフロストの元を後にした。
 それでもその後、残りの部下四人を含む黒蛇部隊はフロストの様子を伺いに、度々この研究施設へと訪れるようになった。





「ん~? おい、アホバクト~。ジフウをどこかに行かせて、何か話でもあるのか~?」
「ああ。俺がここに来たのはそのためだ。要件は二つある」

 ジフウがいなくなった後、バクトはフロストに要件を話し始めた。

「まずは一つ目。ラルフルの消息が分かった」
「ホ、ホントか!? 一体どこに!?」
「……スタアラ魔法聖堂だ。孤児として引き取られたらしい。俺もミリアのことで避けていたから、確認が遅くなった……」

 バクトからラルフルの安否を確認したフロスト。
 姉のマカロンの行方は今だ分からないが、フロストは安堵の溜息をついた。

「そーか~……。よかった~……。無事だったか~……」
「ラルフルの件についてはもう一つ報告がある。あいつは……今度新たに組まれる勇者レイキースを筆頭とした勇者パーティーに、魔法使いとして加入を希望している」
「なっ!? なんでそんな危ない真似を!?」
「詳しいことは分からない。だが、勇者パーティーに入るためには、相応の爵位を持った貴族の推薦が必要だ。今ラルフルにそういうコネはない。加入は難しいな」

 さらにフロストはバクトから、ラルフルが勇者パーティーに入ることを希望していることを知る。
 そんな危険な真似をラルフルにしてほしくはないが、同時にフロストはラルフルの意志を優先させたかった。

 自らが救えなかったラルフルの母、ルナーナへのせめてもの罪滅ぼしとして――

「……バクト。公爵のお前なら、ラルフルを推薦することもできるよな?」
「ああ。俺が推薦すれば問題ないだろう」
「……だったら、ラルフルを勇者パーティーに推薦してやってくれ。……頼む」

 フロストはバクトに頭を下げた。
 バクトもフロストの思いを汲み、それ以上の言及はしなかった。

 かつて自らが救いきれず、狂った旧友のためにも――

「ラルフルの件は了解した。それとは別に、貴様には頼みたいことがある」

 バクトはフロストへ、もう一つの要件を話した。

「俺の他にロギウス殿下、イトー理刀斎という三人で"ある場所"を守っている」
「ロギウス殿下にイトー理刀斎? イトー理刀斎といえば、確か東の国の大剣豪の名前だったか……?」
「ああ、そのイトー理刀斎だ。そしてその場所を守るために、貴様にも協力してほしい」

 バクトはロギウスやイトーと共に守る場所についてフロストに話した。
 その場所を守るためには、フロストという"常軌を逸した天才"の力が必要だった。

 "追憶の領域"――
 その場所を守る四人が、この時定められた――
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