記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派

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第23章 追憶の番人『ドク』

第328話 龍を従える狂気

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 愛するルナーナの死。マカロンとラルフルの消息不明。
 あの日以降、フロストは変わってしまった。

「クーカカカ~! 次は何を作ろーかな~? 何を作ればあのクソアマ――レーコ公爵を嬲り殺せるかな~?」

 フロストは正気を失っていた。
 バクトの計らいで、今尚王国騎士団二番隊隊長の座には就いているが、最早そんなことはフロストにとってどうでもよかった。

 "レーコ公爵への復讐"――

 それだけがフロストの唯一の行動理念となっていた。
 そのために自らの科学力を駆使し、これまで以上に戦力の増強を図っていた。

「オオオオー……」
「フロスト……。貴様がここまで変わってしまうとはな……」

 そんなフロストの姿を心配そうに見つめる、フレイムとバクト。
 他にフロストを止める手立てがなかったとはいえ、こうなってしまったことに責任は感じていた。

「あ~、楽しみだな~。レーコのクソアマ公爵が許しを請いながら、俺に殺される姿を見るのがよ~!」

 もはやただの天才ではない。狂気の天才科学者――"マッドサイエンティスト"となったフロストは、周囲の目も気にせずに、ひたすら研究を続け始めた――





「王国騎士団二番隊隊長、フロストはいるか?」
「ん~? 誰だ~? ……なーんだ~、国王陛下か~」

 そんなフロストの元へある日、国王が一人の男を連れてやってきた。
 国王が自らの元にやって来ても、フロストの態度は変わらなかった。

「……陛下。本当に俺がこの男の配下に?」
「ああ、頼めるか、ジフウ? お主にはこの者の配下として、監視と護衛を任せたい」
「まあ……それで弟や妹の面倒も見てくれるならいいですけど……」

 そんな国王と一緒にやって来たのは、当時まだゴロツキ上がりのジフウだった。

「なんだ~? その男は~? 俺の部下になるのか~?」
「この男の名は、ジフウ。素手にてコマンドラゴンを倒した武術の天才だ。その実力は、あのチャン老師のお墨付きだ」

 フロストに尋ねられ、国王はジフウを紹介する。
 二番隊はフロストが正気を失って以降、他の部隊よりはるかに統率が取れていない。
 だが、フロストの科学力とフレイムの戦闘力により、実力だけは最強と謳われるほどであった。

 そんなフロストへの心配と抑止のために、国王は自らも目を付けたジフウを配下に置くことを提案した。

「ジフウって言ったか~? てめー、何ができるんだ~?」
「これまでに他国を回り、軍隊式格闘術を少々……」
「軍隊式格闘術か~……。てめー以外にも、同じような手練れは集められそうか~?」
「ある程度の目星はつけられます。必要ならば四人程は集められるかと……」

 フロストはジフウの話を聞いて興味を持った。
 ルクガイア王国は『剣と魔法こそ至高』と考える国。
 そのためフロストの科学力は疎まれていたが、同じように疎まれている武闘家を味方に付ければ、己の復讐の力になると考えた。

「よーし、ジフウ。お前を俺の部下にしてやるよ~。そして、さっきお前が言った四人も俺の元に集めろ~。俺がお前らを、この国にとって"見過ごすことのできない力"にしてやるよ~! クーカカカ~!」

 狂った笑い声を上げながら、フロストはジフウが部下になることを認めた。
 ジフウもフロストという男に恐怖を覚えたが、自らの家族のため、実力を認めた他の四人のため、大人しくフロストの部下になることを決めたのだった。



 その後ジフウの呼びかけで集められた四人――
 名を、ポール、ボブ、トム、アーサー。
 そこにジフウを含んだ五人こそが、後の"国王直轄黒蛇部隊"である――





「クーカカカ~! よーやく準備ができたな~! これで……レーコ公爵もお終いだ~!」

 それから少し時間を置いたある日。世間が【伝説の魔王】の恐怖に怯える最中。
 そんなことは関係ないとばかりに、フロストは軍備を整え終えていた。
 用意されたのは数々の銃火器――
 どれもルクガイア王国どころか、世界中を探しても手に入らないような時代のオーパーツばかりだった。

「さ~、始めるぞ~! フレイム! ジフウ達を呼んで来い! 今度こそ、レーコ公爵をブチ殺しに行くぞ~!」
「オオオー!」

 今度こそ万全の準備を整え、フロストはフレイムにジフウ達を呼ばせようとした。
 目的はルナーナの仇討。レーコ公爵の殺害。
 今度こそ上手くいくと思ったうえで、行動を起こそうとした。



 だが、またしてもそうはいかなかった。



「フ、フロスト隊長! は、早く逃げてください! ヤバいことになりました!」

 今まさに出陣しようと考えていたフロストの元に、ジフウが血相を変えて飛び込んできた。

「おー、ジフウ~。丁度いい。今から呼びに行こうと――」
「そんなこと言ってる場合じゃないですよ! レーコ公爵が二番隊以外の王国騎士団をまとめて、この周囲を包囲し始めてるんです!」
「な~に~!?」

 ジフウの話を聞き、フロストは外の様子を確認する。
 すでに包囲は固まりつつあり、フロストの傍で味方と言えるのは弟フレイムとジフウを含む五人の部下だけだった。

「サー・フロスト! ダッシュで脱出ね!」
「押忍! これはマズイで……押忍!」
「……想像以上の数だナ」
「おいども、足止めするけん! はように逃げるばい!」

 アーサー、トム、ボブ、ポールの四人がフロストを逃がすために尽力する。
 フロストもこの数では不利と感じ、逃亡手段を考える。

「チ~! 仕方ねーな~! フレイム! お前が先頭を行け! そのマシンアックスで王国騎士団を薙ぎ払いながら、目にもの見せつけつつ突破してやるぜ~!」
「オオオオー!!」

 かつてレーコ公爵により苦汁を舐めさせられたフロストは、最後にフレイムの力を使って王国騎士団を恐れさせながら逃げることを考えた。
 フロストも今回で終わるつもりは毛頭ない。
 自分達兄弟の力を見せつけて、レーコ公爵に一泡吹かせた後、再び復讐計画を進めようと考えた。

「行くぞ! フレイム!」
「オオオオ!!」

 フロストとフレイムは外へと飛び出した。

 部下五人に守られる形で、フロストとフレイムが王国騎士団へと向かって行く。
 先頭を行くフレイムは手に持った巨大なマシンアックスを豪快に振り回し、王国騎士団を次々に倒していく。
 さらにはマシンアックスに備え付けられた大砲、フロストの銃撃により、戦線に大きな穴が開く。

「クカカカカ~! 見たか! 王国騎士団のアホどもが~! これが科学の力ってやつだ~!」
「オオオオオー!」

 これでもかとその力を見せつけながら、フロスト達は中央を突破していった――





 ――だが、この事態をレーコ公爵は予期していた。

「今だ! レーコ公爵の指示通り、炎魔法でフレイムを狙い撃て!」
「あんなでかい化け物! 野放しにできるか!」
「そうだ! 人の言葉も喋らない化け物が……燃え尽きろぉお!!」

 フロスト達が戦線を上げてきたのを確認し、王国騎士団の魔法使いは一斉に炎魔法を放った。
 狙いはフレイム。その攻撃には、フレイムの存在を忌み嫌う声も混ざっていた。



 ボォオオオッ!!

「オオオ!? オオオーッ!?」
「フ、フレイム!?」

 王国騎士団の攻撃で、フレイムは一瞬にして火達磨となってしまう。
 凄まじい火力で焼かれたためか、フレイムの体に纏わりついた炎はすぐには消せなかった。



「オォ……オオオオーッ!?」
「何!? 火達磨のまま突進してきただと!?」
「ひいぃ!? や、やっぱり化け物だー!?」

 それでもフレイムは火達磨になりながら、突進して道を開く。
 兄フロストを逃がすため、一身の思いで道を切り開く。

「フ、フレイム……」
「フロスト隊長! もたもたしている暇はありません! 早く逃げてください!」

 ジフウ達五人の部下は殿を務め、フロストとフレイムをなんとか逃がそうとする――

「く、くそぉおお!! 覚えてろよ、レーコ公爵!! てめーだけは……何年かかっても殺してやるからなぁああ!!」

 レーコ公爵への怒りと恨みをぶちまけながら、フロストとフレイムは王都を離れて逃げていった。

 その日にルクガイア王国騎士団二番隊は一度解体。
 ジフウ達五人の部下は国王の計らいにより、後に"国王直轄黒蛇部隊"として再結成されるのであった――
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