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第24章 常なる陰が夢見た未来
第346話 魔王城走馬灯②
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「――ほう? ジョウイン公も奇特なことをなさるものだ」
ユメがジョウインと共に魔王城に住むようになった話は、玉座の手前で戦っていたダンジェロの元へも届いた。
ダンジェロは今だにジフウ達三人相手に余裕を見せながら、配下の魔物から寄せられた報告を聞いていた。
「おい! さっきからそこにいる魔物と何をやり取りしてる! まさか……ユメ様に何かあったのか!?」
「ハッハッハッ。そう慌てるでない、武闘家よ。しかしそうだな……なんと説明しようか――」
ジフウに問い詰められたダンジェロは、事の内容伝えようとしたが、少し考えた。
この時決まっていたことは、『ジョウインとユメが共に暮らすこと』だけ。
だがダンジェロは、この事実から起こると思われる『そう遠くない未来の予想』をし、都合よく改変した内容をジフウ達三人へと伝えることにした。
「どうやら諸君の主、【慈愛の勇者】ユメ殿は、我らが主【伝説の魔王】ジョウイン公に敗北したようだ」
「な、なんだって!?」
「そ、そんな……!?」
「も、もうダメじゃ……! お終いじゃ……!」
ユメが敗北したと聞き、ジフウもバルカウスもジャコウも、その身に衝撃が走った。
「安心したまえ。ユメ殿はまだ生きておられる。だが、ジョウイン公はユメ殿を大層気に入られたようでな。妃として迎え入れるそうだ」
「お、おい! そんなこと、俺達が許さな――」
「それとユメ殿――いや、ジョウイン公の妃となるユメ様より、伝言を賜っている。『私一人が犠牲になるから、仲間達や人類へ危害は加えないでほしい』――とな」
「なっ……!?」
ダンジェロは己の意思で捻じ曲げた事実をジフウ達に伝えた。
『こうした方がこの場を容易く納められる』という判断もあったが、それ以上にダンジェロはこれから起こる状況を楽しもうとしていた。
魔王軍四天王、【欲望の劫火】、ダンジェロ。
場に動乱を起こし、それ見て楽しむことを何よりの愉悦とする男。
その男は何よりも、己の欲望を満たすことを優先に考えて動いた。
「さあ、諸君。ユメ様のご自愛の元、早々にこの場を立ち去りたまえ。……さもなくば、小生もこれ以上に手荒な真似をする必要がある……な!」
そう言ってダンジェロは<詠唱の黒霧>を杖の先端にある宝玉に纏わせ、炎を生じさせる。
その炎はこれまでよりも激しく燃え上がり、ジフウ達との力量差をこれでもかと見せつける。
「ぐぅ……! くそっ……!」
ジフウ達三人に成す術はなかった。
三人はユメを置いて魔王城を去り、ダンジェロから伝えられた話をルクガイア王国へと伝えた――
■
「ダンジェロよ。お前はまた己の都合が良いように、事実を捻じ曲げて伝えたようだな」
「ハッハッハッ。これは失礼いたしました、魔王ジョウイン公。ですが、あのように伝えておいた方が、急激な変化を受け入れられない"人間という生物"にとっては都合がよろしいでしょう」
ダンジェロが『ジョウインとユメが結婚する』という形で他の勇者パーティーに伝えたことに、ジョウインは少し難色を示していた。
だがジョウインは過度な言及は控えた。
自らが魔王軍四天王に据えた、ダンジェロと言う男――
この男は【欲望の劫火】の二つ名が示す通り、己の"欲望"に忠実な行動をとる。
主である魔王ジョウインの意向を汲みはすれど、そこには自身が『より面白いと思う』という欲が必ずと言っていいほど含まれる。
ジョウインもそんなダンジェロのことをよく知った上で四天王という要職に就けていたため、今更問い詰める気も起きなかった。
「ジョウインさん。ダンジェロさんとお話しをしているのですか? 今日は"シチュー"を作ってみましたよ」
「お前……。まだこの城に居座るようになって少ししか経っておらぬのに、もう我が物顔で我が城を使いおって……」
そんなジョウインとダンジェロの元に、ユメが手料理を持ってやってきた。
ユメが魔王城でジョウインと生活を共にするようになってから、早数日。
ユメは持っていた食材や魔王城に元々ある食材を使い、人間界の料理をジョウイン達に振舞うようになっていた。
「おい、ユメ。お前は勇者だろう? そもそも、魔王である我にこうして料理を振舞うことが、おかしいとは思わないのか?」
「『おかしい』という話ならば、ジョウインさんだって魔王なのに人間のような考え方をお持ちじゃないですか。"同胞のため"に指揮を執る魔王なんて、これまでの歴史もいませんでしたよ」
「……揚げ足をとるな」
ジョウインはそんなユメに対して苦言を呈すが、ユメは軽く流した。
ジョウインよりも前の代の魔王は過去にも何人かいた。
だがその誰もが、己の支配欲を満たすために配下をただの手駒としていた。
それは人にとっても魔にとっても、害となりうる存在であった。
「ダンジェロよ。お前から見ても、我はそんなに人間に近い存在なのか?」
「御意御意。ジョウイン公はその力のみならず、智謀に長けております故に。ユメ様がおっしゃられることに、小生も異議はありませぬ」
「そうか……。お前に言われると説得力があるような、ないような……」
ジョウインはダンジェロの話を聞き、ひとまずは自らの在り方について納得した。
ジョウインもこれまでの魔王の在り方に疑問を持っていた。
高い実力を持ちながら、これまで人間の勇者に敗れ続けた歴代の魔王――
自らが魔王の座についた時、まずはそこに手を加えようとジョウインは考えた。
ジョウインはこれまで敵としか見ていなかった人間の文化を学んだ。
そうすることで人間の動きを知り、魔王軍の戦力増強にも活かしていった。
それだけでなく、ジョウインは知識を得ていく中で『これまでの魔王のやり方では、同胞も苦難するだけだ』という考えを強くし、魔王軍という組織そのものに改革を促した。
そうして出来上がった魔王軍は、人間の軍隊とも遜色ない、統一された組織となった。
「やっぱりダンジェロさんも、ジョウインさんのことを分かってらっしゃりますね」
「小生は四天王の中でも新参ではあるが、他の四天王達も同じように考えているだろう……な」
ユメに尋ねられて、傍にいたダンジェロも答える。
「もっとも、ここまで来ておきながら、小生以外の魔王軍四天王に止めを刺さなかった君の心に思うものもあるのだろう。誠に優しき女性であられるな。さすがは【慈愛の勇者】といったところ……か」
何よりダンジェロに関心を抱かせたのは、【慈愛の勇者】と呼ばれるユメの人柄であった。
ユメを含む勇者パーティーはここへ至るまで、魔王軍に対する犠牲を最小限に抑えていた。
魔王軍四天王最後の一人であるダンジェロ以外の四天王にも、止めを刺してはいない。
そんなユメならばジョウインの心をも開き、"これまでにない出来事"を起こしてくれると、ダンジェロは考えていた。
それがダンジェロにとって、"自らの欲望"を満たす結果になると望んでいた――
「おい、ユメ。お前もここが嫌なら、さっさと出て行って構わないのだぞ?」
「私が作ったシチューを美味しそうに食べながら、それを言いますか?」
「そ、それは……。いや、お前の作る料理がうまいのは別の話で――」
「それと! 食事中ぐらいその仮面を全部外してください! 口元だけ外して食べないでください!」
「む、むぅ……。これは魔王たる者の証なのだが……」
そんなダンジェロの横で、ジョウインとユメは仲睦まし気に話をしている。
ジョウインはユメを追い出そうとすることもあるが、心から嫌ってはいない。
ユメもそんなジョウインの気持ちを理解し、傍を離れようとは考えない。
ジョウインもユメも、魔王と勇者という対極の存在ではあるが、共に近しいものを感じていた。
"特別な存在"として祀り上げられながら、どこか周囲から一歩距離を離されていた孤独感――
「これは、小生が考えていた通りに事が運びそうだ……な!」
そんな二人を見て、ダンジェロは考えた。
この二人が、"本当に結ばれる日"も遠くはないと――
ユメがジョウインと共に魔王城に住むようになった話は、玉座の手前で戦っていたダンジェロの元へも届いた。
ダンジェロは今だにジフウ達三人相手に余裕を見せながら、配下の魔物から寄せられた報告を聞いていた。
「おい! さっきからそこにいる魔物と何をやり取りしてる! まさか……ユメ様に何かあったのか!?」
「ハッハッハッ。そう慌てるでない、武闘家よ。しかしそうだな……なんと説明しようか――」
ジフウに問い詰められたダンジェロは、事の内容伝えようとしたが、少し考えた。
この時決まっていたことは、『ジョウインとユメが共に暮らすこと』だけ。
だがダンジェロは、この事実から起こると思われる『そう遠くない未来の予想』をし、都合よく改変した内容をジフウ達三人へと伝えることにした。
「どうやら諸君の主、【慈愛の勇者】ユメ殿は、我らが主【伝説の魔王】ジョウイン公に敗北したようだ」
「な、なんだって!?」
「そ、そんな……!?」
「も、もうダメじゃ……! お終いじゃ……!」
ユメが敗北したと聞き、ジフウもバルカウスもジャコウも、その身に衝撃が走った。
「安心したまえ。ユメ殿はまだ生きておられる。だが、ジョウイン公はユメ殿を大層気に入られたようでな。妃として迎え入れるそうだ」
「お、おい! そんなこと、俺達が許さな――」
「それとユメ殿――いや、ジョウイン公の妃となるユメ様より、伝言を賜っている。『私一人が犠牲になるから、仲間達や人類へ危害は加えないでほしい』――とな」
「なっ……!?」
ダンジェロは己の意思で捻じ曲げた事実をジフウ達に伝えた。
『こうした方がこの場を容易く納められる』という判断もあったが、それ以上にダンジェロはこれから起こる状況を楽しもうとしていた。
魔王軍四天王、【欲望の劫火】、ダンジェロ。
場に動乱を起こし、それ見て楽しむことを何よりの愉悦とする男。
その男は何よりも、己の欲望を満たすことを優先に考えて動いた。
「さあ、諸君。ユメ様のご自愛の元、早々にこの場を立ち去りたまえ。……さもなくば、小生もこれ以上に手荒な真似をする必要がある……な!」
そう言ってダンジェロは<詠唱の黒霧>を杖の先端にある宝玉に纏わせ、炎を生じさせる。
その炎はこれまでよりも激しく燃え上がり、ジフウ達との力量差をこれでもかと見せつける。
「ぐぅ……! くそっ……!」
ジフウ達三人に成す術はなかった。
三人はユメを置いて魔王城を去り、ダンジェロから伝えられた話をルクガイア王国へと伝えた――
■
「ダンジェロよ。お前はまた己の都合が良いように、事実を捻じ曲げて伝えたようだな」
「ハッハッハッ。これは失礼いたしました、魔王ジョウイン公。ですが、あのように伝えておいた方が、急激な変化を受け入れられない"人間という生物"にとっては都合がよろしいでしょう」
ダンジェロが『ジョウインとユメが結婚する』という形で他の勇者パーティーに伝えたことに、ジョウインは少し難色を示していた。
だがジョウインは過度な言及は控えた。
自らが魔王軍四天王に据えた、ダンジェロと言う男――
この男は【欲望の劫火】の二つ名が示す通り、己の"欲望"に忠実な行動をとる。
主である魔王ジョウインの意向を汲みはすれど、そこには自身が『より面白いと思う』という欲が必ずと言っていいほど含まれる。
ジョウインもそんなダンジェロのことをよく知った上で四天王という要職に就けていたため、今更問い詰める気も起きなかった。
「ジョウインさん。ダンジェロさんとお話しをしているのですか? 今日は"シチュー"を作ってみましたよ」
「お前……。まだこの城に居座るようになって少ししか経っておらぬのに、もう我が物顔で我が城を使いおって……」
そんなジョウインとダンジェロの元に、ユメが手料理を持ってやってきた。
ユメが魔王城でジョウインと生活を共にするようになってから、早数日。
ユメは持っていた食材や魔王城に元々ある食材を使い、人間界の料理をジョウイン達に振舞うようになっていた。
「おい、ユメ。お前は勇者だろう? そもそも、魔王である我にこうして料理を振舞うことが、おかしいとは思わないのか?」
「『おかしい』という話ならば、ジョウインさんだって魔王なのに人間のような考え方をお持ちじゃないですか。"同胞のため"に指揮を執る魔王なんて、これまでの歴史もいませんでしたよ」
「……揚げ足をとるな」
ジョウインはそんなユメに対して苦言を呈すが、ユメは軽く流した。
ジョウインよりも前の代の魔王は過去にも何人かいた。
だがその誰もが、己の支配欲を満たすために配下をただの手駒としていた。
それは人にとっても魔にとっても、害となりうる存在であった。
「ダンジェロよ。お前から見ても、我はそんなに人間に近い存在なのか?」
「御意御意。ジョウイン公はその力のみならず、智謀に長けております故に。ユメ様がおっしゃられることに、小生も異議はありませぬ」
「そうか……。お前に言われると説得力があるような、ないような……」
ジョウインはダンジェロの話を聞き、ひとまずは自らの在り方について納得した。
ジョウインもこれまでの魔王の在り方に疑問を持っていた。
高い実力を持ちながら、これまで人間の勇者に敗れ続けた歴代の魔王――
自らが魔王の座についた時、まずはそこに手を加えようとジョウインは考えた。
ジョウインはこれまで敵としか見ていなかった人間の文化を学んだ。
そうすることで人間の動きを知り、魔王軍の戦力増強にも活かしていった。
それだけでなく、ジョウインは知識を得ていく中で『これまでの魔王のやり方では、同胞も苦難するだけだ』という考えを強くし、魔王軍という組織そのものに改革を促した。
そうして出来上がった魔王軍は、人間の軍隊とも遜色ない、統一された組織となった。
「やっぱりダンジェロさんも、ジョウインさんのことを分かってらっしゃりますね」
「小生は四天王の中でも新参ではあるが、他の四天王達も同じように考えているだろう……な」
ユメに尋ねられて、傍にいたダンジェロも答える。
「もっとも、ここまで来ておきながら、小生以外の魔王軍四天王に止めを刺さなかった君の心に思うものもあるのだろう。誠に優しき女性であられるな。さすがは【慈愛の勇者】といったところ……か」
何よりダンジェロに関心を抱かせたのは、【慈愛の勇者】と呼ばれるユメの人柄であった。
ユメを含む勇者パーティーはここへ至るまで、魔王軍に対する犠牲を最小限に抑えていた。
魔王軍四天王最後の一人であるダンジェロ以外の四天王にも、止めを刺してはいない。
そんなユメならばジョウインの心をも開き、"これまでにない出来事"を起こしてくれると、ダンジェロは考えていた。
それがダンジェロにとって、"自らの欲望"を満たす結果になると望んでいた――
「おい、ユメ。お前もここが嫌なら、さっさと出て行って構わないのだぞ?」
「私が作ったシチューを美味しそうに食べながら、それを言いますか?」
「そ、それは……。いや、お前の作る料理がうまいのは別の話で――」
「それと! 食事中ぐらいその仮面を全部外してください! 口元だけ外して食べないでください!」
「む、むぅ……。これは魔王たる者の証なのだが……」
そんなダンジェロの横で、ジョウインとユメは仲睦まし気に話をしている。
ジョウインはユメを追い出そうとすることもあるが、心から嫌ってはいない。
ユメもそんなジョウインの気持ちを理解し、傍を離れようとは考えない。
ジョウインもユメも、魔王と勇者という対極の存在ではあるが、共に近しいものを感じていた。
"特別な存在"として祀り上げられながら、どこか周囲から一歩距離を離されていた孤独感――
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