記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派

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第26章 追憶の番人『斎』

第382話 かつての部下

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「ゼロラ殿。この地図の通りに行けばいいでおじゃる」
「ああ、助かった。オジャル伯爵」

 ミライをラルフルに任せた後、俺はオジャル伯爵の元へ行った。
 目的はオジャル伯爵の友人、オクバに会うためだ。

「もう"伯爵"はいらないでおじゃる。今はただの、オジャルでおじゃる」
「ああ、そうだったな」

 現在のルクガイア王国は改革が成立して以降、貴族の身分制度の廃止が進んでいる。
 オジャル伯爵――もとい、オジャルもその政策に則り、進んで爵位を返上した。
 仮にも伯爵の地位にあるオジャルが爵位を返上したことで、他の貴族達の爵位返上も進んでいる。

 しかし、『オジャルでおじゃる』か。
 ここだけ聞くと、わけが分からないな。

「しかし、なんでゼロラ殿がオクバ殿に用があるでおじゃるか?」
「まあ、個人的な要件だ。気にしないでくれ」
「ふむ……。詳しい事情は分からぬでおじゃるが、オクバ殿もゼロラ殿になら快く会ってくれるでおじゃろう」

 オジャルから聞いた話だとオクバは今、フォーレスの森の奥地にある魔物の集落で生活しているらしい。
 入り組んだ場所らしいが、オジャルから貰った地図があればたどり着けるようだ。

 俺がオクバに会う理由は簡単だ。
 この俺が【伝説の魔王】ジョウインだった記憶を取り戻した以上、かつての部下であるオクバには是非とも会っておきたい。
 場所が分かった俺は、早速フォーレスの森へと向かう――





「こんな道があったのか。前に来た時はマカロンを救出するためだったからな。見落としてたか」

 俺はオジャルにもらった地図を頼りに、フォーレスの森を抜けていく。
 入り組んだ道だったが、そこを抜けると一つの集落が見えてきた。

「うわー! 人間だー!」
「おっとー! おっかー! 人間だよー!」

 そしてその集落に近づくと、オークの少年とエルフの少女が俺を見て驚いた。
 こんな場所で人間は珍しいのだろう。
 だが、この二人の子供には見覚えがある。
 たしか、ダウンビーズで俺とロギウスが寝泊まりした時に――

「お? こんなところに人間とは珍しい―― って!? ゼロラの旦那だど!?」
「あら~? お久しぶりですわね~」

 ――そう、オクバの息子と娘だったな。
 両親であるオクバ本人とエルフの奥さんも、子供達に呼ばれて姿を現した。

「この前は助かった、オクバ」
「気にしないでほしいど。おでたちもあの後、ロギウス殿下の計らいもあって、少しずつ生計をたてられるようになってきたど」

 話によると、オクバを始めとする知性を持った魔物達は、人間とも異文化交流を始めたらしい。
 ロギウス主導の元、人間と魔物による交流が深まってきている。

 ユメが望んだ、"人と魔の共存"――
 それがこうして実現されているのを見ると、感慨深いものがある。

「それにしても、ゼロラの旦那。どうしてここに?」
「ああ、ちょっとお前に伝えたいことがあってな。オジャルに聞いてここまで来たんだ」
「あら~。オジャルさんに尋ねてまで、うちの旦那に御用件ですか~?」

 オクバも奥さんも、仲良く首をかしげている。
 そういえば、この二人を結び付けたのって、俺なんだよな。
 そしてオクバは幸せな家庭を築く勝ち組オークとなり、『結婚最高!』となってマカロンの誘拐にも加担した。



 俺、いつの間にかマカロンに結構酷いことしてたな……。



「あの~……ゼロラの旦那?」
「……ああ、すまない。少し考え事をしてた」

 とにかく今は、この二人に真実を打ち明けよう。
 それが俺の義務だ――





「実はな……俺、【伝説の魔王】ジョウインだったんだ」
「……」
「……」



 何か言ってくれ、オクバ! 奥さん!
 真顔のまま固まらないでくれ! これじゃ俺がスベったみたいじゃないか!

「……ま、またまた~! ゼロラの旦那も冗談がキツイど!」
「あ、あらら~。かのジョウイン公が夫の御友人なわけ、ありませんわ~」

 どうやら、信じてもらえてないらしい。
 それも仕方ないか。
 いきなり、『俺は魔王だった』なんて言われても、『この人おかしくなったか?』って思うのが普通か。

「うーん……。それじゃあ、お前達に信じてもらえそうな話でもしてみるか」
「へ? 何の話だど?」

 ジョウインとしての記憶が戻った俺は、ここにいるオクバと奥さんが知ってそうな話を探してみた。

「そうだ。お前達二人が結婚する時、俺が結婚式のスピーチをしたんだったな――」

 懐かしいな。あの時は確か――


〇 〇 〇


「えー、本日はお日柄も良く、結婚する二人には―― もういい。長い。我は長話が嫌いだ」
「ジョウイン公!? スピーチをぶった切らないでほしいど!?」


〇 〇 〇


「――なんてことがあったな」
「あの時はホントにビックリしたど! まだ挨拶も終わって―― いやいや!? なんでゼロラの旦那がこのことを知ってるど!?」
「ま、まさか……本当に……!?」

 今思い出しても我ながら酷いスピーチだったが、どうやらこれで理解してくれたらしい。

 オクバと奥さんはその場で見事な前転を決め、両手と頭を地面へとつけた。

「ジョ、ジョウイン公! あなた様は本当に、【伝説の魔王】ジョウイン公だどですね!?」
「ま、まさか生きておいででしたとは~!? どうかこれまでのご無礼をお許しください~!」

 そして俺への誠心誠意の謝罪。
 おそらく二人は土下座のつもりなのだろう。

 だが、足を上げる必要はない。それじゃ三点倒立だ。

「おっとーの真似するー」
「おっかーの真似するー」

 それを見ていたオクバの息子と娘も、両親と同じく三点倒立をする。

 オクバよ。子供には正しいことを教えておけ。

「とりあえず、二人とも元の姿勢に戻ってくれ。俺も今は"ゼロラ"というただの人間だ。もう【伝説の魔王】ジョウインはいない」

 俺は二人に事情を説明した。
 ジョウインとして死ぬ間際、ゼロラとして転生したこと。
 今は娘のミライと再会して、一緒に暮らしていること。

「――っと、いう訳だ。俺は今後も人間として生きていく。お前とは主従関係でなく、友人として付き合っていきたい」
「おでにはジョウイン公が生きていてくれたことが、何より嬉しいど! さらに、おでのことを友人だなんて……!」

 オクバを腕で目を押さえ、涙をこらえている。
 こいつは昔から忠誠心は高かったからな。いい部下を持っていたものだ。
 だが、もう俺とオクバに上下関係はない。

「また機会があったらミライも連れてくる。その時はお前の息子や娘とも遊ばせてやってくれ」
「も、もちろんだども! ミライ様にも会いたいど!」

 俺の願いに、オクバも笑顔で答えてくれた。
 ミライは人間の世界で生きていくことになるが、その体の半分には魔族としての血が流れている。
 オクバの子供はいい友達になるだろう。

「ジョウイン公――いえ、ゼロラ様。是非ともまた遊びに来てくださいね~。今度はお料理も用意しておきますから~」
「ああ、楽しみにしてるよ」

 オクバの奥さんにも見送られながら、俺はその場を後にした。

 俺にはまだまだやるべきことがある。
 かつての部下と昔話もしたいところだが、今は"一番会うべき相手"に先に会いに行こう――




「今度はブタの丸焼きを用意しておきますね~」
「おっかぁ!? おでに共食いさせる気ど!?」

 オクバの奥さん、意外と怖いな……。
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